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2011年7月16日
東日本大震災‥肉牛セシウム汚染 検査体制見直し 区域拡大など--厚労省方針
◇都内の牛肉650ベクレル
福島県浅川町の畜産農家から、高濃度の放射性セシウムを含む稲わらを餌として与えられていた肉牛が関東などに出荷されていた問題を受け、厚生労働省は15日、計画的避難区域と緊急時避難準備区域から出荷される肉牛の全頭検査方針を見直し、両区域外の肉牛の安全性も確保する観点から検査体制を再検討する方針を決めた。また、東京都は都内の業者に販売された肉牛1頭から1キロ当たり650ベクレル︵暫定規制値500ベクレル︶の放射性セシウムが検出されたと発表した。
浅川町は東電福島第1原発から約60キロ離れ、県が実施している出荷時の放射性物質検査︵スクリーニング検査︶の対象外だった。安全性を担保したうえで出荷を続けるには、検査体制の見直しが不可欠と判断した。
同日午前の閣議後会見で、細川律夫厚生労働相が﹁福島県では原発事故後、既に県外に移動した牛もいる。全頭的な検査や区域も含め、県、農林水産省と検討している﹂などと話した。
ただし厚労省によると、全頭検査を県内全域に拡大するには、食肉処理場の処理能力や放射性物質の検査体制が今のままでは不十分という。
福島県は、生きたまま出荷する肉牛については出荷先の自治体で検査できないか打診しているが、多くの自治体が果物や野菜など地元産の食品の検査に追われ、協力を得るのは困難な見通し。
このため、政府内では原子力災害対策特別措置法に基づき福島産の肉牛の出荷停止を指示する案なども浮上しているが、畜産農家の反発が予想され、調整は難航が予想される。
福島県によると、区域外の浅川町の放射線量は、浅川町役場で毎時0・17マイクロシーベルト。稲わらを提供した農家がある白河市︵白河合同庁舎駐車場︶は同0・49マイクロシーベルトで、出荷された42頭はスクリーニング検査を受けていなかった。
︵毎日新聞 2011年7月15日︶
高濃度の放射性セシウムを含む稲わらを餌として与えられていた肉牛による食肉が全国各地に流通し消費されてしまった、いわゆる﹁セシウム牛﹂の問題が深刻化しています。
その原因の発端となった基準値を超える放射能をもつ稲わらは、福島県の一部だけでなく、宮城県の一部地域でも見つかっています。
そもそも、原子力発電所の炉心溶融事故による放射性セシウムの拡散は、震災直後から一部報道機関で報道されていましたが、その後暫くの間はぱったりとそのニュースが無くなりました。
政府は炉心溶融の事実も、放射性物質拡散の事実も周知していたはずですが、報道規制をかけ、ひたすら安全性をアピール続けました。
東日本大震災発生翌日に書いたブログ記事を改めて引用します。
原子力発電所炉心溶融か ︵2011年3月12日のブログより︶
東京電力福島第1原発の1号機で炉心溶融の可能性があるという発表がなされました。
仮に炉心溶融︵メルトダウン︶が進み、制御不能となると、計り知れない甚大な被害が想定されます。
その事態だけは何としても避けていただきたいものです。︵中略︶
今回の大震災のように沿岸部に多発的に発生し、しかも津波を伴うような甚大な災害の場合、それこそ﹁想定外﹂の事態を引き起こします。
原子力発電では様々なレベルの事故を想定していますが、そのうちの最悪の事態が炉心溶融︵メルトダウン︶です。
これは、原子炉の温度制御が出来ず、温度が上がりすぎ、燃料棒が溶融して流れ出してしまう現象です。膨大なエネルギーのために原子炉が破損してしまいます。
温度制御を行うための冷却水が失われて炉心の水位が下がるため、燃料棒が水面上に露出してしまうことが原因です。
何故炉心溶融が最悪の事故となるかというと、燃料のウランが核分裂して発生する﹁死の灰﹂Cs-137︵セシウム137︶が拡散してしまうからです。
セシウム137は、人体に取り込まれやすく癌の原因となる物質です。
しかも、半減期は30年もあり、土や農作物に入ってしまうと、除去することが困難で、食物を通した体内被曝を引き起こします。
負の遺産となった福島第1原子力発電所
現在、福島県各所から東京にかけて観測されている放射性物質は、主に3号機爆発などによる使用済み核燃料の拡散によるものだ仮定すると、今後新たな爆発さえ無ければ原発から30キロ圏外への新たな拡散はそれほど心配でなく、徐々に低下していくのではないかと考えます。
この楽観的な仮定が正しいとすると、まずは土壌表層に積もった放射性物質を早期に除去し、また放射性物質のモニタリングを緻密に行い、風評被害を最小限に留めることが必要でしょう。
