« 今年の冬もいっそうの節電を | 最新記事 | 晩秋のイチョウとオリオン »
国家機密の漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法案は5日午後、参院国家安全保障特別委員会で自民、公明両党の賛成多数で可決された。民主党などは慎重審議を求めたが、自民、公明両党は採決を強行した。(毎日新聞 12月5日(木)16時15分)
特定秘密保護法案が、11月26日の衆議院での可決に続き、本日参議院国家安全保障特別委員会で可決されました。
ユーストリームの中継で見ていましたが、最後の審議で、自民党から採決の動議が出され、議長が「賛成する者の起立」を求めたところ、野党全員が(議長に抗議するために)立ち上がり、結果的に会場内全員起立のため賛成多数で可決されました。
(映像は採決の様子。野党議員も起立してしまっている。:中継Ustreamより)
特定秘密保護法案については、大手新聞各社によって、賛否が大きく分かれています。
衆議院での通過を受けた翌朝の各紙の社説は以下の通りです。
特定秘密保護法案の衆院可決を受けた社説(2013年11月27日)
■産経新聞・・・ 成立に向け大きな前進だ
■読売新聞・・・ 指定対象絞り「原則公開」確実に
■朝日新聞・・・ 民意おそれぬ力の採決
■毎日新聞・・・ 民主主義の土台壊すな
■日経新聞・・・ 秘密保護法案の採決強行は許されない
■東京新聞・・・ 国民軽視の強行突破だ
実にわかりやすい色分けですね。
ちなみに、朝日新聞で「特定秘密保護法案」について一般閲覧者を対象としたアンケートを実施しています。
朝日新聞のサイトで「特定秘密保護法案に賛成」「日本の安全が脅かされている」に大多数の意見が集中していることも興味深い事実です。
さて、特定秘密保護法案のきっかけとなった一つの事象として、2010年に起こった尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件がありました。
当時の大手新聞各紙の社説を、ガジェット通信で纏められています。
その論調を現在の社説と比較すると、とても興味深いです。
(以下の表は ガジェット通信 より引用しています。kamenoにより赤文字化)
尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件を受けた社説(2010年11月6日)
朝日新聞:尖閣ビデオ流出――冷徹、慎重に対処せよ 政府の情報管理は、たががはずれているのではないか。(中略)流出したビデオを単なる捜査資料と考えるのは誤りだ。その取り扱いは、日中外交や内政の行方を左右しかねない高度に政治的な案件である。それが政府の意に反し、誰でも容易に視聴できる形でネットに流れたことには、驚くほかない。(中略)仮に非公開の方針に批判的な捜査機関の何者かが流出させたのだとしたら、政府や国会の意思に反する行為であり、許されない。 |
毎日新聞:尖閣ビデオ流出 統治能力の欠如を憂う 漏えいを許したことは政府の危機管理のずさんさと情報管理能力の欠如を露呈するものである。(中略)この政権の危機管理はどうなっているのか。(中略)国家公務員が政権の方針と国会の判断に公然と異を唱えた「倒閣運動」でもある。由々しき事態である。厳正な調査が必要だ。 |
北海道新聞:尖閣ビデオ 流出は誰が、何の目的で まず突き止めなければならないのは、映像の出どころだ。(中略)問題は政府の情報管理のずさんさである。(中略)一定の期間は非公開としても、本来は国民に開示すべき情報だ。いつ、どのように開示するのか、政府があいまいなままにしてきた結果が今回の事態を招いたとも言えよう。(中略)あるいは流出の裏に、日中関係の修復に水を差そうとする意図があったのだろうか。ゆゆしき問題である。 |
産経新聞:尖閣ビデオ流出 政府の対中弱腰が元凶だ 一部の公務員が、自らの判断で映像を流出させたのならば、官僚の倫理欠如を示すゆゆしき事態である。(中略)何より最大の問題は、菅直人政権が、国民の「知る権利」を無視して、衝突事件のビデオ映像を一部の国会議員だけに、しかも編集済みのわずか6分50秒の映像しか公開しなかった点にある。(中略)遅きに失したとはいえ、菅首相は国民に伝えるべき情報を隠蔽(いんぺい)した非を率直に認め、一刻も早くビデオ映像すべての公開に踏み切るべきだ。 |
