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2018年6月18日
災害は、私たちが﹁想定﹂している以上の事象が発生した際に引き起こされます。
地震の揺れに対して、どれだけの耐力を持たせるか、という建築基準は、大震災が起き﹁想定外﹂の事象が発生するたびに建築基準法が改正され﹁想定﹂が引き上げられてきました。
建築基準法は、大震災のたびに改正されてきたのです。
震災と建築基準法の改正
1920年︵大正9年︶12月1日 ︵大正8年法律第37号︶施行
第12条において、﹁主務大臣ハ建築物ノ構造、設備又ハ敷地ニ関シ衛生上、保安上又ハ防空上必要ナル規定ヲ設クルコトヲ得﹂と規定される。
市街地建築物法施行規則︵大正9年内務省令第37号︶において、構造設計法として許容応力度設計法が採用され、自重と積載荷重による鉛直力に対する構造強度を要求。
ただし、地震力に関する規定は設けられていなかった。
1923年︵大正12年︶ 関東大震災
1924年︵大正13年︶ 市街地建築物法施行規則改正
許容応力度設計において、材料の安全率を3倍とし、地震力は水平震度0.1を要求。
1945年︵昭和20年︶ 終戦
1950年︵昭和25年︶11月23日 市街地建築物法廃止、建築基準法施行︵いわゆる旧耐震︶
具体的な耐震基準は建築基準法施行令︵昭和25年政令338号︶に規定された。
許容応力度設計における地震力を水平震度0.2に引き上げた。
1968年︵昭和43年︶ 十勝沖地震
1971年︵昭和46年︶6月17日 建築基準法施行令改正
鉄筋コンクリート造の帯筋の基準を強化した。
1978年︵昭和53年︶ 宮城県沖地震
1981年︵昭和56年︶6月1日 建築基準法施行令改正︵いわゆる新耐震︶
一次設計、二次設計の概念が導入され、地震力に対しての必要壁倍率の改正
軸組の種類と壁倍率の改正が行われた。
1995年︵平成7年︶ 阪神淡路大震災
2000年︵平成12年︶6月1日 建築基準法及び同施行令改正
性能規定の概念が導入され、構造計算法として従来の許容応力度等計算に加え限界耐力計算法が認められる。
︵当日のkameno資料より一部引用︶
今から30年前の1981︵昭和56︶年、建築基準法の大改正が行われ、新耐震基準が適用されるようになりました。
したがって、築30年を超える家か、それ以降に建てられた家かによって耐震基準が大きく異なるため、新耐震基準を満たしていない家屋への対策が求められる可能性があります。
建築物と同様に、外構の塀︵ブロック塀、土塀、平板塀など︶、擁壁などにも基準が設けられており、災害の発生のたびに基準が強化されてきました。
したがって、古い建築物と同様に、古い塀は基準を満たしていないというものが多いのです。
今回の地震でも、残念ながら小学校の児童のほか、ブロック塀下敷きになって尊い命が奪われてしまいました。
本当に心が痛みます。謹んで哀悼の意を表します。
今回の、塀の事故は、人災と言ってよいのではないかと感じます。
このことを踏まえて、倒壊した小学校の塀をみてみましょう。
倒壊前の様子がGoogle streetviewで見ることができます。
これを、全国建築コンクリートブロック工業会の﹁安全なブロック塀﹂と比較してみましょう。赤字部分は、この小学校のブロック塀が基準をみたしているかどうかです。
ブロック塀の主な規定
ブロック塀は、建築基準法施行令第62条の8︵へい︶、平成12年建設省告示第1355号で最小限守らなければならないことが規定されています。また︵社︶日本建築学会では﹁コンクリートブロック塀設計規準﹂、﹁ブロック塀施工マニュアル﹂、﹁壁構造配筋指針﹂、﹁建築工事標準仕様書・同解説 JASS7メーソンリー工事﹂において構造や施工のいろいろな規定がつくられ、ブロック塀の安全を確保するための推奨する数値等が決められています。