このことを踏まえて、今回の﹁セシウム牛﹂を検証すると、原子力発電所の炉心溶融事故後の対応が全く適切に行われてこなかったことが事態を悪い方向に導いていることがわかります。
放射性セシウムをはじめ、放射性物質は決して均等に拡散するわけではありません。
それは、部分的に濃く、それ以外の部分では薄くというように﹁まだら﹂状に広がります。
その大部分は3月12日から15日にかけて拡散されたものであり、それ以降は幸いにも新たな爆発は無く、精々ベント操作による微小の放出に抑えられています。
屋外にあった稲わらに付着することも、影響の一つとして容易に想定されたことです。
したがって、3月後半からは、﹁徹底的にきめ細やかな放射性物質のモニタリングを緻密に行うこと﹂、そして、その結果に基づき、﹁土壌表層に積もった放射性物質を早期に除去すること﹂、﹁汚染された場所にかかわる農作物、畜産物にかかわる食材を明確に提示すること﹂﹁汚染された場所にかかわる農作物、畜産物への放射性物質の検査体制を万全に整える﹂ということを行うべきでした。
本来は政府が率先して行うべき対策を、この4ヶ月間、全くといって良いほど行なってこなかったことが、今回の﹁セシウム牛﹂の事態を引き起こしています。
冒頭の新聞記事に下線を付けさせていただきました。
まずは、
︵1︶厚労省によると、全頭検査を県内全域に拡大するには、食肉処理場の処理能力や放射性物質の検査体制が今のままでは不十分という
多くの自治体が果物や野菜など地元産の食品の検査に追われ、協力を得るのは困難
→今から検査体制を整えるのはあまりにも遅すぎます。4ヶ月前からこのような事態は予測されていることです。事故発生直後から稲わら、出荷肉牛の検査体制を準備していればこのようなことになならなかったでしょう。
︵2︶政府内では原子力災害対策特別措置法に基づき福島産の肉牛の出荷停止を指示する案なども浮上している
→結果的に、安全と思われる地域から出荷できるはずの肉牛まで出荷停止を余儀なくされそうです。福島産の肉牛全て出荷停止、これは大きな打撃です。
また、世界的視野に立てば、日本産の農作物・畜産物全てに亘り風評被害がさらに拡大する懸念もあります。
今後は、稲わらだけでなく、さまざまな食材から﹁放射性物質が検出された﹂という報道が続くことでしょう。
継続的に汚染水が海洋や地下水に拡散していることを考慮すれば、海産物からの放射性物質検出も今後何年も続くことでしょう。
残念なことですが、それは被害が広がっているのではなく、全体的な被害をようやく部分的に把握出来はじめているということでもあります。
﹁徹底的にきめ細やかな︵数メートル単位の︶放射性物質のモニタリングを緻密に行うこと﹂
これは、時既に遅しという感がありますが、今からでも早急に行って欲しいものです。
暗いニュースばかり書くと気がめいるのですが、今回のセシウム牛報道の中で、食肉の流通がある程度詳細に判かるということは、実は凄いことであるといえます。
例えば、東京都食肉処理場で処理される牛は、1日300から400頭ほど。その膨大な食肉の中から、特定の農家の出荷した肉が特定され、追跡できるシステムが整っているということです。
これは、元々はBSE対策として生産者から消費者までの履歴を牛の個体識別番号で管理され、例えば、消費者はスーパー店頭に並ぶパッケージのシールからどのような牛の肉かを確認することが可能です。
従って、万一放射し物質に汚染された肉牛が出荷された場合でも、早急に適切な処置を行えば、影響を最低限に抑え、適切に調査する手段は整備されています。
ですから、﹁汚染された場所にかかわる農作物、畜産物への放射性物質の検査体制を万全に整える﹂ことと併せて、この流通システムを活用することによって初めて、安全安心な食材が消費者に届く体制が整えられるといえます。
福島県全域の農作物、畜産物出荷を全て停止するなどという馬鹿げた対応を考える前に行うべきことはたくさんあるといえます。
今回のセシウム牛の一件で、管理対応の拙さにより、放射性物質に汚染された食材が出荷されてしまうことが改めて分かりました。
同時に、その他の大部分の農作物、畜産物については、基準値を超えない、いわゆる安全であるという結果が出ているという事実を忘れてはいけません。
放射性物質は目には見えないがゆえに、恐ろしいと感じがちですが、きちんと理解し、適切に管理しながら農作物、畜産物の生産をを行うことは十分に可能であるといえそうです。
消費者の信頼を取り戻すためにも、そして風評被害を最小限に留めるためにも、是非お願いしたいことです。