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最近、「墓じまい」という用語を用いた報道が目立つようになりました。
一例では、朝のテレビ番組「モーニングショー」で先月から今月にかけて毎週のように特集されていたので、視聴された方も多いと思います。
そこでの放送内容の一部について、番組公式 X(Twitter)で内容の一部が公開されています。
まずは↓こちらをご覧ください
9/25放送「増加する墓じまい 利用者に大きな負担...高額請求も」
当該の放送は生放送であり、放送時間の時間も限られていたという理由もあるのでしょうが、誤解を生みそうな部分もありましたので、そのあたりを確認、検証していきましょう。
さて、ここで、まず用語の整理をします。
「墓じまい」という用語は、メディアが造り出し、なぜかメディアが好んで使う用語です。
この「墓じまい」について、人によって解釈が異なると、誤解を招く原因となります。
もっと言えば、「墓じまい」という用語について明確でない状態で報道が行われると、その情報を受け取る側によって異なる認識が生じることになります。
まず、「墓じまい(本来は改葬というべき)」するためには、現在、自分が「墓地」の使用者であることが前提となります。
墓地を持っていなければ「改葬(墓じまい)」が出来ないですから。
とすれば、「改葬(墓じまい)」の事例種別は下記のいずれかにあたるはずです。
■現在、当事者が使用している墓地の種別として
(1)寺院など宗教法人の墓地
(2)公営墓地
(3)民間墓地
(4)自己所有土地の墓地
(5)上記以外の土地の墓地
その墓地をどうするか、ということになりますが、
(ア)同じ墓所の別の区画に移す (例:寺院の墓地を同じ寺院内の別区画や永代供養墓地へ)
(イ)別の墓所に移す (例:寺院→民間霊園、逆に民間霊園→寺院 など)
(ウ)墓そのものはもう作らない (例:今の墓地を返還→海洋散骨)
などのように(1)~(5)の墓地を(ア)~(ウ)のようにする、といった様々な組み合わせの事例が考えられます。
「墓じまい」の定義を
「現在の墓地を更地にして墓地管理者に返還する」
という条件だけでとらえる場合もあるでしょう。
その場合は、墓地の引っ越し、つまり「改葬」という行為にあたります。
また、もう少し定義を厳密にして
「現在有る墓地の後継者が居ないため、自分の代以降は墓地を守る人無く無縁化してしまう。そのため墓地を自分が生前の間に永代供養墓地等に改葬し、現在の墓地を更地にして墓地管理者に返還し、今後は墓地を作らない」
を定義として捉える場合もあるでしょう。
この場合においても、これまでの墓地から埋蔵されている御遺骨を移動するわけですから「改葬」にあたります。
「墓じまい」という用語の定義が定まっていない状態でマスメディアが情報を発信すると、受け手(視聴者や読者)は混乱します。
私は、わざわざ「墓じまい」などという用語を用いずに、従来から使われている「改葬」という用語を用いて、事例ごとに対処していくことが適切だと考えます。
なぜならば、上記すべての事例は「改葬」に内包されるからです。
このことを前提として 朝のテレビ番組「モーニングショー」9/25放送「増加する墓じまい 利用者に大きな負担...高額請求も」公式X を見ていきます。
墓じまいなどで遺骨を別の場所に移す改葬は、 ●2011年度は、7万6662件だったのが、 ●2021年度には、11万8975件と、10年で55%増加しています。 |
まず、この折れ線グラフのタイトルが適切ではありません。
折れ線グラフの値は「改葬事例の全数」であることが注意すべき点です。 よって、グラフのタイトルは「改葬事例全数の推移」とすべきでしょう。
元データである厚労省の衛生行政報告書における正式なタイトルは「埋葬及び火葬の死体・死胎数並びに改葬数」のうちの「改葬数」のデータであり、当該調査には「墓じまい」などという用語は出てきません。
さらに、例えば折れ線グラフの2021年 11万8975件はすべての「改葬」事例の全数であり、そのうち、「無縁墳墓等の改葬」は3309件(改葬事例全数のうちの2.8%)であるということが隠されています。他の年も同様です。
次に、この手のグラフを見る際に、注意しなければならないのは、比較的小さな変化を、重大な変化であるという印象に作り替える演出が為されているということです。
いわゆる「誤解を与える統計グラフ」というもので、Y軸の最大値12万件に対して、Y軸の0~7万件を端折って省略しているのは、あまりにも演出過剰といえます。
なお、日本の2011年の死亡者数は125万6254人で、2021年の死亡数は143万9856人でした。 毎年の死亡者数は年々増加しており、ほぼ死亡者=埋葬者とすると、改葬事例の増加幅は、別に取り立て参照すべき増加幅ではないともいえます。
メディア側による「墓じまいが近年急激に増えている」という印象操作と言われても仕方がない演出ですね。
改葬・墓じまいにかかった期間です。 ●1年以上かかったという人が、18%、 ●1年未満が11.9%、 ●3カ月未満が42.3%、 ●1カ月未満が27.7%でした。 |
改葬と墓じまいが同列に書かれていますが、この場合の墓じまいの定義は何でしょうか?