琉球新報:衝突映像流出 なぜ公開できないのか 不可解なのは事ここに至るまで、衝突事件のビデオ映像を一般に公開してこなかったことだ。(中略)映像を公開することは公益を守る観点から是認されるはずだ。(中略)政府が真っ先になすべきなのは、この間の対応のまずさを深く反省し、海上保安庁が撮影したビデオ映像をすべて国民に公表することではないか。同時に、映像漏出の原因を突き止め、再発防止を図るべきだ。 |
読売新聞:尖閣ビデオ流出 一般公開避けた政府の責任だ 政府内部から持ち出された疑いが濃厚で、極めて遺憾な事態である。(中略)政府または国会の判断で、もっと早く一般公開すべきだった。(中略)これでは海外から「情報管理がずさんな国」とみられ、防衛やテロなどの情報収集に支障が出かねない。(中略)再発防止に向け、重要情報の管理を厳格にしなければならない。 |
沖縄タイムス:[尖閣ビデオ流出]一体どうなってるんだ 13日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が迫る中の最悪のタイミングで2件も立て続けに起きた情報漏洩(ろうえい)事件だ。国際社会がテロへの警戒を強めているときに、日本に極秘情報を提供すると外部へ漏れてしまう、と思われては安全保障上の深刻なダメージとなる。(中略)もはや秘匿する理由はなく、早い段階で事件映像を公開し、国民と情報を共有すべきだ。(中略)政府は危機感を持って一刻も早く流出事件の真相を明らかにすべきだ。 |
東京新聞:尖閣ビデオ 政府対応が招いた流出 映像流出は真相にふたをした事件の幕引きに反発する政府関係者が、かかわっている可能性が高い。捜査資料の流出は遺憾だが、それを招いたのは政府の混乱した事件への対応ではないか。 |
北國新聞:「尖閣ビデオ」流出 政府の二重、三重の失態 ビデオ映像が、インターネット上に流出したことは、菅内閣の二重、三重の失態と言わざるを得ない。国家主権にかかわる漁船衝突事件のビデオは本来、政府が一般公開に踏み切ってしかるべきであったが、出所不明の「ネット上の公開」という事態を許し、事件の処理と対中外交の立て直しを一層難しくしてしまった。(中略)対外的な配慮から公にしない重要な「外交機密」でもある捜査情報が、簡単に漏えいするのは国家として由々しいことである。 |
ガジェット通信でも指摘しているとおり、わずか3年の間に、これだけ論調が変わってしまっています。
朝日新聞、毎日新聞、北海道新聞は、政府の情報管理のずさんさを「高度に政治的な案件」「危機管理」といった表現を用いて厳しく批判しています。
安全保障に関する重要な情報を守ることが基本だとしているのです。
この3年間の論点の転換は、民主党政権から自民党政権へ政権交代により、また情報管理の対象となる案件が中国向けの案件なのか、そうでないかということによって論調が転換しているともいえます。
以前、報道機関は不偏不党であるべきかというブログ記事を書いた際には、多くのメディアがそれぞれの主義・主張をもち、情報を発信していくことにより、結果的には、総体による不偏不党が実現でき、いわゆる、偏りのるつぼという状態が、逆に「不偏不党」を生みだすとまとめました。
しかし、マスメディアが、事象によってコロコロと論調を変えてしまうようでは、そのメディアの信憑性にも疑問を持たざるを得ません。
きちんと国民目線でしっかりとした報道をして欲しいものだと思います。
また、情報の受け手は、その様々な主張を含んだ情報を、自分の意志で「偏り」を承知した上で受け取ることが大切です。
多角的な視点から一つの事象を知ることができ、総合的に判断すること、さらに個人が一度選んだメディアを、取捨選択しながら、自分の意見を形成することができるからです。
特定秘密保護法案の参議院国家安全保障特別委員会可決を受けた、明朝の大手新聞各社社説の読み比べが楽しみです。
■関連ブログ記事