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2007年6月23日
環境にやさしいと思っていても、実はそうでなかった、ということはたくさんあります。
このブログにおいても、割り箸問題を考えたり、バイオ燃料の功罪を考えたりしてきました。
環境のカテゴリーもありますので、併せてご参照ください。
さて、今回は﹁紙﹂の問題について考えてみます。
日本の古紙回収率は、世界でトップクラスであり、例えば2004年の日本の古紙回収率は68.5%、古紙利用率は60.4%にも達します。
古新聞古雑誌?古紙の回収業者は昔からおなじみです。
日本は、旧来より着実に資源のリサイクルの仕組みを確立してきているのです。
さて、ここで問題です。
・古紙配合率100%の再生紙は本当に環境にやさしいのでしょうか?
・ケナフなど、非木材を原料とした紙は全てが環境にやさしいのでしょうか?
近年、官公庁が率先して環境にやさしいものを使わなければならない!ということで、グリーン購入法なるものが整備されてきました。
正確には、﹁国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律﹂︵平成十二年五月三十一日法律第百号︶というものです。
その目的を見ると、
グリーン購入法について
循環型社会の形成のためには、﹁再生品等の供給面の取組﹂に加え、﹁需要面からの取組が重要である﹂という観点から、平成12年5月に循環型社会形成推進基本法の個別法のひとつとして﹁国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律︵グリーン購入法︶﹂が制定されました。
同法は、国等の公的機関が率先して環境物品等︵環境負荷低減に資する製品・サービス︶の調達を推進するとともに、環境物品等に関する適切な情報提供を促進することにより、需要の転換を図り,持続的発展が可能な社会を構築を推進することを目指しています。また、国等の各機関の取組に関することのほか、地方公共団体、事業者及び国民の責務などについても定めています。
とあります。
それを具体的に示したのが
﹁環境物品等の調達の推進に関する基本方針﹂
︵平成16年3月・環境省総合環境政策局環境経済課グリーン購入担当︶
です。
その書類を見てみましょう。
2.紙 類
(1) 品目及び判断の基準等
︻情報用紙︼
コピー用紙 ︻判断の基準︼
?古紙配合率100%かつ白色度70%程度以下であること。
?塗工されているものについては、塗工量が両面で12g/?以下である
こと。
ふむふむ。
基本的にコピー用紙などは古紙配合率100%を使用することとなっていますね。
ご丁寧に、その基本方針書が印刷されている冊子の巻末にも
この印刷物は環境物品等の調達の推進等に関する法律︵グリーン購入法︶に基づく基本方針の判
断の基準を満足する古紙配合率100%、白色度70%程度以下の非塗工印刷用紙を使用しています
︵古紙は、新聞古紙等の市中回収用紙を100%原料として使用︶。
とあります。
さらに、グリーン購入法の特定調達物品に関する製品の情報サイト/グリーン購入ネットワーク のサイトの
﹁紙類﹂ 情報用紙 ︵コピー用紙、フォーム用紙、インクジェットカラープリンター用塗工紙、ジアゾ感光紙︶ の項を見てみると・・・
やはり古紙配合率100%の具体的製品がずらりとならんでいますね。
ところがです。
この古紙配合率100%は、必ずしも環境にはやさしくなく、むしろ環境負荷が大きいということが、今では一般常識になりつつあります。
実際に、製紙業界では古紙配合率100%の製品は、生産されなくなっています。
王子製紙のサイトを見てみましょう。
森のリサイクルの考え方
紙の原料となる木材は、再生産が可能な優れた資源である。森林資源は適正な管理と利用によって、二酸化炭素の吸収固定による地球温暖化防止と生物多様性の保全に貢献する。
一般に、古紙100%で紙を作ることは環境に良いと言われます。しかし、私たちの周りにある紙のすべてを回収することはできません。例えば、ティシュペーパーやトイレットペーパーは回収できません。また、回収した古紙の中には、品質的に利用できない汚れた紙や禁忌品もあり、それらすべてを紙に再生することも不可能です。そして、たとえ再利用が可能な古紙であっても、100%原料に再生できません。紙は植物繊維でできているので、繰り返し再生利用すると繊維が弱くなってしまい、短くなった繊維は紙に再生することができないのです。つまり、すべての紙製品を古紙だけで作り続けることはできないのです。
紙の生産における環境負荷は、原材料だけでなく、製造工程も含めた全体で評価する必要があります。
木材パルプから作られる紙と、古紙をリサイクルした紙では、製造工程が異なります。このためそれぞれを生産する場合のCO2排出量も同じではありません。木材から新しく製造される木材パルプは、製造工程で発生する黒液︵植物性廃液︶をバイオマス燃料として使用できるため、化石燃料の消費量を抑えられるという特徴があります。一方、古紙をリサイクルする場合は黒液の副生がないため、化石燃料を使用しなくてはならず、化石燃料の消費量は木材パルプのものより多くなります。
︵下線部kameno付記︶
日本製紙グループのサイトには、図入りでこのあたりのことが纏められていますので、ご参照下さい。
国も、このような考えがあるということをよく考えたうえで基準を作成した方がいいと思います。
いくらグリーン法で古紙配合率100%を推奨したとしても、その製品が環境配慮の観点から生産されておらず入手できないなんて滑稽な光景ですから。
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さて、もう一点のケナフなど非木材を原料とした紙について考えてみます。
