屋根貸し制度と曹洞宗メガソーラー

京浜工業地域には火力発電所が点在していますが、稼働率が高まっていることもあり、今朝も白い水蒸気の煙を勢いよく吐き出していました。
風のある日は、その煙が一列の雲となっています。
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電気事業連合会の資料による電源別発電電力量の実績および見通しを見ると、2009年では原子力発電が29%。
東日本大震災発生前の計画では、原子力発電の割合を2019年度には41%にまで高める計画でした。

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しかし、震災以降、日本各地の原子力発電所は稼動停止を余儀なくされ、その分の電力をを他の発電施設によって賄わなければならなくなっています。

そのため逼迫する電力需要に追いつくために既に廃止が決まっている火力発電所を再稼動させたり、新たなガスタービン発電所を設置したりということで、冒頭の写真のような光景が当たり前になりました。
一昨年まで世間に溢れていた「温室効果ガス(CO2)」排出削減というキャッチフレーズはすっかり影を潜めてしまいました。

さらに、火力発電所のフル稼働により燃料費がかさみ、コストの負担が増加しているという報道もあります。
⇒電力、燃料費1兆円増 火力急増で7社赤字

原子力発電所の新規建設は、恐らく困難でしょう。
しかし、現在ある原子力発電所については、無条件で廃炉という暴論は避け、冷静に震災の教訓を踏まえた上で徹底的に安全面での改善を図り、寿命を迎えるまでは稼動させる必要があると考えます。
また、事故を起こした原子力発電所の廃炉に向けた手続き、事故発生後の処理の方法など、現在の日本ならではの経験を充分に蓄積して、世界各各地に設置されている原子力発電設備の安全運用に生かすことが大切でしょう。
とにかく事故の収束と除染を徹底的に行い、その経験、教訓を生かすこと、それが今の日本に課せられた役割であり、生き残る道であると思います。


 

さて、もう一つの方向性は、自然エネルギーへの転換の促進です。
震災以降、太陽光発電がさらに注目され、普及の勢いが加速しています。
一昨年前から始まった倍額買取制度もその後押しをしています。

ただし、太陽光発電設備を設置する場合に一番の障壁となっていることは、「初期投資」の負担が大きいということでしょう。
ざっくりした計算で、向こう15年~20年分の電力料金の負担を先行投資するわけですから、資金にある程度余裕があり、かつ自然エネルギーに対する熱意がある程度無いと導入のモチベーションには繋がりません。

 

そこで、今日の記事のタイトルの「屋根貸し制度」が今年の大きなトピックスとして挙げられます。
屋根貸し制度については、これまでも構想があったようですが、先日枝野幸男経済産業相による制度創設の発言により、より具体化してきました。

屋根貸し制度とは、一言で言うと 「発電会社が各家庭の屋根を賃借し、そこに発電会社がパネルを置けるしくみ」ということです。

 

(1)発電会社にとっては 太陽光発電設備を設置する広大な場所を確保でき、売電収入も得ることが出来る。
(2)各家庭にとっては、屋根を賃貸資産として活用でき、賃料が入る。初期投資も不要。
(3)社会全体としては、自然由来の発電電力量が増え、その分原子力発電設備、火力発電設備の負担が軽減する。

という、一石三鳥(win-win-win)の仕組みです。

 



さて、この「屋根貸し制度」を一歩進めて、一つの提言を行っています。

以下は 私が2007年度の曹洞宗総合研究センターの学術大会で発表した際のまとめと提言です。


 


■まとめと提言

環境問題への意識の高まりとともに、太陽光発電設備の全国における累計設置発電容量は、2004年までに住宅用、公共産業用合わせて113.2万キロワット(総合資源エネルギー調査会調査)と、急速に増大している。また、新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法に基づく基本方針に掲げる導入目標において、2010年に482万キロワットという設定がされている。

このような背景のもと、「グリーンプラン」の実践として、全国の曹洞宗寺院に新エネルギーによる発電設備、特に太陽光発電装置を導入していく事例が増えている。これまでは、寺院個々の「点」としての活動であった。しかし、その設置事例が増えていくにしたがって、それぞれが連携して「面」としての情報として体系化することは重要である。

特に、全国に1万4千もの寺院と多くの檀信徒をもつ曹洞宗は、環境施策においても大きな力を発揮する事ができるだろう。寺院の有する境内地を活用するだけでも計り知れない可能性を持っている。
宗門が主導率先し、各寺院・檀信徒が連携して新エネルギー導入を推進していく事は、「グリーン・プラン」の実践として重要な案件である。また、その情報を宗門がリアルタイムに把握し、発信していくことにより、その価値をさらに高めることができる。

そのために、新エネルギー設備導入にあたり、初期投資費用の補助や、技術的導入の指針、宗費減免や褒章制度など、普及推進に向けた具体策を実現させていくことは重要な施策といえよう。これまでの実績を踏まえ、今後どのようなことが可能かを列挙する。

(1) 新エネルギー発電設備導入に際する具体的なガイドラインを作成する。
(2) 公益法人・非営利法人に対する公的補助は、営利企業や一般住宅に比べて優遇されているが、その利用に関する情報を寺院に向け発信する。
(3) 全国寺院に発電設備がどれだけ設置運用されているかを把握し、発電実績を集約して体系付けて公表する。
(4) グリーン電力証書システムを活用し、化石燃料削減・ CO2排出削減などといった価値を全国レベルで具体化させる。
(5) 新エネルギー発電設備に関する補助金を曹洞宗独自に設定する。
(6) 宗費減免や褒章制度を宗制として定める。
(7) 宗門各機関や寺院がISO14001の認証を取得することをめざして活動を展開する。


このうち、(5)(6)をより具体化させたものとして、宗門独自の「屋根貸し制度」推進を図ることも有効な手段だと考えます。
つまり、屋根貸しを各寺院の単位で行い、家庭よりも単位設備規模の大きな制度として深化させるわけです。

 

日本全国には、曹洞宗の寺院だけで、1万5千か寺ほどあります。
(他宗派を含めると7万か寺ほど)

その一か寺あたりの土地面積を1万5千m2とします。
すると、15,000 m2×15,000 か寺=225,000,000 m2 となり、約2億2千万m2もの面積にもなります。
この土地全体に降り注ぐ太陽光のエネルギーは、ピーク時には約2億2千万 Kwにも達します。
東電の夏の最大電力需要予測は、約6千万Kw強ですから、それを軽く賄うに余りある太陽光エネルギーが日本全国の曹洞宗寺院境内に降り注いでいるわけです。

もちろん、境内地全てに太陽光発電設備を設置することは現実的ではありませんので、もう少し現実に即した計算をしてみましょう。
一か寺あたり、仮に平均10kwの太陽光発電設備を設置したとすると、発電ピーク時には10kW×15,000 か寺=15万kwになります。

総体的に曹洞宗メガソーラーとも言える設備になります。

東電の夏の最大電力需要の2.5%を曹洞宗寺院だけで生み出すことが可能となります。

各寺院にとって、屋根を賃貸資産として活用でき、賃料が入り、初期投資も不要となれば、かなり理解が得やすいのではないでしょうか。

その推進の中心を宗門が全国寺院と連携して担い宗費減免や褒章制度を宗制として定めることとにより、経済的な負担も無く新エネルギーの普及に貢献できると考えます。
今年がその絶好の機会であるといえましょう。

 


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投稿者: kameno 日時: 2012年2月 1日 10:57

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