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北海道電力泊原子力発電所が定期検査に入り、停止となったことで、現在の日本では「原発ゼロ」の状態となっています。
原発再稼動についての論議は、賛否両論ありましょうが、これまで少なからず電力供給を原子力発電に頼っていたという事実は事実としてあります。
そのことを踏まえ、このまま原子力発電所の再稼動が無い状態が続くとどのような影響が生じるかを、まず纏めてみます。
これは昨年度(2011年度)から既に始まっている事象ですので、原発再稼動反対論者も、再稼動容認論者もしっかりと認識しておく必要があります。
(1)東日本大震災前に発電電力量の約3割を占めていた原子力発電が停止しているため、その不足分が火力発電で補われている。燃料輸入増加により、例年よりも毎年3兆円を超える国富が海外に流出している。この値は、実に日本のGDPの0.6%に当たる。
(2)燃料費の輸入単価の高騰により、電力料金は上昇傾向にある。このことは、家計を圧迫し、企業の利益をも減少させることとなる。
(3)計画停電、あるいは節電を強いられることにより、企業活動が計画通りに行なえなくなる。
(4)火力発電所は、寿命を迎えたものを含めてフル稼働しているが、火力発電所を新設するためには10年程必要。再生可能エネルギーの普及も時間がかかるだろう。したがって、慢性的な電力不足は向こう10年は続く。
(5)結果として、設備投資の減少や、生産拠点を海外にシフトするなど、雇用条件の悪化、産業空洞化を引き起こす。
などなど、東日本大震災から復旧復興する段階にある日本にとっては、悪い条件が重なっているのです。
だから、即、全ての原子力発電所を再稼動すべきとは言いませんし、そのような意見を押し付けたりもしません。
ただ上記(1)~(5)は実際問題として起こっている事象であり、では実際にどのようにこの困難を乗り越えていくかを、真剣かつ早急に意思決定していく必要があります。
総合資源エネルギー調査会の試算によると、今から約20年後、2030年に原発がゼロとなった場合、2人以上世帯の月額電気料金は、現在の電源構成を維持したケース(約9900円)より77~133%上昇し、17600~23100円に跳ね上がるとされています。
これにより、企業の生産活動が制約を受け、消費の落込みと併せて、2030年の国内総生産(GDP)は、5%程度下押しされます。
仮に2030年まで原子力発電所の不足を火力発電所で補い、その間に再生可能エネルギーの普及拡大を進めるというシナリオを考えると、毎年3兆円を超える(原油・LNGの価格動向によってはそれ以上)国富が海外に流出する状況が約20年続いた上に、水力を含む再生可能エネルギーの比率を現状の9%から35%程度まで高める必要があります。
このようなことが本当に可能でしょうか。
可能だとしても、それまで日本経済が持続するのかどうか。
政府主導により、一時の「脱原発」の風潮に流されないで、中長期的な景気影響や安定供給を見据えたエネルギー戦略を打ち出すことが必要だと、個人的には考えます。
さて、ブログタイトルに記載した、「電力の自由化は安定供給と価格の低下をもたらすか」について考えてみます。
いまの日本の世論は、電力を自由化することにより、価格競争が進み、電気料金が安くなる。
だから、自由化を進めるべきだ・・・というものが大勢を占めているように感じます。
まずは、電気料金の国際比較を見てみましょう。
単位は米ドル/MWhですから、ここ数年の極端な円高も併せて考慮すると良いと思います。
家庭用電力料金でいうと、1990年代の日本は、高めであったことがわかります。
しかし、2000年を越えてから、イタリア、ドイツが急上昇しています。
日本は200~250米ドル/MWhで安定しています。
円高を考慮すると、むしろ下落傾向にさえあることが分かります。
イタリアは慢性的な電力不足による電力輸入超過が響いて、産業用、家庭用ともに価格が上昇しています。
日本も今後、このような推移を辿るのかもしれません。
着目すべきはドイツです。
環境先進国というイメージがありますが。電力料金はやはり上昇傾向にあります。
ドイツ・ドレスデンのサイトより資料を引用してもう少し詳細にみてみましょう。
ドイツ国内には現在図のような原子力発電所があります。
うち、2012年までに稼動停止した発電所がグレーで塗られています。
オレンジの発電所はまだまだ稼働中で寿命まで運用した上で、赤数字の年に停止する予定となっています。
したがって、ドイツでは脱原発を進めているとはいえ、現在、あるいは今後も相当の割合を原子力発電所に頼ることとなります。
また、ドイツの電気料金は、電気料金の国際比較で見たとおり、2000年から2010年にかけてのかなりの上昇が見られます。
その内訳は下図のとおりです。
図・ドイツの電力価格の構成と推移 単位: セント
出所:連邦環境・自然保護・原子炉安全省 "Erneuerbare Energien in Zahlen"
注1)「電力税」は環境税の一種
注2)「土地利用料」は送配・電のための道路等使用料としてエネルギー事業法に基づいて市町村が課す。
注3)「EEG割増」は再生可能エネルギー割増
注4)「コージェネ促進税」はEEG割増と同様にコージェネ助成費用を電力価格に上乗せするもの。
原子力発電所の不足分を火力発電所で補い、その間に再生可能エネルギーの普及拡大を勧めるということは、やはり相当の価格上昇を覚悟する必要がありそうです。
さらに、ヨーロッパ各国の電力料金推移の図をもう一つ提示します。
「電力を自由化すれば料金が下がるということ」を、必ずしも期待できないということです。
期待するだけ、後で失望感が大きくやってきます
ヨーロッパ諸国の中で、特に電力の自由化を進めたのが英国です。
しかし、結果として、2000年から2010年に掛けての上昇は約2倍となっています。
発電設備は、巨大な規模になるほど単価が安くなるという規模の経済が顕著に働きますので、競争により小型の多くの発電所が乱立する状況よりも、大型の発電所に集約する供給システムのほうがコストが安くなる性質があります。
さらに、「品質の良い電力を安定供給する」という命題が課せられるために、自然独占が認められてきた市場なのです。
もちろん天下りや献金、癒着といった問題は改善されなければなりませんが、場合によっては自然独占、寡占が必要な市場もあるということです。
また、記憶に新しいカリフォルニア州の例では、自由化後、電力価格が急騰し始め、小売価格が凍結されなかったサンディエゴ地区では僅か3ヵ月間で標準家庭の電力料金は月間50ドルから120ドルになり、その他の地区でも大規模な停電や電力料金の高騰と供給不安が発生しています。
電力という市場が、自由化に向かない市場であるという論議があるため、よほど制度を周到に準備して厳格に適用しないとないと自由化の成果は生み出されないでしょう。
(はたしてそのような制度の厳格な適用が自由化と呼べるかどうかは疑問ですが)
今後日本の電力市場が健全な自由化を進めることが出来るかどうか分かりませんが、少なくとも自由化が進めば競争原理が働き、電力料金は安くなると短絡的に考えないほうが良さそうです。
これらの基礎資料を踏まえた上で、日本のエネルギー政策の方向性を冷静に考える必要があります。
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