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2010年2月 6日
アメリカを中心に起こっている大規模リコール問題、新型﹁プリウス﹂のブレーキの不具合に対しトヨタが今月2日に副社長の記者会見があったものの、社長が出てこないことに国内外から批判が噴出していたところ、ようやく豊田章男社長が昨日夜に緊急記者会見を開き﹁ご迷惑をおかけしたことを心からおわびします﹂と陳謝しました。
大規模リコール問題が一気に集中した背景には急速にアメリカ市場を侵蝕し、シェアを伸ばしている日本車に対するアメリカ側の苛立ちが背景にあることも確かでしょう。
ラフード米運輸長官が議会でリコール対象車の所有者に﹁運転をやめるように﹂と呼びかけたというのは思わず出た﹁本音﹂の言葉だったように感じます。
しかし、トヨタの2009年第3四半期累計の連結決算が大幅減益ながら黒字決算という発表のタイミングのこの時期の問題噴出と言うのはなんともいえないものがありますね。
■日本車の安全神話
数年前にアメリカIIHSで発表された、米国で販売されれている車種別の死亡事故率を調査した結果があります。
⇒Status Report, Vol. 42, No. 4, April 19, 2007(PDF)
事故率をこのように定量化して安全性能の一指標として整理するということは意義のあることであるといえましょう。
この調査報告書は1999-2002年に販売された乗用車・ミニバン・SUV・小型トラック199種類について2000-2003年における100万台当たりの死亡事故率を計算したものです。
ざっと死亡率を眺めると、やはり日本車の安全性が高い傾向にあることがわかります。
事故死亡率が30を切っている13種のうち、日本車が7種。
逆に死亡率が160 を越える日本車は2種のみとなっています。
以降、日本車が、米国車や欧州、韓国などのメーカーよりも高い安全性能を持っているという認識の浸透により、日本車は米国においてシェア争いを優位に展開してきました。
世界の自動車メーカー各社を対象に行なわれたアンケートによると、﹁今後最も重視する課題は何か﹂について、アメリカや欧州、中国の各社は﹁デザイン﹂﹁走行性能の向上﹂を第一に挙げていたのに対し、多くの日本のメーカーは﹁安全性の向上﹂を最重要課題と回答していたそうです。
日本のメーカーは安全性を第一と考えてるはずですし、結果として安全な車を生み出してきたはずなのです。
■トヨタはゼロナイズを目指す企業だったのではないか
トヨタも例にもれず、ITSビジョンとして交通事故死ゼロを目指す﹁Zeronize︵ゼロナイズ︶﹂という目標を掲げています。
トヨタでは、来るべきITS社会・ユビキタスネットワーク社会に向けて﹁安全・安心・快適に暮らせるクルマと車社会の創造﹂を目標の一つに掲げています。
その実現のためのビジョンが、﹁Zeronize︵ゼロナイズ︶﹂と﹁Maximize︵マキシマイズ︶﹂の 高い次元での両立です。さらにそのビジョンを追求するための技術開発の根底にある考えが、﹁TODAY for TOMORROW=より良い明日のために、今できること、今すべきことに取り組む﹂です。
﹁Zeronize﹂とは、交通事故、交通渋滞、環境負荷などのネガティブインパクトを限りなく小さくするために絶ゆまぬ努力を続けること。
﹁Maximize﹂とは、人がクルマに求め続けている楽しさ、わくわく感、心地よさ等を通じて、心の豊かさを最大化すること。トヨタは既に、その両立に向けた取り組みを進めています。
安全については、衝突時の被害軽減を図る衝突安全だけでなく、衝突を予知・警告するなどの高度な予防安全と優れた運動性能を同時に実現するシステムの開発・実用化を進めています。
環境については、プリウスのように低燃費、低排出ガスに加え、優れたドライビング性能を実現したクルマを商品化しています。
しかし、これからはこうした技術開発に加えて、﹁人﹂﹁クルマ﹂﹁交通環境﹂の総合的な取り組みであるITSの活用が必要です。トヨタは ﹁Zeronize﹂と﹁Maximize﹂を高い次元で両立させながら、﹁安全﹂﹁環境﹂﹁快適﹂の領域で持続可能なモビリティ社会を実現することが、 理想的な姿であると考えています。
