貞昌院でかつて頒布されていた家伝薬があります。
その名も「繋命蘇生湯(けいめいそせいとう)」
効能と用法を記した版木が残されています。
まずは、数年前に川崎市民ミュージアムで展示されていたときの図録をご紹介いたします。
『まじないと占い』企画展解説図録(川崎市民ミュージアム、2001年)より
誤)撃命
正)繋命
かつては病気や災難は、神仏の祟りや厄神、魔物などによりもたらされたという考えもありました。
寺院と薬の関係は深く、病気や自然災害、家事や盗難などの災難を予防したり祓いのけたりするために用いられたものがたくさん残されています。
僧侶のくすり8世紀にわが国に仏教が伝えられて以来、医療を行う僧侶が多く現れた。これは中国から医学を修めた名僧が日本に渡来して後進に医学を教えたり、仏教の修行に日本の僧侶が中国へ渡った際、同時に医学も伝えられたためである。
奈良時代(754年) に来朝した鑑真は、膨大な数の生薬や「呵梨勒丸(かりろくがん)」等の薬物をわが国にもたらしている。鎌倉時代になると栄西が中国・宋より茶の種をもらい受けて『喫茶養生記』(1221年) を出版しているなど、医療を施した僧の例は数限りない。
仏教では教義を究めるための補助として五つの学術を規定し、「五明」と称していた。そのひとつに「医方明」と呼ばれる医学の研修実践があった。病人を介護すること自体が、仏教における慈悲の行いの具体的修行に含まれていたわけである。当時の僧侶が医薬に詳しかったのはこのことからきている。
だが、修行とは別に、僧侶は仏教を庶民に伝道するためのひとつの手段として、広く人びとに医療を施した。僧侶は当時、一般にはなかなか与えられなかった「通行の自由」をもっており、諸国への通行が許されていた。このことは、仏教の教義を人びとに浸透させると同時に、医療を広め、薬草の知識や薬の製造方法を諸国に伝えることに大いに役立った。
僧侶が諸国にもたらした代表的なくすりとして、高野山の山岳修験僧の中から生まれ、信仰を通じて庶民の常備薬に普及した 「陀羅尼助(だらにすけ)」や、木曽御獄山の 「百草(ひゃくそう)」、越中立山の 「練熊(ねりぐま)」などがある。
これらのくすりは「神授」として信仰の意味も含めて、江戸時代には人びとに広く親しまれていった。薬局の歴史博物館より引用
先日のサイエンスカフェ「天神おみくじ体験会」の際に、この「繋命蘇生湯版木」も摺り出しました。
内容を、当日参加くださっていた 古文書の会 の方々に読んでいただいたものをいただきましたのでご紹介いたします。
繋命蘇生湯(けいめいそせいとう)
1、産前産後血の道一切に用いて妙なり。婦人懐妊のうち、常に用いて母子共に安躰にして平産する事うたがいなし。
1、経水(月経)不順又は経水きたらんとする時腹痛む
1、産後、反り気、震い気或は気を取り失い、目を引付け歯をくいつめなどする症にも、この御薬たてつけ、度々用いて快気する事妙なり。また、あとにていよいよ用ゆる時は、全快する事うたがいなし。
1、産後一切の患い、悪血の滞りにて腹痛むに用いてよし。第一悪血を下し、新血を生じ、のぼせ、みつなり。目まい、立くらみ、気のつきおとろえ、或いは雨風のせつ、心あしくものにたいくつしてあくび出てこころ持あしきに、度々服用すべし。其外、産後、いかようの患いにも用いて其病を治す事奇妙なり。
1、産後、きちがい又は半産血あらし或は子おろしたるあとにて用い、よく血をおさめ、快気する事うたがいなし。
1、産後いずれの患いにも、善悪にかかわらず服用すべし。其やまいを治す事妙なり。惣じて婦人いづれのやまいとも見わけがたきには、二廻りほど用て、しるしあり、又あとにていよいよ用ゆる時は、全快する事奇妙なり。
1、産後、きちがひ、ものぐるいなどする事あり。此御薬二廻りか、または五廻りほど用い、本腹することうたがいなし。
1、男女、大人、小児共に持薬にして、第一よく脾胃をおぎない、気血をととのえ、めぐりをよくし、万病を治し、無病となる事奇妙なり。
1、なか血志らち其外こしけ一切用いてよし。
江戸時代は女性にとって出産は一命にかかわるほど大変なことでありました。
そのような環境の中で、先人たちがどのように病気、出産に立ち向かっていったのか、そこに寺院がどのようにかかわっていたのかが生々しく伝わってきます。
ざっと読んでいただいたものですので、まだ判別不能な箇所もあります。
また、現代では人権上適切でないと思われる表現も含まれておりますが、その点をご留意ください。
いろいろと調べているうちに、とても興味深い記事をみつけました。
おみくじと処方のコラボレーションです。
それが現代でも受け継がれているということに驚きです。
医学の計り知れない領域がまだまだ存在するのですね。
【ほんとかいね そうなんや】 “おみくじ処方” ご利益は?体調不良を訴える市民の求めに応じ、最適な薬をおみくじの結果で紹介してくれる寺院が金沢市内にあるという。実態を確かめるため訪ねた。その寺院は、東山一の観音院。住職によると“おみくじ処方”は代々続く伝統の儀式という。科学的根拠は示されていないが、手続きの流れはこうだ。
<以下、こちらをご覧ください> 中日新聞(2006/9/2)
■関連記事
天神おみくじ体験会第二弾報告
長野の善光寺の門前で雲切目薬という目薬が売られています。
昔の物は白内障が良くなるというものだったようです。現在の物は手術の出来ない体質の方が白内障の症状が軽くなるというそうです。私はある本で太祖さまが薬事の心得があるという記述を見た事がございます。
投稿者 天真 | 2008年10月 5日 20:17
天真さん
善光寺の雲切目薬は有名ですね。
宗教、寺院、僧侶と薬は深い関係がありますので、調べてみると面白そうですね。
東京都薬剤師会北多摩支部さんの「おくすり博物館」に宗教にかかわる薬の数々が紹介されています。
二番目のサイトに薬事法以前に頒布されていた善光寺雲切目薬も紹介されています。
http://www.tpa-kitatama.jp/museum/museum_05.html
http://www.tpa-kitatama.jp/museum/museum_07.html
投稿者 kameno | 2008年10月 5日 22:26