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去年の春に城山三郎さんが亡くなったとき、五木寛之さんが本紙に寄せた追悼文に、こんなくだりがあった。〈(先に亡くなった)奥さんの葬式にきてくれた浄土真宗の僧侶が、リーズナブルな金額を申しでたうえに、ちゃんと領収書をくれたことを感心して話されていた〉▼そのときの城山さんの表情が五木さんは印象深かったそうだ。ささやかな一コマだが、筋の通らぬことを嫌った故人らしい話だと思って読んだ▼葬儀などの際、包んだお布施に釈然としなかった人は1人や2人ではあるまい。数十万円、ときにはそれ以上が領収書もなく渡される。いまどき政治の世界でもない話だ。「相場」と言われる額の当否も外部には分かりづらい▼不透明さが仏教界への不信を招いているのではないか。憂える青年僧ら約20人が、東京で「寺ネット・サンガ」なる団体を旗揚げした。お布施について、施主に十分説明し、使途も明示するなどして、信頼を得る道を探るそうだ▼代表の中下大樹さん(33)によれば、近年、葬祭業者から仕事を回してもらった僧が、謝礼にお布施の何割かを渡す「キックバック」も見られる。そして戒名は金次第。すべての寺ではないにせよ、あれやこれやの算盤(そろばん)が「葬式仏教」などと批判されて久しい▼「宗教は死者を弔うばかりではなく、生者の心を救うもの」。そう語る中下さんは、これまでにホスピスで多くの人を看取(みと)ってもきた。青年僧たちは、受け取ったお布施を様々な社会貢献にも充てるという。旧弊をゆさぶって吹く、新しい風になれ。(「天声人語」2008年10月20日・朝日新聞)
下線はkameno付記
問題を提起していただいたことはありがたいのですが、『天声人語』で書くのであれば、個人的な思い入れではなく、十分な検証を行ったうえで書いていただきたいところです。
葬儀に際し、僧侶側からリーズナブルな金額を申し出たとの点ですが、布施というものは僧侶側から申し出されるべきものでしょうか。
領収書を発行したことについて感心されたとのことですが、領収書を発行することは、法人として当然のことです。
もしも領収書を発行しないことが社会通念として常識となっているとすれば、それは逆に問題だと感じます。
寺院の会計はどんぶり勘定であったり、公私が混同されたりしてはなりません。
定期的に税務調査等が入り、会計処理に関する指導が適宜なされる現在では、不正処理を行うことは困難であるといえます。
ただし、収支決算書、貸借対照表、キャッシュフローをきちんと処理し、外部監査機関によるチェックを受けて、利害関係人に公表まで行う寺院はまだ多くないと思います。
このあたりは、他の公益法人と同様に基準を定めて会計処理を行うことは必要でありましょう。
本日、冒頭の「天声人語」に対する「読者の声」が掲載されていました。
高額のお布施 思いもよらぬ
住職 ****(三重県***町 73)10月20日の「天声人語」で葬儀の布施についてふれてありました。数十万円などという額の布施に驚きました。
きっと都会の富裕層なのでしょう。当方では、そんな高額な布施やお礼を手にしたことはありません。過疎地では求めもしませんし、出して頂く余裕もないと思いますから。
戒名に金でランクをつけるなど、あってはならないことです。寺の経営上、仏教本来の精神を離れて、お金に振り回されている実情もあるようです。
内部から改革の声は上がりにくいので、今回のように、外部から素直な意見を聞かせて頂けば刺激になるでしょう。
辺地の寺を守っていくのは容易でありません。
兼職で支えていますが、それも困難になっています。住職は高齢化で亡くなり、無住・兼務が増えて葬式を出す人手も足りない集落もあります。人々の心のよりどころとして安らぎの求めにこたえる。それが僧侶の仕事と考え、檀家と苦労を共にし、出来るだけのことをしたいと思っています。
(「声」 2008年11月3日・朝日新聞)
全国に分布する寺院は、ごく一部の大規模寺院と、大部分の中小寺院により構成されています。
「声」に投稿されたようなご寺院様が大部分です。
このあたりは、以前ブログでも書きましたが、いわゆる赤字の寺院が過半数を占めています。
たとえ、過疎地の小さな寺院であっても、会計処理を行うことにより、運営上の問題点が明確化となります。
赤字の寺院であれば、ただ漠然と運営が苦しいと訴えるのではなく、どの程度の赤字であるのかを具体的にきちんと把握できます。
檀家さんと苦労を共にする一つの拠り所ともなるでしょう。
貞昌院では次のように檀家の皆さまに提示しています。
貞昌院の護持会費・墓地管理費など
これから、寺院を取り巻く環境はますます厳しくなることは間違いありません。
読者の声に投稿されたご意見のように、外部からの声を真摯に受け止めていくことは大切なことであると考えています。
最後に、「天声人語」で紹介されていた「寺ネット・サンガ」に関する記事をご紹介します。
現代の仏教界や社会の抱える諸問題に危機感を抱き、包括的に対処していくことを目指す超宗派の僧侶・寺院のネットワーク「寺ネット・サンガ」の発足会が十七日、東京の浄土真宗本願寺派築地別院第二伝道会館で開催された。同会に賛同する仏教者、葬儀業者、NPO関係者らが一堂に会し、今後の展望などについて語り合った。
任意団体「寺ネット・サンガ」は、菩提寺がない人の葬儀・法要・納骨、セミナーや法話会などの情報発信、看取りの段階からかかわるターミナルケアなどを事業内容としている。特徴的なのは、会の活動を通じて得たお布施から葬儀社などへのキックバックは一切行なわないこと。組織内にはファンド(基金)を設立、正会員はお布施の半額を納め、公益性の高い団体など社会に還元していく方針を打ち出している。事務所は東京都新宿区に置かれ「駆け込み寺」としての役割を担い、定期的に「サンガの会」を開き、業種の枠を超えて"いのち"のあり方について議論する。会員の優良な葬儀社・石材店・関連企業を同会のホームページで紹介するなど業者との連携も図っていく計画だ。
同会の代表は、ビハーラ僧としての経験も豊富な真宗大谷派僧侶の中下大樹氏が務め、全国青少年教化協議会主幹の神仁氏、浄土真宗本願寺派延立寺住職の松本智量氏をはじめ約十人の僧侶らが世話人となる。
発足会では、神氏の導師による法要の後、事業計画の説明などがあり、中下代表は「われわれは次の世代に何を訴えられるか、自分たちは何を受け継いできたのかが問われている。言葉だけではなく実践を通じて伝えていきたい。次世代に誇れる仕事をし、道なき荒野に道をつくっていきたい」と抱負を語った。
(中外日報情 2008年9月20日より)
葬儀社などへのキックバックについては、ホント問題です。
寺院の問題というよりは、都市部に多い寺院を持たない僧侶が増えていることと非常に関連します。
この問題については、日を改めて考えていきたいと思います。