取捨選択ー報道の向こうに何が見えるか

今日の記事は、報道のタブーと不偏不党性の続きです。

昨日の大阪市長囲み取材の内容を報じる記事の一つを引用します。


5月8日登庁時市長囲み取材 橋下大阪市長 記者に“逆質問”繰り返す

大阪市の橋下徹市長は8日、記者団のぶら下がり取材で、大阪府が施行した君が代起立条例に関し起立斉唱の職務命令を出したのは誰かを問う“逆質問”を繰り返した。
「ここは議会とは違う。(記者も)僕の質問に答えるべきだ。答えなければ質問には答えない」と迫り、応じなければ取材拒否する考えを示した。
市長は、卒業式の君が代斉唱の際に教職員の口元を見て実際に歌っているかを確認していた校長に関する質問でヒートアップ。質問した記者に「答えられないならここに来るな。勉強してから来い」と、興奮を抑えられない様子で約30分間まくしたてた。 職務命令は府教委が出していた。
(配信元: 2012/05/08 毎日新聞)



橋下市長が取材記者の質問に全く答えず、逆質問を感情的に繰り返して、取材拒否をもちらつかせる、といった内容となっています。
この記事を読んだだけの読者は、何の疑問も感じずに、そんなことがあったのか・・・と感じるでしょう。

近年はインターネットが整備されたこともあり、そのバックボーンとなる囲み取材のやりとり全てを見ることも可能になりました。
大阪市により、その全体像が公開されていますので、まずはそのビデオ記録です。

この中で、約30分間の質問を行っている記者は、MBS毎日放送の記者であることが、このビデオ記録から分かります。

つまり、系列の記者によるぶら下がり取材の内容を系列新聞で記事にした内容が冒頭の記事です。

報道は、時間や字数の制約上、取材した内容全てを流すことは物理的に不可能です。
それを利用して、記者、報道会社が恣意的に取捨選択して報道として流すこともあります。

そこには、記者や報道会社に棄却された多くの情報が隠されているということを、私たちはよくよく知っておく必要があります。
冒頭の記事と内容を照らし合わせてみると、どのように報道が「造られていくのか」が分かります。

 


記者:起立・斉唱をひとつと捉えれば良いと思った学校関係者も多かったようですが。
市長:ん?起立・斉唱しなさいと小学生に言って立ってるだけで音楽の点数がもらえますか?
記者:あの、一律・・・
市長:まず、僕の質問に答えてもらって良いですか?
記者:いや、わたくしの方からお聞きするんですけど...。
市長:お聞きするんじゃなくてこの場は議会でもないので答弁の義務だけを負っているわけでは ないんですよ。どうですか?
記者:一律、歌わせるということまで強制することについてはいかがですか?
市長:教育委員会の決定なんです。起立・斉唱命令なんです。起立・斉唱命令という言葉の中に斉唱の命令は入っていないんですか?
記者:斉唱の命令は入っているとしまして一律に、歌わせるということまではどうですか? 
市長:起立斉唱の命令は誰が誰に出したんですか!?
記者:命令は出していますけど
市長:誰が出したんですか!?
記者:それは市長がよくご存知じゃないんですか?
市長:だから誰が出したんですか?事実確認が不十分な取材なんてとんでもない! 
市長:事実確認しっかりしてから質問して下さい!命令は誰が出したか言ってみてください。
記者:市長がご存知のことを私に尋ねてるだけですよね!それはおかしなことだとと思います!
市長:そんなことはないですよ。知らないのに質問なんかできないでしょ。
記者:知ってますよ!…中西教育長じゃないんですか?
市長:とんでもないですよ!もっと調べて下さいよ。教育長が命令を出せるんですか?
記者:教育委員長ということですか?
市長:委員長じゃないですよ!そんなことも知らずに取材なんかくるんじゃないですよ。
(中略)
記者:全く問題はないです。全く問題はないです。
市長:じゃ、何を聞きたいんですか?
記者:な、ど、ど、どういうこですか?
市長:問題ないなら、何を質問してるんですか?
記者:でも、アンケートでは口元チェックはすばらしいマネジメントではないと出てます。
市長:中原校長は教育委員会から与えられた裁量の範囲内で、起立斉唱というルールが守られているかチェックした。式も乱さず、本人に確認をとって報告した。完璧なマネジメントじゃないですか。じゃ、MBSには社内ルールはあるんですか?
記者:それはあるに決まってます。
市長:じゃ、それはチェックはしないの?
記者:時間のムダなので…。
(中略)
市長:こういう報道が誤った情報を伝えるから、中原校長は社会的に大変な状況に遭ってるんです。
記者:あ、そうなんですか?
(中略)
記者:じゃ、一番最後に聞きたかったことを。卒業式・入学式で教員が君が代を歌わなければならいのはなぜか?子供たちにわかるように。
市長:国歌だからですよ。式典だからですよ。「国歌斉唱」ってあるんですよ。じゃ、なんで式に国歌斉唱という儀式があるんですか?
記者:その答えは子供たちにはわかりにくいんでは。
市長:じゃ、ワールドカップなどでも国歌斉唱はいらないんですか?
記者:世界的に見て、公立学校で国歌を歌ってるのは多くはないそうですが。
(中略)
記者:先生に国歌を歌わせる理由を子供たちにわかるように言ってください。
市長:公務員だからですよ。市職員だって、職員任命式だって歌わせましたよ。きちんと日本国家のために働いてもらわないと困るんですから。法に基いて職務を全うする。それが公務員なんですから。
(中略)
記者:あの…ウッフッフッ…まあ、これぐらいにしときますけども(笑)
市長:なんですか、これぐらいにしときますって失礼な言い方は。吉本新喜劇でも、もう少し丁寧な対応しますよ。

