再生紙問題ー製紙業界に走る激震

有力6社で再生紙偽装 印刷用紙など幅広く

 製紙メーカーが年賀はがきやコピー用紙の古紙配合率を偽装していた問題に関連し、三菱製紙、大王製紙、北越製紙の三社は十八日午後、社長らが相次いで記者会見し、はがきやコピー用紙など幅広い品目で実際の古紙配合率が公表値を下回っていたとする社内調査結果を発表し、謝罪した。また、中越パルプ工業も同日夜、印刷用紙や包装紙などで偽装を行っていたことを認めた。これにより既に偽装を公表していた日本製紙グループ本社、王子製紙を合わせ有力六社がそろって偽装を続けてきたことが明確になった。 
日本製紙の社長は辞任の意向を示しているが、日本製紙以外で会見した四社の社長は辞任を否定した。
会見で各社は“業界ぐるみ”の様相を呈してきた再生紙の偽装について、激しい受注競争を背景に、営業を優先するあまり古紙利用と事実の公表をおろそかにした業界の体質などが影響したことを説明した。
偽装していた六社の紙全体の生産量のシェアは、合計で約80%(二〇〇六年)に達する。
しかし、偽装に手を染めた各社との取引を見合わせる動きも広がっており、今後、消費の現場に混乱を及ぼす恐れがある。
調査結果によると、三菱製紙は調査した二十品目中十一品目で偽装があった。環境に配慮した製品の購入を国などに義務づけたグリーン購入法に基づき、納入する全製品が公表値を下回っていた。公称100%の古紙配合率のコピー用紙(月産六百九十二トン)が実際は50%だった。
大王製紙も古紙配合率100%としていたコピー用紙の実際の配合率は41%だった。北越製紙はグリーン購入法対象の印刷用紙で公称配合率70%に対して実際は19%だった。
(東京新聞2008年1月19日 朝刊)


日本製紙、古紙の配合率を契約より低く・年賀再生紙はがき 

日本製紙は9日、古紙を使った「年賀再生紙はがき」用紙の古紙配合率が契約で取り決めた水準を大きく下回っていたと公表した。契約では古紙を40%使うとしていたが、実際は「1―5%程度」(同社)にとどめていたという。日本製紙は40%の古紙配合率では十分な品質を確保できないと判断。配合率を引き下げていた。(日経新聞)



 

昨年、再生紙・非木材紙は本当に環境にやさしいか という記事の中で、グリーン購入法と再生紙の問題について書きました。
去年一年は「偽」という一字に象徴された年だったようですが、年を越えてなおこのような問題が明るみになるということが残念です。

まだまだ発覚していない「偽」はたくさんあるのでしょう。


さて、昨年の記事での結論のうち、再生紙については、古紙100%使用の再生紙についての疑問を提示しました。
その際の結論の一つが


結論(2)
紙の原料のうち、木材パルプについては、
環境的持続可能性(生物多様性の維持、生態的プロセスや生態系の保全)、
社会的持続可能性(森林に依存している人間社会の維持)、
経済的持続可能性(継続的な木材生産と健全な森林経営)
などを念頭において生産されることが必要であり、また、紙の使用目的に応じて、それぞれの古紙の配合率を考え、その中で全体として古紙配合率を高める(決して100%ではない)ことこそが、環境にやさしい紙であると言うことができるでしょう。


というものでした。
そもそも、古紙100%配合の再生紙そのものが環境に優しいわけではないし、しかも技術的にほぼ不可能であるというのに、グリーン購入法で古紙100%の再生紙購入を義務付けるという馬鹿げた構図が引き起こした偽装体質であると言わざるを得ません。

まずは日本製紙のプレスリリースを見てみましょう。

News Release 日本製紙 2008 年1 月16 日 弊社製品に関する社内調査結果について

このたび、弊社が再生紙として製造している製品における古紙パルプ配合率について、全製品を対象にして調査した結果、決められた配合率を下回っている製品が葉書以外にも判明しました。その内容は別紙のとおりであり、それらの中には、グリーン購入法の基準を満たしていない製品もあります。弊社といたしましては、環境問題が国民の主要な関心事となっている今日、国民の皆様の信頼を裏切ってしまった事実を深刻に受け止め、ここに深くお詫び申し上げます。
このような事態を引き起こしました背景には、古紙パルプの配合率を上げることにより、再生紙の使途に求められる品質を実現することが、現状の弊社の技術レベルでは困難であるという問題があります。


