15日、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」が衝突する事故が発生しました。
死亡された2名の方には謹んで弔意を表します。
この一連の報道について、やはりメディアによって情報の取捨選択、報道の仕方が様々であることがとても良くわかります。
一つのメディアからのみ情報を得ることの危険性も改めて感じます。
また、事実関係や整合性の確認ができていない段階で、あやふやな情報を「事実」であるかのごとく報道する姿勢も問題です。
その情報も、メディアの主義主張に合致するものは大々的に報道し、主義に合致しないものは取捨していくという恣意的な取捨選択にも注意が必要です。
今回の衝突事故のみならず、様々な報道についても、メディア相互の読み比べを行なって総合的な判断が求められます。
また、マスメディアには、事実関係の確認をきちんと取って、正しい事実のみを客観的に報道していただくことを望みます。
それでは、主な報道を概観してみましょう。
海自艦が追い越し横切る」男性客が証言
広島県大竹市の阿多田(あたた)島沖の海上で15日、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」が衝突した事故で、救助された釣り船の客が読売新聞の取材に「右後方から追い越してきた『おおすみ』が進路を横切る形で衝突した」と証言した。
海上衝突予防法は、追い越す船に衝突回避義務があると規定しており、第6管区海上保安本部は両船の航路などを慎重に調べる。
また、重体だった釣り客の無職大竹宏治さん(66)(広島市中区)が16日未明、搬送先の病院で死亡。事故による死者は2人目。同本部によると、大竹さんの死因は出血性ショックで、15日夜に死亡した船長の高森昶(きよし)さん(67)(同)は溺死だった。
(読売新聞 1月16日(木)14時56分配信)<kameno注>釣り船の釣り客一人の証言を元にメディアが描いた航行図です。
動いている船から見た相対的な位置関係から航行図を聞き取りながら起こしているわけですから、きちんと描かれている可能性は少ないでしょう。
それをあたかも読み手が「事実」と誤認するような図を描いて掲出するのは尚早でしょうし、適切ではなかったはずです。
広島県大竹市の阿多田(あたた)島沖で海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」が衝突し、2人が死亡した事故で、第6管区海上保安本部は16日、実況見分を始めた。とびうおの船体の右舷に傷痕を確認。おおすみの左舷中央部にも傷があり、とびうおのものとみられる塗料が付着していたことから、両船が側面衝突したとみている。とびうおが後方からおおすみに接近してきたとする新たな証言も出てきた。
阿多田島で養殖漁業を営む男性(40)は、自宅前の高台から事故直前の数分間に目撃した状況を語った。
15日午前8時ごろに東方向の沖合を見ると、左から右へ、南方に向かって航行するおおすみが見えた。おおすみの後方からは、左から右へやや島側に向かって来るとびうおも見えたという。汽笛が数回鳴り、おおすみは右回りに急旋回して停止。衝突していた。後方から現れたとびうおが、おおすみの陰に隠れたとし、男性は「とびうおの方が速く見えた」と明かす。
(朝日新聞2014年1月17日08時19分)<kameno注>この図も酷いですね。
貨物船がおおすみの前を横切る図が描かれています。
瀬戸内海は航行する船の航路が計測され記録されています。また、各船に搭載されているGPSを分析して検証する必要もあります。
その作業を待たずにこのような航行図を掲載することは意味がありません。
釣り船の釣り客の証言は、釣り船から見た相対的な目撃証言です。したがって、釣り船「とびうお」を直進航路とした場合は、上図のようになるでしょうし、輸送艦「おおすみ」が直線航路となる場合は、逆に釣り船「とびうお」が蛇行していたとも考えられる。しがたって、GPS航跡を元に分析しないと全く意味がありません。
上図が間違っている可能性が高い資料が次々と出てきました。
釣り船のGPS回収、航跡解析へ 自衛艦衝突事故
海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突し、2人が死亡した事故で、
第6管区海上保安本部(広島)は16日午後、転覆した釣り船を引き揚げ、
衛星利用測位システム(GPS)受信機や、周囲の船舶を確認するレーダーを回収した。
海自は既に、おおすみの航跡記録を提出。6管は釣り船の計器類を分析し、
事故に至った両船の経路を特定、事故原因の解明を目指す。
民間の測量大手「パスコ」(東京)によると、救助された釣り船の男性が
「船の前を横切った」と証言した貨物船の存在を裏付ける船舶の航跡記録がなかった。
(共同通信)
<kameno注>上記の貨物船は実際にはなかったようです。
それが事実なら、朝日新聞は重大な誤報ということになります。
さらに、航跡の速報が公開されました。
<kameno注>自衛隊の「おおすみ」は真っ直ぐ航行し、衝突直前に右に回避している様子が見えます。
そのご、ぐるぐると回っているのは釣り船との衝突後、救助作業等による航跡と考えられます。
これまでの航行図では、おおすみが蛇行していましたが、それを否定する航行記録です。
広島県の阿多田(あたた)島沖で海上自衛隊輸送艦「おおすみ」と釣り船「とびうお」が衝突、2人が死亡した事故で、「おおすみ」が衝突の頃、針路を右側へ切っていたことが、搭載していた船舶自動識別装置(AIS)の記録でわかった。
同じ頃に急減速しており、「おおすみ」が危険を回避しようとした可能性がある。
AISは3~4分ごとに船の位置や針路、速度などの情報を自動的に送受信する無線装置。複数のインターネットサイトがその記録を公開している。その一つ「マリントラフィック」の記録によると、「おおすみ」は15日早朝に海上自衛隊呉基地(広島県呉市)を出発し、宮島と能美島の海峡を過ぎたあたりから加速。午前7時58分には南へと直進し、速度は17・4ノット(時速約32キロ)だった。
( 読売新聞 1月17日(金)4時0分配信)
<kameno注>その後、読売新聞より、おおすみが衝突直前右方向に転換し危険回避行動をとっている可能性を指摘しています。
今後、漁船のGPS解析や様々な情報を分析した結果が公表されることでしょう。
注目するべきは、各メディアが今後どのように報道していくかということです。
もしくは、メディア側で情報の取捨選択を行い、続報をフェードアウトさせることもあるでしょう。
情報の受け手としては、メディアの主義主張に合致するものは大々的に報道し、主義に合致しないものは取捨していくという恣意的な取捨選択にも注意が必要です。
今回の衝突事故のみならず、様々な報道についても、メディア相互の読み比べを行なって総合的な判断が求められます。
また、マスメディアには、事実関係の確認をきちんと取って、正しい事実のみを客観的に報道していただくことを望みます。
今日も貨物船と漁船の衝突事故が発生し、2人の死亡者が出てしまいました。
海の事故は毎日のように起こっています。
その中で、メディアに載るものはごく一部です。
なぜ、その事故が取り上げられるのか、また、事故はなぜ取り上げられないのか、それを読み取る力がますます必要になっています。
和歌山沖で漁船2隻と貨物船衝突、男性2人死亡17日午前8時ごろ、和歌山県由良町白崎沖約3・2キロで、漁船2隻と貨物船が衝突、漁船は2隻とも転覆し3人が投げ出された。
和歌山海上保安部によると、漁船に乗っていた男性2人が死亡。漁船はいずれもシラス漁をしていたという。
(産経新聞 1月17日(金)11時31分配信 )
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