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2007年6月20日
都心の温泉、ブームで急増=地下にガス田、掘削で炎上事故も
爆発事故があった東京都渋谷区のスパのように、温泉をくみ上げ利用する施設は、近年の温泉ブームに乗り、都心部でも急増している。一方、首都圏の地下にはメタン成分の多いガス田の存在があることが知られている。2005年、北区で温泉掘削中に天然ガスが噴出し、20時間以上にわたって燃え続ける事故が起きた。
都環境局によると、温泉の掘削許可は1990年代半ばごろから増え始めた。島部を含む都内全域では、97年3月に90本だったが、今年3月には144本になった。このうち約半数が23区内にある。
温泉のくみ上げが増え、地盤沈下や温泉枯渇の恐れが出てきたことから、都の審議会が05年1月、一定距離の確保などの規制を答申。都は6月にガス噴出事故の防止などに関する安全指導要綱を策定した。
こうした中、同年2月には北区の温浴施設建設現場で温泉掘削中に天然ガスが噴出し、炎上。周辺住民が避難し、24時間半後に鎮火した。
温泉の試掘や化学分析などを請け負う中央温泉研究所︵東京都豊島区︶の滝沢英夫研究員によると、都心部近辺の地下からわき出る天然ガスは、可燃、引火性が高いメタン成分が都市ガス並みに多い。
国土交通省関東地方整備局東京第二営繕事務所によると、千葉を中心として茨城、埼玉、東京、神奈川には﹁南関東ガス田﹂があり、メタン成分が約99%だという。
滝沢研究員は﹁通常は﹃ガスセパレーター﹄と呼ばれる装置でガスを処理するが、どのように機能していたか分からない。都市ガスには人為的ににおいをつけてあるが、天然ガスにはにおいがないので分かりづらい﹂と話した。
時事通信
時事通信社の記事にもあるように、平成17年に、同じ東京都北区の温泉施設でのボーリング現場でメタンガスによる大火災が発生したことは、記憶に新しいところです。その原因は、東京、千葉、神奈川、埼玉、茨城に渡り存在する﹁南関東ガス田﹂によるメタンガスだとされました。
南関東ガス田にメタンガスがどれだけ埋蔵されているかは、関東天然瓦斯開発によると
当社が開発している南関東ガス田は、千葉県を中心に、茨城・埼玉・東京・神奈川県下にまたがる広大な水溶性天然ガス田です。可燃性天然ガスは、その存在している状態により、石油系ガス、炭田ガス、水溶性天然ガス等に分類されますが、水溶性天然ガスは、生物起源のメタンガスが、地下の地層水にその深度の圧力のもとに溶解したものです。
千葉県で天然ガスが産出されるのは、上総層群︵かずさそうぐん︶という地層群です。これは新第三紀鮮新世︵せんしんせい︶?第四紀更新世︵こうしんせい︶︵今から約300?40万年前︶に海底に堆積した砂岩と泥岩からなる地層です。
この砂岩と泥岩の互層中にある地層水にガスが溶けた状態で存在し、それがガス層を形成しています。この地層水は、海水の約2,000倍ものヨード分を含む以外は、ほぼ海水と同じ成分で、﹁かん水﹂と呼ばれています。
南関東ガス田は可採埋蔵量が3,750億m3にも達する、わが国最大の水溶性天然ガス田です。その中でも茂原地区は、︵1︶埋蔵量が豊富で、︵2︶鉱床が厚く、深度は浅く、︵3︶ガス水比︵産出水量に対するガス量の容積比︶が高い等、天然ガス開発に最適な条件を備えています。
当社鉱区における天然ガス可採埋蔵量は、約1,000億m3。現在の年間生産量で単純計算すると約600年分にもなります。
と、とてつもない量になります。
今回の渋谷区の温泉施設﹁シエスパ﹂における事故も、営業中の施設とはいえ、地下1500メートルからの地下水汲み上げに大量に含まれていた水溶性メタンガスが、分離処理されずに、施設内に溜まり、何らかの形で引火したものではないかと推測されます。︵このあたりの詳細の原因特定はこれからなされるとは思いますが︶
﹁南関東ガス田﹂の存在は古くから知られ、大深度の地下から水を汲み上げると、大量の水溶性メタンガスが溶け込んで一緒に汲み上げられることは常識です。
しかし、温泉としての水の汲み上げは、いわゆる天然ガス開発としての﹁鉱業法﹂の厳しい規制を受けず、申請により東京都が﹁温泉法﹂にり許可するだけで、掘削・営業ができるようになります。
従って、先の北区の温浴施設建設現場での事故が起こるまでは、東京都がガス対策を指導するだけでした。
日本は火山列島ですから、都心でも、1000メートル以上ボーリングを行えば、大抵の場所で温泉は出てきます。
ボーリング単価の低下と、温泉ブームにより、近年、特にスーパー銭湯などの温泉施設が林立してきました。
都内における源泉数の推移 ︵出典元 東京都庁︶
上記図のように、最近の温泉は、殆んどが深度500メートルを越える物となっていることがわかります。
貞昌院の付近でも、例に漏れず、近年、天然温泉を謳う入浴施設がかなり新設されました。
このような温泉ブーム及び、平成17年の温泉施設での大火災を教訓に、東京都では、平成17年に﹁温泉掘削等に係る可燃性ガス安全対策ガイドライン﹂が制定され、さらに、平成18年には﹁東京都温泉掘削等に係る可燃性ガス安全対策指導要綱﹂が策定されました。
今回の事故は営業中の施設における事故です。
大深度地下からの揚水の中には、大量のメタンガスが溶け込んでいることを常に念頭において、万全の体制を整えてほしいものです。
掘削時の安全対策ガイドラインにも増して、営業中の安全対策ガイドラインも今まで以上に整備していかなければならないと思います。
安全対策ガイドラインは最近設定されたばかりであり、しかも営業時ではなく、温泉掘削工事時のガイドラインです。
営業設備に対する安全対策ガイドラインは、まだまだ不十分であると言わざるを得ません。
なお、温泉ブームが地下水の枯渇にどれだけ影響をあたえているのかということが併せて心配されますが、こちらのほうは、平成17年 東京都環境局作成・都内地下水揚水の実態︵表8:用途別揚水量︶によれば、公衆浴場用揚水量は、都内全域で18,186m3/日、地下水全体揚水量の 3.3%であり、それほど大きな影響は与えていないようです。