当初から出来ないことがわかっていた訳です。


これまで弊社は、古紙は貴重な資源であるとの認識に立ち、古紙活用の最大化を技術的な課題として努力してまいりました。しかしながら、特定の古紙パルプ配合製品に求められる品質上の問題への対応に苦慮し、その結果、古紙パルプ配合率を下げることによって求められる品質の実現を優先させてしまいました。

環境意識の高まりにより社会からの要求が技術的に困難なレベルのものを要求されるようになり、品質を下げるよりは偽装を選んだということです。
しかしながら、このような論理がわかりません。
まったく釈明にもなりません。
古紙100%の再生紙を作ってみて、コストはこれだけ高くなります、品質はこれだけ落ちますということを素直に提示するべきでした。
それにより、グリーン購入法がいかに馬鹿げた現実離れした法律かがわかりますから。

こうした判断と行為は、これまで日本政府や組織団体、そして多くの国民の皆様が意識を持って取り組んでこられた環境保全に対する活動に水を差すものであり、たとえ「環境偽装」と言われたとしてもこれを否定できるものではありません。どんな理由があるにせよ決して許されない行為であります。

決して許されないでしょう。


結果として多くの皆様の善意を踏みにじることになってしまいましたことに対し深く反省するとともに、このような結果になってしまいましたことを重ねてお詫び申し上げます。経営責任につきましても、この事態を重く受け止め、原因の究明、責任の所在等、全容が明らかになった段階で、あらためて発表させていただきます。
今後の弊社の取り組みといたしましては、二度とこのようなことが起きないよう、再発防止体制とコンプライアンスの徹底を、外部の識者を交え実現させてまいります。また、古紙活用の最大化を目指し技術開発に取り組んでいくことはもちろんのこと、バランスを考えて古紙を上手に無理なくたくさん使う取り組みを進めてまいります。紙の用途に応じて、求められる白さや保存性を考慮した上で最適な古紙パルプの配合に努め、全体として古紙利用量を増やしていきたいと考えております。
このような弊社の取り組みを、お取引先及びお客様をはじめ、関係者の皆様にご理解いただけるよう、今後あらためて努力してまいります。


古紙100%の再生紙は、今後、ほぼ生産されなくなるでしょう。
そうなった場合、グリーン購入法はどうなるのでしょうか。
そもそも、再生紙の定義って何ですか?

日本製紙の実態調査の結果も余りにも酷いです。


年賀葉書は、殆んどが再生紙はがきです。
その古紙パルプ配合率の仕様基準は、化学パルプ 60%、古紙パルプ40%とのことですが、実際の古紙パルプ配合率の実績は、今年平成成20年用の年賀葉書きで実に1%

。これでは古紙パルプの配合を行っていませんでしたと言っているのとほぼ同じです。
なお、年賀葉書は平成8年用から再生紙化されていますが、それぞれ5%以下(1%?5%)とのことです。

■日本製紙の言い訳
葉書用紙が再生紙化された平成4年当時、工場内発生損紙も古紙として認識し、古紙パルプ6%と合わせた30%でテスト生産した結果、近い将来の技術革新で配合率40%の実現が可能と営業判断し受注を開始しました。その後、工場内発生損紙が古紙パルプとして認められないことがわかり、本来は古紙パルプを増配すべきところ、古紙由来のチリ、墨玉等の夾雑物が多くなるため品質を確保することができずに、古紙パルプ配合率が低いまま生産しておりました。それ以降、現在に至るまで配合率を上げるべく操業努力してまいりましたが、入荷する古紙の品質低下、異物混入に対する品質管理要望が高まり、配合率は上記の通り乖離しておりました。

それでは、コピー用紙などはどうでしょう


年賀葉書以外の製品について
(1)古紙パルプ配合率の基準と実績
現在生産を行なっている、古紙パルプ配合率の基準が設定されている製品のうち、コピー用紙などの製品に、残念ながら、基準と実績との間に乖離が確認されました。

再生紙として生産している銘柄 (生産量:H19年10月?12月)
(1)グリーン購入法対象品
情報用紙 コピー用紙  公称100% ⇒ 実際の配合率 59%  月生産量 6,540t

(2)グリーン購入法適用以外の再生紙
? 情報用紙 コピー用紙 公称 100%・70% ⇒ 実際の配合率 11%  月生産量4,415t

グリーン購入法を対象とする製品で基準に満たない製品があります。これらの製品につきましては、当社ブランド品については、直ちに生産を中止することとします。
また、お客様のOEMブランド品、および特定のビジネスユーザー向けの製品(特抄品)で、当初の交渉において取り決めた古紙パルプ配合率から乖離が出ているものがあります。それぞれのお客様に至急ご相談申し上げ、誠意ある対応をしてまいります。
また、付表にある、過去に生産した在庫品につきましても、お客様に至急ご相談申し上げ、誠意ある対応をしてまいります。


