永野郷土史 巻頭のことば

巻頭のことば 
永野郷土誌編纂委員長 亀野寛量 (貞昌院第29代住職)

 

今から二十年前頃の永野地域は、巻頭に掲げた航空写真昭和二十七年撮影の、永野全景に見られる様に、殆んど、全面山林地帯で、丘陵の間の平地に田畑と民家が散在し、山には狐、狸、(たぬき)、狢(むじな)等が棲息し、馬洗川 (永谷川)の清流には、鮒、めだか列をなして泳ぐさまが手に取るように見られ、夏は子供の遊泳場となり、田圃には 泥鰭(どじょう)、蛙、夏の夜には螢が飛び交い、麦畑には、ひばりが囀る風景でした。昭和四十六年撮影の航空写真 に見られる通り、今や既に馬洗川を境に、西北部一帯は人家で埋め尽くされ、東南部一帯も宅地造成が急速に進展し、昔ながらの豊かな自然環境は、丸山地帯に地下鉄の駅と車庫が建設される計画の実現と相まって、更に大きく大変革を来そうとしている。親しみ深いあの家、この谷、やがて消えゆく運命をたどっています。
大きく変化する姿の中にある、郷土の歴史の尊い資料、文献、伝説等このまま埋もれさせるに忍びない。
玄に永野連合町内自治会が主体となって、地元古老の方々を始め多くの方から、激励と貴重な資料を寄せられ、それらを集録して、永野郷土誌発刊の運びとなりました。今回の発刊は前編或は第一巻とでも申しましょうか、之を契機として、更に尚多くの埋もれているであろうところの資料が蒐集され、今回の短を補ない、より良き郷土誌が、続編されることを期待し、念願して止まない次第であります。
昭和47年8月


発刊を祝って
神奈川県知事 津田文吾                      

 

 「温故知新」ということばがありますが、歴史を顧みることは、人生にとっても、また社会の発展という広い視野 からも、まことに意味深いものがあります。歴史は常に現代に教訓を与え、将来の指針を暗示しているといえると思います。
昨今の時代の推移はまことに急で、かつての十年が今日の一年にも相当するほど、めまぐるしく諸情勢が移り変わっ ておりますが、こうした時こそ、お互いが心して常に問題意識をもち将来にわたってあやまりのないよう期さなければならないと存じます。
戦後二十数年のわが国の歩みを振り返ってみても、終戦の混乱の中で食糧難にあえいだころ、国土の復興に努力した 時代、そして一応の経済繁栄をなしとげたものの公害や自然の破壊に悩んでいる今日、というような分類もできると思いますが、この過程でも国民が国土の復興という一つの目的に向かって総力を結集した結果、世界に例を見ないめざましい経済発展をなしとげたという教訓と、余りにも経済優先に走り過ぎたため思わぬ弊害を招いたという反省点が見い出せると思います。
今日こうした経済優先のいき方に反省が加わり、国の施策も人間尊重を基盤にした福祉国家建設の方向に大きく転換しつつあり、こうした意味では現在は、わが国の将来を左右する一つの重要な岐路に立っていると思います。このときにあたり国民が心を一つにして良識を盛りあげ、よりよい発展に力を傾注することが強く望まれますが、その基盤となるものは各地方であり、それぞれの地域社会であります。
今日の神奈川県は、全国一の人口増加を続け、人の交洗が激しくなる中で、かっての暖かな人間関係で結ばれていた県民相互のきずなも、ややもすればゆるみがちになり、また古来からの美しい自然や貴重な文化財なども急激な都市化の彼の中で危機にひんしております。県では、こうした事態を何とかして食い止め、人と自然の調和した神奈川県本来の美しく豊かな県土を実現したいと努力しております。
このような意味で、このたび永野地区連合町内自治会と、永野郷土誌編纂委員の方々でまとめあげられた「永野郷土誌」は、地域の人々の郷土に対する認識と愛着を一層深め、今後の地元の発展のよき礎になるものと信じます。
ここに本誌の編纂にあたられた関係各位の御努力に深く敬意を表しますとともに、永野地区のよりよきご発展を祈念 して、発刊を祝うことばといたします。


永野郷土誌刊行を祝う
横浜市長  飛鳥田一雄

 

すでに人口240万人を超えた横浜市が、さらに衰勢を見せない増加によって急速に都市化する傾向は全国にその例を見ない程激しいものがあります。
その中で私は、近代的な国際文化管理都市形成への努力と共に、一方では私たちが祖先から受け継いだ文化的諸遺産の保存継承との調和こそ重要な問題だと考えます。
当の永野地区は緑の丘陵に囲まれた閑静な地域で、鎌倉街道添いにあたるところから歴史の跡を留める種々な事物が、皆さんのご理解の中に守られて来たのでありますが、近時に至ってこの地域の開発はめざましいものがあり、この地の縁起由来を知らない人々が次々と移り住んで来ております。
こうした意味からも綿密な記録保存が郷土を愛し、祖先の文化的遺産を子々孫々に伝え残すうえに貴重な仕事だと思います。
口から口へと伝えられてきた話、あるいは昔この土地で起った出来ごとが文字や写真になり、この郷土誌として誕生しますことは大きな意義があると存じます。
ご尽力なさつた連合町内会、郷土誌編纂委員会の方々に深く敬意を表しまして刊行をお喜びする次第です。


 


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