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2009年2月 7日
数学の世界で、問題を﹁エレガント﹂に解くという言い方をすることがあります。
エレガントとは、﹁優美﹂﹁上品﹂﹁洗練﹂﹁シンプル﹂などと訳されますが、このようなキーワードから、海外の禅僧の中では﹁ZEN﹂=エレガントという捉え方をする方もいらっしゃいます。
数年前に講演を戴いたブライアンバークガフニ先生は日本文化に対し、余計なものをそぎ落とした﹁あっさり﹂という表現をされていました。
私が日本の文化は何かと聞かれますと、一言で表現しろと言われたら、﹁あっさり﹂という言葉で表現すると思います。あっさりと言うのは、出来るだけシンプルに、出来るだけ簡素にという日本独特の思考と言うのが有るように思います。
これは大いに日本で育まれてきた禅の生活では非常に大きな影響が有ると思います。つまり、無駄のない、出来るだけ簡素にシンプルにというのが日本の精神の中に、文化の中に大いに浸透していると思います。
例えば白木。西洋ではすぐにペンキを塗りたがるんです。第二次世界大戦で由緒ある日本の旧家が接収されて、持ち主に戻ってきた時に大黒柱が真っ赤なペンキで塗られていてびっくりしたと言う話は聞いた事があるのですが、これは悪戯でしたんじゃないんです。未完成だから塗ってやろうと思っているんです。白木のままと言うのは未完成で、裸でなんとなく落ち着かない。しかし日本の場合はペンキとかじゃなくって白木のままで、簡素にシンプルにというのが日本独特の思考だと思います。
SOTO禅インターナショナル創立5周年講演﹃禅修行を通して得られたもの・・・両鏡相照﹄︵講師‥長崎総合科学大学教授 ブライアン・バークガフニ師・1998年開催︶より
ですから、禅を﹁エレガント﹂と表現するという気持ちも良くわかります。
さて、先日テレビを流し見していますと、﹃たけしのコマ大数学科﹄という番組が流れていました。
そのときに取り上げられていた問題は
バスケットボールには1ゴールで3点、2点、1点入る種類がある。
では合計10点になるための組合せは何通りあるか。
というようなものでした。
この問題に
コマ大生︵駒澤大学ではなくコマネチ大学︶、東大生、北野武︵マス北野︶が取組みます。
コマ大生のとった方法はまさに力技。
3センチに切った赤いテープ、2センチに切った黄色いテープ、1センチに切った緑のテープを並べ、長さが10センチになる組合せを全て取り出しました。
数人で作業を行い、約半日掛かって出た結論が274通り。
机の上には膨大な数の色とりどりのテープが残されました。
⇒コマ大生たちの方法をExcelで再現してみました。
︵ただし、次に挙げるトリボナッチの解法を利用して前2項分のセルをコピペしながら作成しました︶
⇒参考までに‥コピペのベースとなる途中経過
対し、マス北野の解法は、以前番組で取り上げたという問題
階段を一度に1段、2段登る2通りの方法を使って15段登る組み合わせは何通りか
の解法をフィボナッチ数列を使って用いたことを応用し、274通りとほぼ暗算で答えを出しました。
マス北野の解法はエレガントなものの一例と言えるでしょう。
問題が、もしも1点に達するためには何通り?とか2点に達するためには?とか3点に達するためには?という程度だったら
1点に達するためには1点ゴールの1通り
2点に達するためには2点ゴール、1点ゴール+1点ゴールの2通り
3点に達するためにはは3点ゴール、2点ゴール+1点ゴール、1点ゴール+2点ゴール、1点ゴール+1点ゴール+1点ゴールの4通り
ということが直感的にわかります。
実はこのように細かく分解していくことによりシンプルに解くことが出来るのです。
この問題を考えるポイントは、10点になった際、何点ゴールで10点に達したかということに着目することです。
ここに気づくかどうかが﹁エレガント﹂に問題を解くことができるかのポイントになります。
10点に達した際に決まるゴールの方法は3点ゴール、2点ゴール、1点ゴールの3通り。
ということは、そうなるためには
9点の段階から1点ゴール
8点の段階から2点ゴール
7点の段階から3点ゴール
の3通りの組み合わせがあります。
このことから、7点に達する組み合わせ、8点に達する組み合わせ、9点に達する組み合わせを考えて、それを足せばよい。
9点に達するためには
8点の段階から1点ゴール
7点の段階から2点ゴール
6点の段階から3点ゴール
8点に達するためには
7点の段階から1点ゴール
6点の段階から2点ゴール
5点の段階から3点ゴール
7点に達するためには
6点の段階から1点ゴール
5点の段階から2点ゴール
4点の段階から3点ゴール
以下同様に考えて、簡単なためにa点に達する組み合わせを T(a) とすると
T(10)=T(9)+T(8)+T(7)
T(9)=T(8)+T(7)+T(6)
T(8)=T(7)+T(6)+T(5)
T(7)=T(6)+T(5)+T(4)
T(6)=T(5)+T(4)+T(3)
T(5)=T(4)+T(3)+T(2)
T(4)=T(3)+T(2)+T(1)
・・・ここまで来ると最初に考えた
T(1)=1
T(2)=2
T(3)=4
が分かっていますから、逆に積み上げて
T(1)=1
T(2)=2
T(3)=4
T(4)=1+2+4=7
T(5)=2+4+7=13
T(6)=4+7+13=24
T(7)=7+13+24=44
T(8)=13+24+44=81
T(9)=24+44+81=149
T(10)=44+81+149=274
よって274通り//
0,1から始まり、前の2つの数字を足したものが次の項になる数列をフィボナッチ数列