 

このようなやり取りも、フィルターを通すとこのような記事になるという一例です。


橋下市長が記者に30分の「公開口撃」
大阪市の橋下徹市長(42)は8日、登庁時の記者団のぶら下がり取材で、大阪府が施行した君が代起立条例に関して“逆質問”を繰り返し、30分近く、まくしたてた。「ここは議会とは違う。対等の立場」「質問に答えなければ回答はしません」「答えられなければここへ来るな」などとヒートアップ。登庁時ぶら下がり取材の全時間、キレ続けた。また同日夕、府市統合本部の会議後に開いた会見でも、終了間際に橋下氏自らこの件を切り出し、約20分にわたり持論を展開した。
橋下市長が、登庁時のぶら下がり取材で、記者団の質問にキレた。重箱の隅をつつくように約30分、質問者を追及した。発端は、大阪府が施行した君が代起立条例での起立斉唱について、記者団から「(起立に加え)歌うことまで強制するのはおかしいのではないか」といった内容の質問が飛んだことだった。
橋下市長は、この中の「起立斉唱」の文言的な意味を取り上げ「この言葉の中に『立つ』だけしか入っていませんか? (ゆっくりと)起・立・斉・唱・命令です」と、質問の細部にこだわった。文言をめぐるやりとりが5分ほどあり、その間に質問しようとする当該記者を何度も制して「ここは議会とは違う。(記者も)僕の質問に答えるべきだ。答えなければ質問には答えない」などと迫った。
記者側が「歌う意味も入っている」と答えると、今度は「じゃ、誰が誰に命令しているんだ?」と詰問。代表を務める大阪維新の会は条例を提案したが、あくまでも教育委員会が決めたこととし、社員が社歌を歌うように「国民に強制しているのではない。(君が代は)公務員の社歌だ」と、再三にわたり説明した。橋下氏のブチギレの原因は、記者の質問を、君が代起立条例は橋下氏が“主導”しているようなニュアンスに、とらえたためとみられる。
暴走モードに入った橋下市長は「(質問に)答えられないならここに来るな」「何言ってんだよ」「不細工な取材するなよ」と、言葉を乱す場面も。橋下氏のぶら下がり取材は、市役所の公式ホームページから一般視聴も可能で、記者に対し「これ全部、後で放送するからいいけれども、自分でとんちんかんさが分かんないの?」とも言い、所属社を聞き出し「そんなとんちんかんな質問しながら採用されて…」と個人攻撃のような発言もあった。
取材の終わり際、記者が「今日はこれくらいに…」と言うと、橋下氏は「『今日はこれくらいにしときます』って、どうですか? 吉本の新喜劇でも、もっと丁寧な言い方しますよ」と、徹底的にかみついた。
さらに、夕方には府市統合本部の会議後に会見を開き、約10分で会見が終わりかけると「ちょっと、いいですか。昼間の話を…」。自ら切り出して「あの記者、帰ったんですか?」「また来させてくださいよ」と、当該社の別の記者に話し掛けていた。
(ニッカンスポーツ 2012/5/9)

 

なお、橋下市長に執拗に食い下がったこの記者は、MBSニュース番組 VOICE 5月11日放送で使用するための市長コメントを得るために記者会見に参加していたということです。
番組でどのように編集して使用されるのか、見ものです。

 


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投稿者: kameno 日時: 2012年5月 9日 10:54

コメント: 取捨選択ー報道の向こうに何が見えるか

ご無沙汰しております。

いつものように、お借りしました。

投稿者 Eibun Aki | 2012年5月10日 23:08

Akiさま
有難うございます

投稿者 kameno | 2012年5月11日 00:02

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