同じく王子製紙のサイトには次のような記述があります。
ケナフなど、非木材を原料とした紙は、環境に優しいのか
近年、草やわら、バガス︵サトウキビの搾りかす︶、収穫のすんだバナナの木、ケナフなどの非木材原料が注目されています。こうした非木材原料は、もともとは紙の発祥であり、昔から紙の原料として使われています。しかし、近代になって﹁パルプ製造方法の改革﹂﹁生産工程における省エネルギー﹂﹁高品質の追求﹂などから、マスプロダクションに進み、原材料の量的な確保の面などから、非木材は原料としてふさわしくなくなってしまいました。
非木材原料のなかで特にケナフについては、各方面からその優れたCO2吸収能力が環境改善植物として推奨されています。しかしケナフの利用には数多くの問題も残っています。
それは、現在のパルプ化方法では使用しにくいこと、植え付け、収穫、貯蔵、運搬などにかかる労働負荷や環境負荷が、木材よりかなり悪くなることなどです。
ケナフは一年生草です。そのため毎年の植え付けと、刈り取り作業が必要です。例えば、王子製紙グループで計画している30万ヘクタール︵淡路島の5倍︶の植林に相当するケナフ畑を想定した場合、植え付けや刈り取りは、想像を絶する作業になってしまいます。また、ケナフは一年生草であるため、1年分の原料を一時期に収穫するわけですが、大変嵩高なために、マスプロダクションの工場で使用するには、運搬するための燃料や保管方法など、多くの困難な問題が発生します。さらに木材原料との混合パルプ化についても技術的にはむずかしいものがあります。
一部の途上国では、その地域の原料事情ゆえに非木材100%でパルプの製造を行っていますが、そこでは人件費が安く、品質要求レベルも高くなく、小規模の工場であるためにそうした生産が可能になっています。ちなみに工場規模が小さいほど、エネルギー効率や環境負荷の原単位は悪くなります。野原に草がむだに放置されていても、残念ながら直ちにそれが紙の原料に結びつけられるものではないのです。なお現在、わたし達の植林事業では成長の早い樹種を選定して植林するため、単位面積あたりのCO2吸収量はケナフと遜色ない程度になっており、ケナフを利用する理由がないと判断しています。
︵下線部kameno付記︶
ケナフは、20世紀半ばにアメリカ農務省が製紙原料として木材に代わる最適な非木材資源として紹介したことにより、熱帯林の森林伐採を食い止める画期的な紙の原料として注目されるようになりました。
また、ケナフは、アオイ科の一年草で、成長が早く、丈夫で繁殖力が強いことから、それだけ二酸化炭素の吸収もよく、地球温暖化防止にも役立つというので、環境教育に導入し、多くの学校で栽培されるようになりました。
しかしながら、ケナフの植栽は、必ずしも手放しに讃美できるものでは無いようです。
まず、第一に、日本でケナフを栽培することは、外来種を日本に持ち込むことにより、在来の生態系を乱すことになりかねません。
また、日本以外の国でケナフから紙をつくる場合においても、一連の生産プロセスをLCA︵ライフサイクルアセスメント︶評価すると、木材パルプの生産より炭酸ガスの環境負荷が高いとの報告もあります。
ケナフから紙をつくる場合、栽培のための化学肥料の使用、生産過程での化石燃料の使用、輸送、廃水処理など、大きな生産エネルギーを必要とするのです。
また、炭酸ガスの吸収についても、ケナフは1年草ですから、樹木のように長期間にわたって炭酸ガスを蓄えることができず、しかも枯れた段階で炭酸ガスを空気中に放出してしまい、温暖化防止効果はあまり見込めないという考えもあります。
このように、手放しに讃美できない多くの要素が存在するのです。
しかも、生産コストは木材パルプに比較して高いことは間違いありません。
わざわざ高いお金を出して、環境に必ずしも良いとは言えない製品を使用する理由はないでしょう。
ケナフの導入には慎重にしたほうが良いと思います。
ケナフを、日本において環境問題を考える教材に供するのであれば、昔から日本にある、わら半紙とか、麻とか、ヨシなどを使ったほうが、よほど良いと思うのです。
そういえば、昔あれだけたくさん巷にあふれていたわら半紙、最近はめっきり見なくなりましたね。
やはり白色度の高い紙が好まれるのでしょうか。
︵もしくはパソコンのプリンタ用紙やコピー用紙としては適さないからでしょうか︶
前半で、国の基準について書きましたが、人のことも言っていられないです。
なぜなら、私たちの身近なところでも、何となく環境にやさしそうだという理由で、古紙配合率100%やケナフによる紙製品を推奨して積極的に使ってしまっているからです。
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結論︵1︶
3R︵リデュース・リユース・リサイクル︶の中で、環境的に、地球にやさしいと言えるのは、リデュース︵減量︶だけです。
まずは使用する紙自体を減量することしか抜本的方策はありません。
結論︵2︶
紙の原料のうち、木材パルプについては、
環境的持続可能性︵生物多様性の維持、生態的プロセスや生態系の保全︶、
社会的持続可能性︵森林に依存している人間社会の維持︶、
経済的持続可能性︵継続的な木材生産と健全な森林経営︶
などを念頭において生産されることが必要であり、また、紙の使用目的に応じて、それぞれの古紙の配合率を考え、その中で全体として古紙配合率を高める︵決して100%ではない︶ことこそが、環境にやさしい紙であると言うことができるでしょう。
環境問題もいろいろな角度から見ていくことが大切ですね。
いろいろ勉強になりました。
投稿者 ぜん | 2007年6月23日 22:06