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2014年7月15日
東京電力福島第一原子力発電の事故以来、日本のエネルギー政策、特に原子力発電についての政策は重要な課題となっています。
先日の滋賀県知事選挙では、﹁卒原発﹂という言葉が報道の中で大きく取り上げられました。
では、ここでいう﹁卒原発﹂という言葉はどのような意味なのでしょう。
原発という言葉を飾る﹁反﹂﹁脱﹂﹁卒﹂﹁減﹂﹁縮﹂・・・・・・
どれも原発を無くす方向性であることは間違いないでしょう。
しかし、どうもはっきりしない感が否めないのは、その原発をゼロにする時期がいつなのかということが明確化されていないからなのです。
用語辞典では次のように掲載されています。
卒原発
読み方‥そつげんぱつ
﹁原発依存のあり方からの脱却﹂を﹁卒業﹂として言い表した表現。2011年に吉村美栄子・山形県知事ならびに嘉田由紀子・滋賀県知事により提唱された。
原子力発電の存在を危険視・問題視し、原発の廃止を目指すべきだという考え方を表す語としては、﹁脱原発﹂が一般的である。﹁卒原発﹂は、徐々に原発依存度を下げ、最終的には原発に頼らない電力供給を可能にすることを﹁原発からの卒業﹂と捉え、代替エネルギーの拡大などを推進していくという。
︵新語時事用語辞典﹁卒原発﹂項)
︻脱原発︼
だつ げんぱつ
安全性や経済性,廃棄物処理など多くの問題を抱える原子力発電にエネルギーの多くを依存する傾向を見直す考え方。
(三省堂 大辞林 ﹁脱原発﹂項︶
﹁脱原発﹂は、原子力発電に依存する傾向を見直す考え方とありますが、その時期についての言及は無いですね。
対して、﹁卒原発﹂は﹁徐々に依存度を下げ﹂とあります。
ということは、新たな原子力発電施設は作らないが、現在ある原子力施設は稼働しつつ、耐用年数に達する、あるいは代替エネルギーの目安がつき次第適宜依存度を下げていくというニュアンスなのでしょうか。
実際、滋賀県の嘉田元知事は﹁1400万人の近畿の命の水源を預かる知事として、原発のリスクは将来的にゼロにしたい﹂と発言しています。
この﹁卒原発﹂という言葉は、滋賀県出身の武村元官房長官が創った言葉とされ、その言葉を受けて嘉田元知事自身が記者会見の中で﹁原発から卒業する﹃卒原発﹄を進めたい。﹃脱﹄はすぐに原発をやめる意味が強く、後ろ向きなイメージだが、﹃卒業﹄は前向きな語感。いつかは原発を卒業したい﹂と述べています。
とすると、やはり﹃新語時事用語辞典﹄の意味が近いといえるでしょう。
ということは、滋賀県の嘉田元知事の掲げる﹁徐々に原発依存度を下げ、最終的には原発に頼らない電力供給を可能にする﹂という﹁卒原発﹂は、再稼働を認めつつ、徐々に原子力依存を低減して将来的にゼロにする、ということになります。
原発稼働に関する世論調査で﹁原発政策反対﹂の姿勢をとっている﹃朝日新聞﹄の世論調査を見てみましょう。
以下は、今年1月28日付の朝刊に掲載された世論調査の結果です。
設問﹁原子力発電を今後、どうしたらよいと思いますか﹂︵択一︶
﹁ただちにゼロにする﹂15%
﹁近い将来ゼロにする﹂62%
﹁ゼロにはしない﹂19%
朝日新聞の世論調査でさえ、原子力発電を﹁ただちにゼロにする﹂という回答は僅か15%で、半数以上は﹁近い将来ゼロにする﹂という回答。﹁ゼロにはしない﹂が2割ほどとなっています。
﹁徐々に原発依存度を下げ、最終的には原発に頼らない電力供給を可能にする﹂という﹁卒原発﹂は、上記結果の﹁近い将来ゼロにする﹂、あるいは﹁ただちにゼロにする﹂と﹁近い将来ゼロにする﹂の間あたりに位置するのかもしれません。
﹁卒原発﹂のイメージをグラフで描いてみました。
下図の薄緑の線が、﹁原発を近い将来ゼロにする﹂﹁卒原発﹂のイメージになるのでしょう。
とすると、現在の状況は﹁卒原発﹂とは掛け離れた状況になっているといえます。
出典‥﹃電気事業連合会資料﹄︵2014/5/23︶ より。黒線は実績値。
いずれにしても、報道で流されている様々な用語が、実際どのような意味なのかをしっかりと捉え認識しておく必要があります。
世論調査では原発について﹁是﹂か﹁非﹂かというように﹁1﹂か﹁0﹂かという二者択一の選択肢しかない場合が多いのですが、それではきちんとした民意を汲み取ることが出来ません。
例えば、アンケートの選択肢については、 少なくとも
﹁原発を事故以前の比率より徐々に増やしていく﹂
﹁事故前の水準を維持する﹂
﹁徐々に減らし、将来的にゼロにする﹂→追加設問﹁その時期﹂
﹁再稼働は一切認めず、全て即廃炉とする﹂
として世論調査を行なうべきでしょう。
原発という言葉を飾る用語の定義を明確にした上で論議をしないと、何の意味も持たないことになってしまいます。
参考として世界の主要国の原発発電所稼働率︵利用率︶の推移を下図に掲げます。
日本の稼働率がいかに特殊な状況にあるかがわかります。
出典‥﹃エネルギー白書2014﹄