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2007年3月23日
錦帯橋、サグラダファミリア、城の石垣、高圧電線、寺社の屋根・・・・・・
これらに共通するものって何だかわかりますか?
それは、﹁カテナリー﹂です。
カテナリー (Catenary、懸垂線) とは、重力が生み出す造形ですが、一番わかりやすい例で言うと、ひもの両端をそれぞれ右手と左手に持って、少したるませたときに出来る形です。
その語源は、ずばり、﹁チェーン﹂を意味する catena です。
ひもをたるませると、放物線のような形を描いて安定しますね。
力学的に言うと、ポテンシャルエネルギーが最小の状態になっています。それゆえ安定しているのです。
カテナリーは、力学的に安定した形であるため、様々な構造物や建築物に用いられています。
このカテナリーを逆さまにすると、アーチやドームとなります。
錦帯橋の橋の形は、アーチですし、サグラダファミリアの美しい曲線も、カテナリーです。
力学的に安定した形は、見た目も実に美しい造形を描きます。
私たちは、カテナリー曲線から、﹁重力﹂を形として見ることができるのです。
さて、カテナリーは、放物線に似ていますが、実は少し違います。
数学的にどのように表現できるのでしょうか。
物理学や構造力学をかじったことのある方なら、曲線の自重が各部分の張力を決定するとして、一様の質量密度を持つ曲線を微分方程式を作ることにより数式化したことがあると思います。
途中経過は省略しますが、カテナリーの数式は
y = a cosh (x/a) = a (ex/a + e-x/a) / 2
となります。
ここで cosh は、双曲線関数の一つで、ハイパーボリックコサインと読みます。
また、eは、自然対数の底 で、e=2.71828・・・ です。
︵適当に読み飛ばしてください︶
⇒カテナリーを導く途中経過に興味ある方は 青空学園数学科 さんのサイトをご参照下さい。
ここからが本題です。
このように美しい造形は、建築物の様々な部分に用いられています。
冒頭に述べた寺社の屋根についてもその例に漏れません。
寺社の屋根が描く美しい曲線は、カテナリーであることが多いのです。
屋根の軒先へ向かって描く曲線を、﹁軒反り﹂といいます。
この軒反りは中国の建築様式の影響を受けています。
何となれば、日本古来の建物は、ほとんど直線屋根で、軒反りの曲線は見られないからです。
対して、中国の寺院はどうでしょうか。
ここ数日、中国の寺院をいくつか紹介してきましたが、どれも屋根の軒反りが特徴的でした。
この軒反りこそが中国建築の一番の特長であるといっても過言ではないでしょう。
軒反りの由来は、﹁神仙思想﹂にあります。
神仙思想とは、天を自由に飛びまわり、天と地を結ぶ思想で、例えば飛天とか、鳥とか。
中国の建物に見られる、まるで鳥の羽ばたきのような屋根は、まさにこの神仙思想を具現化したものと言われています。
軒反りにはいくつかの種類があり、直線部分が無く最初から最後まで曲線となっているものを総反りといいます。
また、直線があって、あるところから急に反りあがるものを長刀反りといいます。
中国建築では、この軒反りの度合いが急に造られています。
これは神仙思想を強調的に表現するためだと思われますが、日本にこの様式が伝わった時には、軒反りの角度は抑えられます。
その理由は、それまでに直線屋根しかなかったため、極端に斬新な形式に抵抗があったこと、そして、降雨の多い気候のため、できるだけ軒を長く、低くして外壁を風雨から防護する必要性があることなど様々な要因によるものでしょう。
いずれにせよ、軒反りを作るために、屋根を曲線にするためには、非常に高度な技術を要します。
逆に言えば、いかに美しい軒反りを作り出すかということは、宮大工の腕の見せどころというわけです。
屋根の美しさは、軒反りなどの曲線にあります。そして、その曲線は、重力が造りだすカテナリーであるのです。
寺社の屋根がカテナリーになっていることを具体的にお見せします。
まずは、貞昌院の例。
カテナリーを重ねてみました。
y=±(cosh ax-1)/a
a=0.27
どうです?この見事な一致具合。
そして、中国の例。
天童寺の第一門で試してみましょう。
y= (cosh ax-1)/a
a=0.08 (x≦0) , a=0.38 (0<x)
軒反りの度合いは、定数aの大きさで表現されます。
a=0.38はかなり大きいですね。
構造的に単純な曲線ではありますが、屋根で表現するためにはとても高度な匠の技が求められます。
是非寺社へ参拝される時には、屋根にも着目されることをお薦めします。
楽しみが増えますよ。