人工の自然林・明治神宮の森


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先日、テレビを何気なく見ていたら 『素敵な宇宙船、地球号』「空から見た東京」 ?あなたが知らない大都市の素顔? が放送されていました。
空から東京を概観するという番組です。


その中で、コンクリートジャングル、東京にあって豊かな自然が残されている場所、明治神宮が紹介されていました。
実に東京ドーム15個分の広さがある明治神宮の森は人工的に作られた自然林として有名です。


現在は豊かな森となっている場所も、明治神宮を設営する場所として選ばれた当時は、元々は森がない荒地でした。

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左:迅速測図(1880-85)  右:1/2000地形図(明治42年測図)

ぽつぽつと畑や茶畑が見える程度ですね。
そういえば、代々木という地名は、この地にあった一本の樅の木が名前の由来となっているそうです。
樅の木が目立つほど、この地には木が無かったことを物語っています。


明治神宮技師沖沢幸ニさんは、番組の中で「天然更新」をキーワードに、森の造営について語られていました。


神宮の森なので永遠に続くこと、鎮守の森としての荘厳さを持続させること。
つまり、人の手を借りずに、自然に世代交代できる森。
それが「天然更新」の森です。


そのような森を目指して、本多静六氏をはじめ当時の森林造営における一流の学者らと神宮造営局の技師らにより、大正10(1921)年、『明治神宮御境内林苑計画』が作られ、それに則り日本各地や朝鮮半島、台湾などから365種約12万本の献木が計画的に植えられていきました。

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地形図(大正8年)


まず、この地に生えていた松類の間に成長の早い杉、檜などの針葉樹、その下に樫や椎などの常緑樹を植えていきます。

造営から約50年後、第二次林相では、成長の早い杉、檜が松類の背丈を超え、松が枯れていきます。

造営から約100年後、第三次林相では、常緑樹が成長し、森全体を覆っていきます。

これが現在の姿です。
森のあちこちには折れた杉や檜の木がありますが、これらは森の形成の段階において役割を終えた木々なのです。

そして、今後、造営から約150年後には、第四次林相として、常緑樹が成長することにより針葉樹が消滅し、常緑樹の大森林ができあがります。

これは、学術的には植生遷移または植生連続(サクセッション)という概念であり、当時からこの理論に基づいて林苑計画に応用し実践されてきたということは、驚きでもあり誇るべきことでありましょう。


きちんとした森林計画を立てることにより、100年程度で天然更新の自然林へと人工的に導くことができるという好事例です。


寺院境内地の植樹も、50年、100年先を見据えた計画を実行することが必要だとつくづく感じます。
そして、その際には『明治神宮御境内林苑計画』のような基本理念を明示した計画書と、それを厳密に実行する人を育てていくことが大切です。
 


日本の森林の現状は、かなり厳しい状況にあります。
針葉樹林は林業を支える方々の高齢化や、需要の低下により、管理が行き届かない林も多くなっています。
また、都市部の、いわゆる雑木林でも、人の手が入らなくなったために放置され藪になってしまったり、孟宗竹に覆われてしまったり、森林自体が機能していない場所も多く、針葉樹林も雑木林も人の手による管理が必須です。
人の手による管理がなされないと森は死んでしまいます。

対し、明治神宮の森は「落ち葉の清掃は参道や建物の周りに限り、樹木の養分になる森の中はそのままにしておくこと」(『明治神宮御境内林苑計画書』)というように、自然のままに任せるよう示されています。
森林計画がしっかりとできているからこそ、人の手を借りずとも壮大な森林へと遷移していきます。

「敢テ人為ノ植栽ヲ行ハスシテ永久ニ繁茂シ得ヘキモノタルヲ要ス」


天然更新の森は、私たちに森との付き合い方を教えてくれます。


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明治神宮公式サイト

投稿者: kameno 日時: 2009年9月19日 09:40

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