良夜

風の道・・・つれづれに・・・



 第30回 良夜

 「良夜」とは、秋の満月の夜のことをいう。鈴虫の声が響く空間に、青くやさしい光が満ち、えもいわれぬ情緒が漂う。

 しかし、満月はいつまでもそのままではない。月は刻々と姿を変えていく。漆黒の新月から、三日月、上弦の月、満月へと自らの姿を変え、そしてまた満月から、下弦の月、三日月、新月へと、再び漆黒に回帰していく。  それは、まるで、私たちの生きる道筋をあらわしているかのようである。

 生まれ、成長し、生の充足感に満ち、老い、病んで、死んでいく私たちの生命の歩みを、月は夜空に描いているのだ。  生老病死の苦しみからの解脱を説いた釈尊がさとりを開いたのが、満月の夜であったという。象徴的なことである。

 生老病死は、私たちの生の事実である。それを避けるのではなく、むしろ生老病死に従い、それをハタラキとして享受していくことを、釈尊は示したのである。

 月は姿を変えていくが、それを少しも悲しむことなく、いつも同じ明るさで私たちを照らしているではないか。  そして、私たちも月のように、従容と悲しむことなく生老病死を受け容れ、同じ心持ちで生きたいものである。

 秋の良夜、夜空を見上げてみよう。きっと満月が、青くやさしい光で、あなたを包むに違いないのである。


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