︵1︶材料の規定 →材料はおそらく大丈夫でしょう。ただし、既存塀の上に塀を積み上げるという設計思想自体問題外です。
●ブロックは、JIS A 5406︵建築用コンクリートブロック︶で定められている製品か、これらと同等以上の品質のもので、12(B)または16(C)と呼ばれているものを使ってください。
●鉄筋は、JIS G 3112︵鉄筋コンクリート用棒鋼︶、JIS G 3117︵鉄筋コンクリート用再生棒鋼︶に定められているSD295A︵異形鉄筋︶、SDR295︵異形鉄筋︶以上のものを使ってください。
●コンクリートやモルタルは18N/mm2︵180kg/cm2︶以上の圧縮強度のものを使ってください。
︵2︶ブロック塀の高さ →地面から高さ2.2mを超えるブロック塀は基準に適合しません。ましてや塀の上に塀を積み増す構造は問題外です。
ブロック塀の最大高さ︵H︶は、地盤面より2.2mです。塀の高さは、これ以下の高さにして下さい。
︵3︶ブロックの厚さ →そもそも︵3︶以下の基準を満たしていないので、問題外です。
ブロックの厚さは塀の高さが、2.0m以下の場合は12cm以上、2.0mを超える場合は15cm以上です。
︵4︶たて筋 →既存塀の上にブロック塀を高く積み増すという問題外の設計のうえに、たて筋が圧倒的に足りません。
たて筋は、ブロックの空洞部分で重ね継ぎをしていけません。基礎に鉄筋径の40倍以上の長さを埋込み、1本もので塀の高さ分立ち上げます。鉄筋は、一般に直径10mmの節のついた異形鉄筋を使い、間隔は40cm~80cmで入れます。
︵5︶控え壁 →控え壁はまったく設置されていなかったようです。問題外。
控え壁︵控柱︶は、塀が風や地震で倒れないようにするものです。塀高さが1.2mを超えるときは、長さ3.4m以内ごとに基礎と塀と一緒につくってください。
︵6︶基礎 →そもそも既存塀の上にブロック塀を高く積み増すという問題外の設計です。
基礎は、鉄筋コンクリート造または型枠ブロック造布基礎とします。基礎の大きさは、せい︵D︶を40cm以上、幅︵b︶をブロック厚さ以上です。根入れ深さ︵Df︶は35cm以上としますが塀の高さが1.2m以上になるときは高さに応じて深くします。基礎は、地表面より必ず5cm以上立ち上げてください。
︵7︶その他注意すること →あらかじめ高くする計画をされていない塀の上にブロックを積上げてています。問題外。
●門柱や金属製フェンス付きブロック塀にもブロック塀と同じような規定があります。注意して下さい。
●ブロックでつくる土留めとブロック塀︵土がかかる高さ40cm以下を除く︶を一緒につくることは危険です。また、石積み擁壁の上に直接塀をつくることも危険です。コンクリート造の土留めの上にブロック塀をつくるときは、土留めと一緒につくり、たて筋を土留めに十分に埋め込んでください。この場合でも土留めとブロック塀との合計の高さは2.2m以下です。
●あらかじめ高くする計画をされていない塀の上にブロックを積上げてないでください。
●塀と建物が近すぎると十分な基礎がつくれません。50cm程度は離して塀をつくりましょう。
さらに、この小学校では、登下校の際に、塀沿いのグリーン着色部分の道路を通って通学するように指導していたということです。
ブロック塀の危険性︵安全基準に適合していないということ︶を全く把握しておらず、上記のような設計をしたこと、さらにそれを放置してきた責任、その塀の前を通るように指導したきたことは大問題でしょう。
平時から、地震時、あるいはその他の災害時に、どのような危険性があるのか、普段から広い視点で点検し、それを改善していく仕組みが求められます。事故が起きてからでは取り返しがつかないことになるからです。
今回の教訓が生かされることを望みます。