誠意ある対応として、古紙100%の再生紙と交換する・・という対応は考えられないですね。
生産できないわけですから。
とすると、品質の良いバージンパルプ100%の紙と交換するとか(皮肉)・・・・

■日本製紙の言い訳
?印刷用紙
製品の発売当初(平成11年ごろ)は、配合基準に合わせて古紙パルプを配合しておりましたが、古紙の品質低下により、製品品質として求められる夾雑物の基準を維持することができなくなる場合もありました。これまで古紙処理技術の改善等に努めてまいりましたが、古紙パルプの配合が基準未達となるケースが発生しました。
?情報用紙、包装紙他
平成2年ごろより、リサイクル推進の観点から、コピー用紙の再生紙化を進めておりましたが、この時点では、古紙パルプ配合率の増加を努力目標としてとらえておりました。しかしながら、平成13年にグリーン購入法が施行された以降も依然として努力目標として考えており、同法の趣旨に関する理解が不足しておりました。
一方で、当初より求められる品質レベルが高かったため、古紙パルプ配合率を上げるのが容易ではないという事情がありました。その間にも、古紙パルプ配合率を増加させる努力は継続してまいりましたが、それでも、近年、消費者の皆様が保有している昨今の多種多様な出力端末機器や、その用途に対しさらに高い品質レベルが求められるようになり、加えて入荷する古紙の品質が低下するなどといった問題を抱えるようになったため、結果として古紙パルプ配合率を上げることができませんでした。その他の紙についても、同様な理由です。

3.再発防止策と今後の対応 年賀葉書だけでなく、それ以外の製品における古紙パルプ配合率が、決められた基準と乖離していた事実は、多くの国民の皆様の信頼を踏みにじる行為であったと深く反省しております。乖離を生じている再生紙製品の生産につきましては、弊社ブランドの古紙パルプ配合率の乖離品については、弊社として生産および販売の中止を指示いたしました。また、当該製品に関する一切の受注を中止いたしました。今後、乖離品の製造はいたしません。


古紙100%の再生紙はもう私たちの目にすることができない幻の紙になってしまったようです。


せっかくの機会ですから、新しい古紙100%マークを作ってみました。

r100.jpg


関連記事  再生紙・非木材紙は本当に環境にやさしいか
投稿者: kameno 日時: 2008年1月19日 13:11

コメント: 再生紙問題ー製紙業界に走る激震

> kameno先生

昨日は勉強会にご参加いただきまして、ありがとうございました。

今回の一件について、どうにも「環境」ということを出汁に使って、儲けていたと見られても仕方ないような「裏切り」であるかと思われます。去年は「偽」という漢字が、一年の漢字になりましたが、先生が作ったイラスト同様、今年も・・・

投稿者 tenjin95 | 2008年1月19日 15:36

tenjin95さん
先日はお疲れ様でした。ちょうど区切りのよい日だったので、それも良かったです。

さて、今回の件、他の偽装と性質が根本的に異なっていて、「粗悪品」を偽って販売したのではなく、市場の求める「品質」と「グリーン購入法」など複合的な要因と、製紙業界の古い体質が引き起こした問題と言えます。
もちろん製紙業界の行ってきた偽装は許されるものではありませんが、それと併せて、政府も私たちも本当に「環境」にやさしいことはどういうことなのかということを真剣に考えて行かなければならないでしょうね。

イラストは是非とも正式マークとして採用して欲しいものです。

投稿者 kameno | 2008年1月20日 10:16

ちょっと前に紙隙セットという工作用グッズがありましたが最近見かけない・・ちょっと変わった紙がほしいな、と思っても買うのは高いし作って作品を何倍も楽しみたい・・
大きさとかいろいろ作れるのがあればな?。
kamenoさまのデザインされたロゴマーク、Goodよ!