1 1 2 3 5 8 13 21 34 55 …
といいます。
階段の問題ではフィボナッチ数列を用いましたが、このバスケットボールの問題の場合は、前の3つの数字を足したものが次の項となり、それをトリボナッチ数列
1 1 2 4 7 13 24 44 81 149 274 …
と呼びます。
今回の問題はトリボナッチ数列を解法に使うことでエレガントに答えを導くことが出来ました。
マス北野の解法のように、エレガントさを求めるということは数学を学ぶものにとっては一種の憧れであったりするわけで、一つの問題について答えを求めた後でも、もっと﹁エレガント﹂に解けないかという異なったアプローチを考えたりします。
けれども、数学的には、コマ大生のとった力技の解法も正解です。
一つの問題から正解を導く方法は何通りもあります。
どの方法がベストなのかということは一概には言えないと思います。
例えば
いかなる地図も、隣接する領域が異なる色になるように塗るには4色あれば十分である
という、いわゆる四色定理は、1976年に ケネス・アッペルとウルフガング・ハーケンにより証明されました。
その方法たるや、コンピュータを利用して、あらゆるパターンをしらみつぶしに調べ上げ、当時の最高速のスーパーコンピュータを1200時間以上使用して導き出したものです。
いわばコマ大生のとった方法とほぼ同じであるといえます。
四色定理の証明は、エレガントな解法に対して、対極のものとして﹁エレファントな解法﹂とも揶揄されます。
今の受験数学は短時間で効率よく解答へたどり着くために﹁エレガント﹂な解法のみをマニュアルとして教え込む傾向にあるように見えますが、それでは以後の応用が利かなくなるような気がします。
コマ大生たちのような体力勝負の解法を模索してみることも必要です。
人生もたぶん一緒でしょう。
数学の問題に限らず、人は生きていく上で様々な問題に突き当たります。
それを﹁エレガント﹂にするりと乗り越えていくことが出来る場合もありますし、なかなか問題を解決できずに一見遠回りしたり非効率的に見える﹁エレファント﹂な筋道を通らなければならないこともあります。
アインシュタインは、教鞭をとった時に生徒たちに一つの問題に対して何通りもの解答を求めたそうです。
問題を解決する方法が一つでないということを認識し、一つの問題を解くためにどのような方法があるのか、いろいろな解法を探ってみる姿勢こそが大切なことです。
様々な解法を模索し、一見無駄のように見える﹁エレファント﹂なことを繰り返し体験するからこそエレガントな解法が導き出され、それが光るのですから。
冒頭にご紹介した講演で、ブライアン・バークガフニ先生は次のように結ばれました。
禅をどういう風に西洋人に伝えて行くかということを、私は是非﹁あっさり﹂という文化と関連してある言葉に注目していただきたいと思います。
それが私は日本語の大発見として大切にしている﹁お洒落﹂という言葉です。
私は﹁お洒落﹂というのは﹁ファッション﹂という言葉と同じ意味だとずっと思っていたんです。﹁ファッション﹂といえば﹁お洒落﹂。﹁お洒落﹂といえば﹁ファッション﹂。翻訳する時とか通訳する時に交換すればいいという風に思っていたんです。どのように書くかというのがあまりはっきりしていなかったんです。平仮名のイメージしかなかったんですが、ある時雑誌を見ていたら漢字で書いてありました。
へー!こんな字で書くのか。お酒が落ちると。なんという東洋の神秘!と思ったんです。
しかし良く見ればお酒と言う字と少し違う。横棒が一つ足りない。サンズイに西です。これが読めなかったものですから、早速好奇心が刺激されて私のボロボロとなった漢和辞典を広げてみたんです。そうしたら、本当になるほど、なるほどと思ったんです。お洒落というのは、洒が落ちると書くんですが、洒というのは、﹁晒︵さら︶す﹂というのが訓読みで、洗うという意味も有るんです。非常に具体的な意味が有ったんです。
飾り気とかそういうものを全部洗い流した、あるがまま、素顔という・・・これがお洒落であり、ファッションというのは類語でも同じ意味でも無く反対の意味でした。
ファッションというのはラテン語から来てるんですが、語源が facere という動詞で、造るという意味です。ファクトリーも同じ造ると言う語源から来ているんです。つまりファッションと言うのは、素材の上に飾って造っていくということです。一言でいえば﹁カッコをつける﹂のがファッションです。
しかしお洒落はその反対でした。そういう人工的なもの、わざとらしさ、そういうものを全部洗い流した素顔の美しさをいう。なるほど!なるほど!と思ったんです。喩えて言えば、作り笑いがファッションみたいなもので、お洒落と言うのは本当に面白い時に自然に出てくる笑いのことだと、なるほど、なるほどと思いました。
いつまでもこのお洒落の心を大切にしていただきたいと思います。そして、お洒落の心を大切にしていれば、自然に無理の無い形で禅の素晴らしい教え・・・教えといえば少し上からの押し付けの意味がちょっとあるんですが、教えと言うよりも素晴らしい智慧というものが世界にきっと伝わって行くと思います。
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著者/訳者名 渡辺健介/著
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出版社名 フジテレビ出版 (ISBN‥4-594-05283-5)
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