単に「改葬にかかった期間」で良いのではないでしょうか。
墓じまいの一般的な流れです。 ①親族での話し合い。 ②お寺や霊園に墓じまいを伝える。 ③新しい納骨先を決める。 ④墓石撤去を依頼する石材店を決める。 ⑤改葬許可申請の手続きを行う。 ⑥閉眼供養を行う。 ⑦遺骨の取り出し、墓石の撤去を行う。 ⑧改葬先に遺骨を納める。 |
ついに一行目の「改葬」という言葉が無くなってしまいました。
これも、墓じまいの一般的な流れではなく、「改葬の一般的な流れ」とすべきでしょう。
60代男性です。 「3年前に公営墓地の墓じまいを決断した。所有者を調べたら、亡くなった祖父のままだった。 所有者の変更のため、火葬証明や、血縁者の同意を貰うなどで、愛知から大阪に10数回通って半年ほどかかった」 |
公営墓地から定期的な連絡は無かったのでしょうか?
例えば墓地清掃ですとか、管理費や、様々なお知らせが郵送されているはずです。
墓地管理者が管理する名簿において、墓地区画の代表者が「故人名」のまま残っているというのは、その墓地を管理している市町村の墓地管理事務所も管理状況がずさんであった可能性もありますし、墓地使用者側にも連絡の不備があった可能性があります。
墓じまいにかかった費用です。 ある調査によると、 一番多かったのは『10万円~30万円未満』 次に多かったのは『10万円以下』と 『50万円~100万円未満』でした。 |
2つ上と同じ。
墓じまいにかかった費用ではなく、「改葬にかかった費用」とすべきです。
墓じまいで、どういう費用がかかるのでしょうか。 |
上と同じ。
墓じまいにかかった費用ではなく、「改葬にかかった費用」とすべきです。
ここで、離檀料という、またもや一般的ではない用語が出てきました。
さらに、「お墓がお寺にある場合は、離檀料が10万円~20万円です。」とありますが、何を根拠にした数字なのか不明です。
少なくとも貞昌院では「離檀料」はありませんし、周囲の寺院でも離檀料そのものが無い寺院も多いので、離檀料10万円~20万円が常識であるというのは明らかに誤った情報です。
これまで先祖代々がお世話になった感謝のお気持ちとして布施をお納めくださる場合がありますがこれは離檀料とは全く異なるものです。
このような印象付けは、マスメディアとして如何でしょうか。
新しい納骨先で新たに墓を買う場合は、永代供養墓、樹木葬、納骨堂などの費用が、5万円~100万円です。 納骨先によって変わってきます。 開眼供養のお布施の相場は、3万円~10万円。 墓を購入せず、手元供養や散骨を選ぶ場合は、数千円~50万円です。 |
寺院に墓地がある、公営霊園に墓地がある、民間霊園に墓地がある、いずれの場合でも、改葬のためには費用がかかります。
単に「現在有るお墓を維持することは費用がかかるので大変」という理由で安易に改葬を考えるのであれば、よくよく冷静に考えることが必要です。
例えば、今ある永代使用権のある墓地を返還してしまった場合、ご自身をふくめ以降無くなられた方の埋葬1人ごとに「永代供養墓、樹木葬、納骨堂の場合5~100万円」「手元供養・散骨の場合数千円~50万円」が必要になります(番組で使われた上記図参照)。これでは本末転倒です。
ですので、このような墓地に関するさまざまな疑問質問があれば、どんなことでも構いません。
墓地管理者(寺院の墓地であれば菩提寺に、霊園であれば墓地管理事務所等)早いうちにご相談いただくことをお勧めします。
番組に届いたご意見です。 「墓には親族7人の骨が入っているが、私も姉も家を出ているので、寺に相談に行くと、墓じまいには1柱100万円、つまり7人分の700万円プラス更地にする経費などもあり、とても無理。 不本意だが放っておくしかない」 |
これは、双方に何らかの誤解が生じているか、あるいは何らかの間違いではないでしょうか。
1柱100万円、つまり7人分の700万円プラス更地にする経費などということは考えられません。
もしそのような事例があるのであれば、墓地管理者名を明確にしたうえで、仏教寺院であれば各宗派の本部に通告するべき案件です。
メディアは、視聴者からの意見をそのまま垂れ流しするのではなく、きちんと裏どりや事実確認をしたうえで報道するべきです。
「墓じまいをした。寺からは永代供養1柱100万円と言われ、会ったこともない檀家さんのまとめ役に『菓子折りと5万円ぐらい渡してください』と言われた」 |
どのような手順で改葬(墓じまい)を行ったのかがよくわかりません。
永代供養ということは、寺院に対して施主に代わって故人をその後永代にわたり供養することなのでしょうか。
寺院との話し合いを密にして、どのような永代供養なのかを明確にする必要がありそうです。
1つ上の事例と同様、メディアは、視聴者からの意見をそのまま垂れ流しするのではなく、きちんと裏どりや事実確認をしたうえで報道するべきです。
曹洞宗見性院の橋本住職です。 「一般的に離檀料は10万~30万円ほど。墓じまいされると、檀家が減りお布施収入が少なくなるため、『最後の一稼ぎ』をしようとしているのではないか」 |
時代の変革に応じて柔軟な寺院運営をされるとして有名な寺院の住職さんがコメンテーターとして発言していました。
ただ、『最後の一稼ぎ』ということばは(番組から言わされたのかもしれないですが)適切ではなかったという感じがします。
中段にも書きましたが、「離檀料が 10万円~30万円 というのが一般的」ということはありません。
統計データがあるのであればデータを示して戴きたいものです。
なお、これまで先祖代々がお世話になった感謝のお気持ちとして布施をお納めくださる場合がありますがこれは離檀料とは全く異なるものです。