投稿者 ゆが | 2008年1月20日 13:24

この問題は食品偽装の問題以上に奥が深い問題だと思います。資源を大切にする環境保護問題の理想とそれを実行する現実・実態(技術)の追従が可能であるか否か、メ?カ?側も情報開示を行い、その上で議論をする事が大切であると思います。
製紙業界、紙製品を使用する業界、環境団体、それに行政側として環境省、経済産業省を交えた、真の情報開示による本質の検討を加えた上での消費者である国民への納得の行く説明が必要と思います。
製紙業界は大変に歴史が旧いですが、その製造技術の本質は長い間変わっておりません。しかし、製品に対する要求品質は年々厳しくなるばかりではなく、国際競争も厳しく、且つ国際間の技術格差も無く、しかし、その原料環境には大変な国際格差があります。我が国は、資源が乏しく、製品コストも掛かり、大変厳しい経営環境の基で、それに立ち向かう高度技術は世界のトップ水準にあるものと思います。しかし、その業界の人達が、自分達の技術では出来ませんとの一言が言えなかったばかりに、世間の人達へ虚偽の報告をしてきた責任は前記の関係機関全体で面子を捨てて、見直し、検討を行い、消費者に対する説明責任と共に、消費者へも品質・及び価格に対する協力を呼び掛ける時が来たのではないでしょうか?
薄くて、強い紙。薄くても、腰のある紙。白くて、平滑性のある紙。それを純パルプだけで作れば、現在の技術では問題なく作れても、環境資源を守る為に古紙を活用して作るとなれば、紙力増強剤等の薬品も必要になり、コスト高は免れません。
生産性を挙げる為に広幅の高速抄紙機で大量生産をしなければ、国際競争力が維持できない環境では、品質とコスト、環境保護の観点から、私達は何を大切にし、何を犠牲にすべきなのでしょうか?技術の限界に挑戦をしている業界の人達の現状を知り、ただコンプライアンス(法令順守)に違反をしたから、取引・販売を中止する議論ではないと思います。もっと、お互いの持つ情報開示を行なった上で、消費者である国民が納得を行く解決を望みたいと思います。

投稿者 茅野眞一 | 2008年1月20日 15:14

ゆがさん
紙すきは特に大掛かりな道具も必要なく、意外と手軽に作成できますね。このようなセットもあります。
http://blissful.smile.tc/bl-shop/handmade/hand-top.html
いろろと楽しめそうです。

茅野さん
いつもお世話になっています。
詳細なコメントありがとうございました。
古い業界の体質がもたらしたとはいえ、これまで永年に亘って消費者を騙してきた罪は重いと思います。
それを何とも思わなくなってしまう感覚の麻痺も恐ろしい。
信用だけでなく、失うものは多いものです。

投稿者 kameno | 2008年1月20日 20:42

年賀状発行40億枚の内4億枚が売れ残ったとの報告を見ました。実際に取り扱った年賀状は30億枚との事です。となると後の6億枚は印刷されて売れ残っている事でしょう。いずれにしても、10億枚が使われずに古紙に回される事になります。何と25%です。製紙会社の古紙偽装コンプライアンスも問題であると同時に、郵便会社として、又日本国民として、資源の大切さを考え直すべきではないでしょうか?我が国は原油の100%を輸入に頼り、食料の自給率も年々低下をしています。製紙業界では、使用原料の殆どを輸入に頼っています。従って、環境を守る上からもリサイクル活動を進めています。やっと、最近マスコミでも今回の再生紙偽装問題をキッカケとして、環境資源問題について、その原因を取り上げ始めましたが、メ?カ?が言う品質を維持する為にリサイクル率を低下させた事はその一端に過ぎないと思います。もう一つ大切な事は、コストに対するリサイクル率の問題が取り上げられ、話題になっていません。古紙の混入率を高くすると、使用する薬品量が嵩み、コスト高になる事を含めて議論をする必要があります。(今回の再生紙偽装は各製紙会社共に品質の維持と製品コストを引き下げる為にも古紙混入率・リサイクル率を下げたものと思われます。)この機会に、資源を大切にする為には、製品の消費に当り無駄を省き、有効活用する事「勿体ない論」を元に、製品の品質維持を含めて原価主義についても、私達はどの道(方策)を選ぶべきか?何を求めるべきか?徹底的に国民的議論をする時期が来たと思います。

投稿者 茅野眞一 | 2008年1月28日 01:08

茅野さん
年賀状の売れ残り枚数を見ると、ずいぶん過剰に生産したようですね。枚数の予測が難しいとはいえ、あまりにも余りすぎです。
再生紙の問題は、ご指摘のとおり
・品質を維持する為にリサイクル率を低下させた事
・コストに対するリサイクル率の問題
これが大きな問題となっています。
これがきっかけになって、消費者の意識向上と業界の体質改善にも繋がることを期待します。

投稿者 kameno | 2008年1月29日 01:59

コメントを送る