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曹洞宗関東管区役職員研修会が山梨県を会場として開催(主催・山梨県宗務所)されました。
2日間の日程のうち、初日の講演について、内容をかいつまんでご紹介いたします。
講演の演題「医療と仏教の橋渡し」~在宅ターミナルケアと仏教の持つ可能性~
として、ふじ内科クリニック院長の内藤いづみ先生にご講義をいただきました。
内藤いづみ先生は、曹洞宗で製作している人権啓発ビデオ「向きあう 伝える 支えあう~生と死を見つめて~」において、「いのちと向きあう~在宅ホスピス」でご出演されている先生です。
人権啓発ビデオにおいては、
○限られたいのちを輝かす
限られたいのちの今を輝かすことに集中して寄り添うケアをしていくと、明日に希望を持って迎えられることを学びました。だから、痛くないように、辛くないように私たちがしてあげるから、今日を頑張って生きようということが伝えられる。
○いのちと向きあい支えあっていく
「あなたはこの世に生まれたただひとつのいのち」ということを尊重する。いのちの主人公になってもらうこと。そこまで私たちが尊重していく。
○「ありがとう」と「さようなら」
絵に描いたようなことはなかなか起きないけれど、「ありがとう」という言葉と、残す人への「さようなら」、そして「ごめんね」という言葉を残せたらそれは凄いと思います。
という内容でまとめられています。
今回の講演では、昭和30年代生まれの世代が、台所の竈を知る最期の世代であり、家で出産や最期を迎える方が7~8割でありごくあたりまえに生老病死が身近にあった世代であるけれども、それ以降は急激にそれらが普段の生活から遠ざけられてしまっているという問題点を最初に指摘されました。
生も老も病も死も科学の力に頼る時代になっています。
出産は産院、老や病はケアマネージャー・ナース・ドクター、死も病院で迎えることがほとんどです。
僧侶は、死にゆく人に関わっているのか、それとも死後にのみ関わっているのか。
お寺のあり方、僧侶のあり方に提言をいただきました。
内藤先生の実践されてきた在宅ターミナルケアの契機となった本は、次の2冊です。
1冊目は『死ぬ瞬間―死とその過程について』 (中公文庫) [文庫]
エリザベス キューブラー・ロス (著), Elisabeth K¨ubler‐Ross (原著), 鈴木 晶 (翻訳)
著作者のエリザベス キューブラー・ロス先生はスイス生まれの心理学者で、アメリカへ渡り、200人の末期ガン患者に直接面談し、彼らが死にいたるまでに、「否認と孤立」「怒り」「取り引き」「抑鬱」「受容」の5段階の心の動きがあることを発見しました。
そして、もう1冊が『ダギーへの手紙』―死と弧独、小児ガンに立ち向かった子どもへ [単行本]
エリザベス キューブラー・ロス (著), はらだ たけひで (イラスト), Elisabeth K¨ubler‐Ross (原著), アグネスチャン (翻訳)
1968年生まれのダギー君は、小児癌を発症し、余命3ヶ月と宣告されていました。
そのことを知ったダギー君が発した問いかけ
いのちって、何?
死って、何?
どうして、小さな子どもたちが死ななければいけないの?
何か悪いことをして罰を受けなければならないの?
この疑問に対し、両親も病院の先生もダギー君に答えることばが出てきませんでした。
ある人が、エリザベス キューブラー・ロス先生に手紙を書くことを勧めます。
それに従い、ダギー君は、エリザベス キューブラー・ロス先生宛てに手紙を送りました。
各地を飛び回って忙しい生活を送っていたエリザベス先生でしたが、ダギー君の真摯な問いかけに心を打たれ、手描きの絵が添えられた手紙を返しました。
ダギーへ
エリザベスより
あなたのために、1978年5月の最後の日に書きました。
これは、いのちについての お話です。
<中略>
人はまるで、種のように うまれてくる。
たとえば、たんぽぽの種のように
野原に とばされて
どぶに おちてしまうもの。
きれいな 家のしばふに おちるもの。
花だんの上に おちるもの・・・
<中略>
人生は学校みたいなもの。
いろいろなことを まなべるの。
たとえば、まわりの人たちと
うまくやっていくこと。
自分の気持ちを 理解すること。
自分に、そして 人に 正直でいること。
そして、人に 愛をあたえたり
人から 愛を もらったりすること。
そして、こうしたテストに
ぜんぶ合格したら
(ほんとの学校みたいだね)
私たちは卒業できるのです。
つまり、ほんとうの家に かえることを
ゆるされるのです。<中略>
家族との 再会のようなものだね。
それが、私たちの 死ぬときです。
仕事が おわって
からだをぬぎすてて
つぎのところへ すすむことが
できるのです。
<後略>
ダギー君は、エリザベス先生からの返事を読んで、なぜ小さな子どもが死ななければいけないのか「わかった」と、死について理解しました。
そして、余命3ヶ月と宣告されていたダギー君は、エリザベス先生の励ましもあり、13歳まで生を全うしました。
この手紙を自分だけでなく、同じような不治の病の子どもや親たちにも読んで欲しいという願いが込められた本が『ダギーへの手紙』です。
『死ぬ瞬間―死とその過程について』 『ダギーへの手紙』は、それまで明確な概念がなかった終末医療や緩和ケアに対する指針を示すエリザベス・キューブラー・ロスの真髄とも言えるものです。
特に『ダギーへの手紙』は子どもにわかるように書かれたやさしいことばで書かれたものですから、明快かつストレートに伝わります。
ホスピスケアは、近年は緩和ケアと呼ばれるようになりました。
家族が命の最期を見届けることができるよう働きかける在宅終末医療をいかに進めていくことができるか、尊厳死をどのように遂行するか、そこに僧侶がいかに関わることができるかを考えさせられる講義でした。
そして、様々な在宅医療の奇跡の実例をご紹介いただきました。
科学は奇跡を否定しますが、科学的なことが必ずしも人間の幸福をもたらさないということもあるのです。
曹洞宗の経典、『修正義』は「生を明らめ死を明きらむるは仏家一大事の因縁なり・・・」で始まります。
我々が生きているということは、どういうことか、死とはどういうことか、その真実をはっきり見極めるのが仏教者として最も根本的問題であるのですが、その問題をわかりやすく説くということ、その問題にいかに関わっていくことができるか。
生死に対する根源的な問いに対し、取り組んでいく姿勢は宗教者にとって重要な姿勢でありましょう。