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| 木瓜 »
2005年3月 2日
今、一所懸命このブログの文章を打ち込んでいる、御馴染みのキーボードですが、左上からQWERT・・・と並んでいるために、QWERTY配列と呼ばれます。
このキーボードの歴史は、タイプライターの歴史までにさかのぼり、レミントン社が生み出した配列です。
なぜこのような配列になっているのか・・・・
これは人間工学的に最も指が疲れないように工夫されたわけでも、英文の単語の出現頻度を調べて効率の良い配列にしたわけでもありません。
驚くことに、配列を工夫して打ちやすくしするとタイプラーターを速く打ってしまうため、印字アーム部分が絡み付いてしまうのを防ぐよう、わざわざ打ちにくいように配列してあるのです。 ︵注1︶
便利なタイプライターは生活・仕事上で重要な位置をしめ、一般社会に普及していきます。
時代はやがて、タイプライターからコンピューターへと移り変わり、機械的に印字アームが絡みつくという制約が無くなりました。
打ち辛いQWERTY配列は廃れてしまったでしょうか????
答えはもちろんノーですね。
実は、タイプライターからコンピューターへの転換期には、 Dvorak Simplified Keyboard のように、効率的で打ちやすい新しい配列のキーボードが幾つも生み出されていました。
しかしながら、結局デファクトスタンダードとして残ったのは、QWERTY配列キーボードだったのです。
ここで、QWERTY配列キーボードの歴史を改めて振り返ってみましょう。
1867年 Christopher Latham Sholes と Carlos Glidden, Samuel W.Soule らが ABC 順にキー配列したタイプ式ライティング機を特許申請。
1867年 James Densmore が加わり、キー配列を、印字棒の絡み合いがなるべく少なくなるよう研究し、現在の4段 QWERTY配列に近いものが出来上がった。
1873年 QWERTYキー配列を採用したE・レミントン社のレミントン機が発売された。
1873?1880年代初めには、QWERTY 配列のキーボードは、米国で 5000 台程度の普及であった。
1872年 テレタイプ機の基礎となった電機回転式印刷装置が登場し、印字棒がからむ問題は回避される機械が開発された。このころ、ハモンドやブリッケンズダーファーのタイプライターは、Idealキーボードのように、QWERTYよりも打鍵しやすいキー配列を採用していた。
1880年代 タイプライターブームにより、QWERTY に対抗するキー配列が数多く提案されていく。
1880年代後半 キー入力として、それまでは数本の指で打鍵していたが、10本の指を使う﹁タッチタイピング﹂が出現。タッチタイピングの習得手段として、QWERTYキーボードが広く使われだした。
1890年代 タイプライター産業は、国際標準として、 QWERTYキーをもったタイプライターを事実上標準化した。
1936年 ワシントン大学の August Dvorak 教授により、打鍵効率が格段に向上した DSK配列を開発・特許を取り普及に努めるが、すでにQWERTキーボードの勢いをとめることができなかった。
1970年代 コンピュータの出現により、業界紙の中で QWERTY を捨てる呼びかけがあったにもかかわらず、QWERTY は相変わらず使い続けられた。
では、なぜ、QWERTY配列キーボードが廃れなかったのでしょうか。
このような現象は、﹁ロックイン﹂﹁スイッチングコスト﹂﹁サンクコスト﹂というキーワードで答えを見出すことができます。
キーボード入力は、習熟を必要とする入力装置ですから、これを、サンクコストの観点から見てみると、
﹁サンクコスト﹂とは、ある程度早く入力できるようになるために費やすトレーニングコスト といえます。
このコストは、一度投資してしまったら、回収不可能な費用でありますから、一度使い始めたキーボードに対して費やされたサンクコストの膨大さを考えると、それまで慣れしたしんで使っていたキーボードを放棄して、新しい配列のキーボードに乗り換えることに、大きな抵抗を感じます。
従って、タイプライターからコンピューターへの転換期にあたって、たとえ機械上の制約から解き放たれたとしても、依然として﹁わざと使いづらくした﹂キーボードを使い続けることになるわけです。
﹁ロックイン﹂とは、その製品の他に、互換性がないような技術や製品のことを指します。
ある製品を導入して、その後ライバル製品が現れたとしても、いまさら新しいものに切り換えることが困難になってしまう現象であり、これによって消費者が不利益を被る場合も多々あることでしょう。
﹁スイッチング・コスト﹂は、今使っているものから、新しい製品に切り換えるのために費やされる費用をいいます。スイッチング・コストが高くつくのであれば、消費者は他の製品にたやすく乗り換えることはできません。
これらの足かせは、製造業者・導入企業・タイピストそれぞれにどのような影響を与えているかを考えてみます。
︵1︶製造業者
どのような配列のキーボードを製造するかを検討する段階で、需要の多い、一番普及している種類のものを選ぶことでしょう。一度 QWERTY配列に決定したら、別の型のタイプライターに転換するためには多少なりともコストがかかってしまうし、売れるかどうかも不明確でリスクが大きい。
︵2︶導入企業
一番普及している配列のキーボードを導入すれば、タイピストが幅広く、安価に募集できる。逆に、マイナーなキーボードを採用すると、キー入力の習得のために、教育をしなければならないかもしれない。トータルとして、多少入力効率が悪くても、タイピストの確保や、教育の間作業が滞ることなどを考慮すると、一番普及しているものを採用するのが当然でしょう。
︵3︶タイピスト
特定の配列に慣れてしまった場合、仮に他のキー入力へ変更するためには、トレーニングする時間と労力がサンクコストとして余計にかかってしまう。したがって、初めに習得する際には、より広く通用する、つまり一番普及している方法で習得しようと考えます。
結果として、三者とも最も普及しているキー配列を促進する方向に進んでしまうのです。
このように、キーボードのような、今まで使っていた製品から別の製品に替える際に必要となるコストは、新規投資費用、サンクコストの他に、リスクなどの心理的費用等がかかることになり、これらの費用︵すなわち、スイッチングコスト︶が大きければ大きいほど、今まで使っていた製品から他のものへ移ることが困難となります。
このように、一度選択されてしまうと、それ以降の変更が困難になり、将来の選択肢が規定されてしまうこと、これがロックイン効果であり、QWERTY配列が未だに幅広く使われていて、他の優れた配列のキーボードを排除してしまうメカニズムなのです。
世の中、全てが効率的な方向に進むものとは限らないのですね。
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注‥⇒この﹁打ちにくくすることを意図した・・という表現には異論もあります
http://www.sixnine.net/keyboard/qwerty.html
http://homepage1.nifty.com/cura/oya/kb_arguments.html
などを併せてご参照ください。
けれども、少なくとも、最も効率的なキー配列でないはずです。
さらに言及すれば、日本語の﹁ローマ字入力﹂をする場合には、とてつもなく入力し辛いキー配列であることは間違いありません。
もしかしたら、打鍵速度を抑制したというより、単純に遊び心で適当にキー配列を決めたのかもしれません。
だって、タイプラーターって単語をキーボード上でたどってみてください・・・・TYPEWRITER・・・・・全部上の段ですよ。︵88へぇ︶
>1890年代にフロントストライク式が﹁デファクトスタンダード﹂になったなんて、私には信じられません。 1890年代当初はそうかも知れませんが、そこからのQWERTYキーボードを採用したタイプライターの数の推移を見れば、この囲い込みが主因でデファクトスタンダードになった事は言えると思います。 投稿者 kameno | 2005年3月5日 10:27