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2012年12月 4日
中央自動車道・笹子トンネルで発生した天井コンクリート隔壁板の崩落事故により、9人の方々の命が奪われました。
まずは心より弔意を表します。
この事故は、トンネル内の排気ガスを排出し、新鮮な空気を送り込むために設けられた天井の隔壁が100メートル以上に亘って崩落する形であり、このような事故はこれまでに起こったことはありませんでした。
しかし、高度経済成長期に造られたインフラは、今後その耐用年数を次々と迎えていきます。
同様の事故︵これまでに発生していなかった形態の事故︶が増加する可能性は否めません。
今回の事故では、トンネル上部のコンクリートに固定されていた釣り金具のボルトが脱落し、それによって天井板が連鎖的に崩落したことが原因と考えられています。
ボルト脱落の原因については、ボルトの老朽化、地下水の浸透と亜硫酸ガスによる腐食、継続的に受け続けてきた振動による金属疲労、東日本大震災等の揺れによる破断等があげられていますが、それについては徹底的な事故調査が求められるところです。
それにしても、トンネルの断面構造を見ると、その設計思想に疑問を持たざるを得ない部分があります。
NEXCO中日本の報道資料によると、天井のコンクリート隔壁は、上部中央からボルトで固定された支柱︵吊り金具︶と、トンネル左右だけで支えられている構造となっています。
これでは、引っ張り荷重が、支柱を通して天井部分に130ミリしか定着していないアンカーボルトにまともにかかっています。
しかも、トンネル最上部は、コンクリート充填が不完全となる可能性がある部分です。
仮に、一箇所の支柱のボルトが何らかの原因で抜けてしまうと、その部分の天井コンクリートは支えるものが何もなくなってしまい、落下に至ることは明白です。
しかも、下部道路には絶え間なく多くの車両が高速で通過しているわけですから、たとえ一部でもコンクリート板が落下した場合には甚大な被害をもたらすことを、設計段階で肝に銘じておかなければならないと思うのです。
私が当時の設計者であったら、支柱はV字型に2本配置して、天井二箇所に設置したいところです。
これにより、振動によるブレもかなり軽減されますし、仮に一箇所の支柱が外れたとしても、もう一つの支柱で支えてくれます。
要は、絶対に天井の構造物が落下することがあってはならないということなのです。
また、笹子トンネルのように既に出来てしまっている場合には、下図のように、落下防止ワイヤーをフェールセーフ︵万一の場合のバックアップ策︶として追加設置するということも有効でしょう。
これならば費用をそれほど掛けずに、効果的な対策となると考えられます。
︵図はNEXCO中日本の報道資料より。赤部分はkameno付記︶
抜本的な点検方法の見直しとともに、構造物の落下防止策を徹底的に進めていただきたいものです。
さて、この事故を教訓として、至近な場所でも点検すべき箇所がありそうです。
例えば、寺院の本堂には、数多くの吊り装飾があります。
上写真は、某宗派の大本山の法堂天井です
巨大な人天蓋をはじめ、多くの装飾がありますね。
寺院建築物は、竣工から相当年数が経過している場合が多く、重量物を支えてきた部材の点検は、この機に再度行ってみることも大切なことでしょう。
実際に能登地震の際には總持寺祖院法堂の天蓋が落下してしまいました。
また、1997年のイタリア・アッシジの地震では、サン・フランチェスコ大聖堂の天蓋の崩落で2名の修道士が命を落としてしまいました。
今回の事故を他人事と考えず、不測の事故を未然に防ぐために、構造の見直し、点検を実施し、安全性を確認しておくことが必要かもしれません。
参拝の方が、安全にお参りできるために。