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2009年1月 5日
ゴム状硫黄﹁黄色﹂です―17歳が実験、教科書変えた
高校化学の教科書に掲載されていた﹁ゴム状硫黄﹂の色が間違っていた。山形県の鶴岡高専物質工学科3年の高橋研一さん︵17︶が気づき、実験で確かめた。指導教員が訂正を申し入れ、出版社側も間違いを確認。教科書の修正につながった。高橋さんは﹁自分の実験で教科書の記述が変わるなんて予想外。びっくりしている﹂と話す。
ゴム状硫黄は、硫黄原子が鎖状に並んでできた硫黄の同素体。現在使用中の教科書10種類には﹁褐色・黒褐色・濃褐色﹂とあり、大学入試でも﹁褐色﹂が正解とされてきた。
高橋さんは、指導教員の金綱秀典教授から﹁昔、黄色のゴム状硫黄ができたことがある﹂と聞き、本当かどうか実験で確かめたくなった。
市販の硫黄の粉末を試験管に入れて加熱していくと、流動性が出てくる。これを冷水に流し込むと、弾力性のあるゴム状硫黄となる。
市販の5種類で試した。純度98%の硫黄粉末や99%の硫黄華で作ったゴム状硫黄は褐色や黒色で、試験管に黒い物質が残った。だが99.5%の結晶硫黄だと黄色になり試験管に何も残らなかった。
そこで、黄色いゴム状硫黄に鉄粉を混ぜて溶かし、再びゴム状硫黄にすると褐色に変わった。鉄粉が多いと黒色になった。純度99%以下の硫黄は、不純物で褐色や黒色になると分かった。
金綱教授は、自分も執筆している大日本図書﹁新版化学I﹂のゴム状硫黄の写真を差し替え、記述を﹁ゴム状硫黄は黄色。黒、褐色の着色は不純物による﹂と直すよう申し入れた。大日本図書も文部科学省に訂正を申請、09年度教科書から﹁ゴム状硫黄は硫黄の純度が高いと黄色になる﹂と注を追加することになった。
︵2009年1月5日朝日新聞︶
今日の夕刊に掲載されていたニュースです。
高校化学で、当たり前のように習ってきたことが、実はそうではなかったということで、とても驚かされました。
ゴム状硫黄とは、硫黄の同素体の一つです。
同素体とは、同じ単一元素から構成される物質であるけれども結晶構造︵原子配列︶・結合様式が異なる物質群のことです。
それらを互いに同素体であるといいます。
同じ元素から成る単体ではありますが、化学的、物理的性質は全く異なります。
同素体をとるのは、炭素、酸素、硫黄、燐の4種類です。
元素記号の頭文字C、O、S、Pを並び替えて SCOP と覚えたり︵懐かしい!︶しましたが、それぞれ
炭素Cの同素体 ⇒ ダイヤモンド、黒鉛、無定形炭素、フラーレン、カルビン、カーボンナノチューブ
酸素Oの同素体 ⇒ 酸素、オゾン
硫黄Sの同素体 ⇒ 斜方硫黄、単斜硫黄、ゴム状硫黄
燐 Pの同素体 ⇒ 赤燐、黄燐
という同素体があります。
ちなみに、私の個人的に一番好きな物質はフラーレンなのですが、この場では書くスペースが足りないのでまたいつか記事にします。
さて、硫黄の同素体は上記のように斜方硫黄、単斜硫黄、ゴム状硫黄などの同素体があるわけですが、身近な物質でもあり扱いやすいために実験によく使われます。
⇒︵例︶ 愛知エースネット︵愛知県教育委員会︶
高校化学では常識のように次のように習っていました。
斜方硫黄は 塊状結晶、黄色、
単斜硫黄は 針状結晶、黄色
ゴム状硫黄は ゴム状固体、褐色もしくは黒褐色
ゴムの製造段階で、耐熱性を持たせるために生ゴムに硫黄を混ぜたりしますが︵注︶、上記のように硫黄単体でも、ゴム状硫黄というゴム状の性質を持つ同素体があります。
硫黄の中で一番安定した状態は斜方硫黄であり、その他の単斜硫黄、ゴム状硫黄は不安定なため時間が経過すると斜方硫黄へと自然に変化します。
ですから、自然界で普通に見られる硫黄はだいたい斜方硫黄です。
その構造は、硫黄原子8個が環を作って結晶化したものとなっています。
この斜方硫黄を約250℃まで加熱すると、数十万個以上の硫黄原子が繋がった直鎖状の構造となり、それを一気に水中に流し込むと、鎖状の構造のまま固まってしまいます。
これがゴム状硫黄です。
ところが、この際に、少しでも不純物があるとゴム状硫黄は褐色もしくは黒くなってしまい、それがゴム状硫黄の色だとこれまでずっと誤認されていたわけです。
中段にご紹介した 愛知エースネット でも﹁黒色の無定型の固体で、伸ばすとゴムのように弾性を示す﹂と説明されています。
なぜ今まで気づかなかったのかということも不思議ですが、あまりにも常識だと頭の中に刷り込まれていたために、仮に他の結果が出たとしても、実験が失敗したと思い込んでその結果を棄却してしまっていたのかもしれません。
しかしながら、そのような現象︵黄色くなった︶ということにより、これまでの常識に疑問をもち、きちんと検証して証明していった高橋さんと、それを指導した金綱教授には頭が下がります。
科学的方法 (かがくてきほうほう、英: scientific method)とは、物事を調査し、調査結果を整理し、新たな知見を導き出し、知見の正しさを立証するまでの手続きであり、かつそれがある一定の基準を満たしているもののことである。
﹁一定の基準とはそもそも何か﹂という問題は諸説があるが、大まかにいえば、その推論過程において﹁適切な証拠から、適切な推論過程によって演繹されたものとみなせること﹂が要求される。
︵Wikiぺディア︶
このように、﹁再現性があり定量的な測定が可能﹂であれば、誰が提唱たものであっても、その場できちんと訂正されていきます。
それが科学的であるということでもあります。
あたりまえだと思っていたことも、それが必ずしも正しいとは限らないのです。
科学は、そういうちょっとした疑問から進展していくということが良く分かる事例でした。
科学的でない事項を訂正することは、この事例 とか この事例 とかなかなか大変なのですけれどね。
︵注︶
話は脱線しますが、生ゴムに硫黄を混ぜると耐熱性を持つということは、1839年チャールズ・グッドイヤーにより偶然に発見されました。このエピソードは涙なくしては語れません。
■蛇足
生ゴムに硫黄を混ぜると耐熱性を持ちますが、さらに炭素︵カーボン︶を混ぜることにより強度が増します。
車のタイヤが黒いのは、このカーボンの色のためで、ゴムが黒いわけではありません。
■蛇足リンク<本文とは無関係>
!ゴムの鉄人! あなたのゴム業界人度はどのくらい?
︵ラバーステーション︶