︵トヨタのサイトより引用・下線はkameno付記︶
折角の崇高な目標も、これに向かって努力してきたこれまでの取組みも、一瞬にして空しい絵空事の目標に見えてきかねません。
事実、今アメリカの方にこのゼロナイズの文言を提示したら、どのような感想が聞かれるでしょうか。
蓄積してきた信頼性の重みを真剣に受け止めないと大変なことになってしまいます。
■対応の拙さが傷口を広げる
何年もかけて築き上げてきた信頼性という価値が、企業トップの数日間の対応の拙さによって一転してしまおうとしています。
品質保証担当の横山常務役員の記者会見は酷く感じられました。﹁ブレーキを踏み増せば安全に車は止まる﹂﹁感覚的な問題﹂は、開発側の本音としては確かにそういう面もあるのかもしれません。
しかし、対外的記者会見でこの言葉は言っては駄目です。却ってユーザーの不安を煽る結果を招きます。
問題を認識しており、1月生産分から対策を講じ、安全性をより高めているのであれば、せめて、それ以前に購入したユーザーにはそのことを通知するべきでした。
しかし、それが為されていなかったわけですから、2日の段階で社長自ら﹁ユーザーに通知をしていなかったことを﹂謝罪をした上で﹁工場で直ぐに対策を講じられるように体制を整えます﹂と明言するべきでした。
﹁トヨタ社長の顔見えぬ対応 リコール拡大﹃隠れている﹄印象﹂・・・米通信社・ブルームバーグはこのような見出しを掲げています。
トヨタの対応は到底世界標準を満たしていないという批判も強く、昨夕ようやく社長自らによる謝罪会見が開かれることとなりました。
しかし、その内容も謝罪はしたものの、具体的な対策の内容は示されず、却って逆効果ではないかという批判も多いようです。
世界中のユーザーが知りたいことは﹁現在使っている車に乗っていてもよいのか﹂﹁修理の必要があるとすればいつどのように実施されるか﹂ということであり、投資家やメディアの一番の興味は﹁企業のトップが、どのようにこの状況を打開していこうとしていくか﹂ということであり、そのどちらも具体的に示されていないということが問題であると考えます。
﹁できる限り早く対応できる方法を検討するよう、社内に指示している﹂だけでは不十分と言われても仕方が無いでしょう。
不安が解消されないまま週末を迎えることになってしまいました。
早急に具体策をまとめた上で発表していただくことを希望します。
■今後に向けて
車は人間が運転する以上、交通事故死をゼロにすることは不可能でしょう。
けれども、より高い目標を掲げ、そこに向かうことは自動車メーカーに求められる最重要課題であり、それゆえ結果として安全性の向上が結果として企業や商品のブランド価値向上にも繋がっていくものです。
信頼性は﹁お金では買えないプライスレスな価値﹂であり、これを再構築することは並大抵ではないでしょう。
トヨタを含め、日本の各メーカーがこれまで蓄積してきた土台はそう簡単に揺らぐことは無いように思えますが、今後の対応次第では自動車メーカーの存続すら危うくなりかねません。
まずは﹁Zeronize︵ゼロナイズ︶﹂の意味を一から見直していって更なる良い車を生み出していく決意を社長自ら真摯な言葉で語って欲しいと思います。
また、先進技術の開発に携わった技術者、部品を請け負う中小企業の従業員、販売に携わる社員たち、一人ひとりの努力を無駄にすることなく、それぞれのモチベーションが持続されますよう切に願います。
来週前半はきっと今後の方向性を決める重要な時期となることでしょう。
トヨタのトップがどのようにこの危機を乗り越えようとしているのか、乗り越えていくのかを見守っていきたいと考えています。
■追伸
貞昌院のプリウスをリコール修理持込してみました。
実質作業時間は15分ほど。
ソフトウエアの修正のみ済みました。
これほど簡単なことで済むのであればもう少し早く実施するべきだったと感じます。
いずれにせよ、実際の修理が簡単に済むということが報道に流されていけば、次第に沈静に向かうことでしょう。
大切なことはどのような修正がどのような手順でどのように行なわれるのかを早急に広報することだと思います。