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2024年10月25日
コラム連載企画︵2︶ ※↑たて書きで読む 推奨
伝統とは ~時代や環境の変化に即応して変わり続けるもの~
概説
伝統とは、過去から伝承されてきたものを、そのまま全く同じ形で受継いでいくものではなく、その時代や環境の変化に即応して変化するものです。これは仏教のもつ寛容性にも通じるところがあります。伝統は地域社会に根ざしその地域の風習を取り入れながら時代とともに変わり続けていくものなのです。
今回は仏教やお寺についてのイメージについてよく語られる﹁伝統﹂について考えてみます。
伝統とは何か、を言葉で表現することは難しいことですが、辞書で調べると伝統とは﹁ある集団・社会において,歴史的に形成・蓄積され,世代をこえて受け継がれた精神的・文化的遺産や慣習。﹂︵大辞林 第三版︶とあります。
しかし、伝統は古い内容をそのまま旧態依然、変化なくそのまま受け継がれるのではなく、実際に私たちが伝統的であると思っている事象は、意外にも歴史の浅いものが多いのです。
冠婚葬祭の衣装を例に挙げると、今では黒い衣装は葬儀、白い衣装は結婚式という固定概念がありますが、歴史を紐解いてみると昭和初期までは葬儀の際には白い装束が普通でした。葬儀の際の衣装が黒になったのは戦後急速に普及した洋装によるものだとされています。
また、結婚式の衣装は昭和初期までは黒地を基調とした和服が普通でした。今の葬式が黒、結婚式が白という概念はわずか数十年の間に逆転して根付いたものです。
葬儀の例に関連して葬送儀礼についても言及すると、昭和初期までは日本の埋葬文化は土葬がその中心を為していました。火葬が普及し始めたのは戦後です。昭和四〇年に火葬は約三割ほど。このあたりから墓地の形態が土葬による埋蔵から火葬の埋骨へと大きく変化しました。
ほんの一例を挙げましたが、伝統的と思われていることが如何に歴史が浅く、短期間の間に形成されたものであるか分かると思います。
日本人は特に世界の中で慣習、文化を変化させることに寛容であると感じます。
それは、日本文化の根底に根付いている仏教の寛容性にも通じることがありそうです。
インドで生まれた仏教は世界各地に全くといって良いほど異なった形で伝わっています。伽藍の建築様式、儀礼の内容、葬儀、埋葬の仕方、墓地の形式などは狭い日本の中の同じ宗派であっても地方によって多種多様です。それが仏教の寛容性です。仏教が伝統的であるという場合、それは決して﹁頑なに旧来の伝統をきっちり守る﹂﹁変化しない﹂という意味ではありません。
英国の歴史研究家エリック・ホブズボームは、﹁伝統は創造されるものである﹂ことを主張しました。﹁伝統﹂は昔から受け継がれてきたものと考えられているが、実際は違い﹁伝統とされるものの多くは近年になって創り出された﹂のだとする考え方です。
つまり、伝統とはこれまで伝えられてきたものを、そのまま受継いでいくものではなく、その時代や環境の変化に即応して変化する性質のものであるということなのです。その臨機応変かつそれを受け容れる寛容こそが永い歴史を生き抜く力となり、ある事柄が伝承され残されるための必要な命題であると考えます。
伝統とは地域社会に根ざしその時代とともに変わり続けていくものなのです。今、私たちの生活で規範とし常識とされていることは、数十年も経たないうちに全く異なるものへと変化していることでしょう。
■コラム連載企画︵1︶