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2006年5月31日
一昨日、東邦大学医学部生理学教授・有田秀穂先生の講演を拝聴する機会がありました。
とても興味深い講演でしたので、自らの覚え書きとしてまとめてみました。
演題 ﹃禅が脳に効く﹄
宗教と科学
この研究のきっかけは、生まれてオギャーと最初にする呼吸から、息を引き取る時の最後の呼吸まで、生きるために必須となる呼吸がどのようなものかを調べることだった。
しかし、次第に、生きるためではない呼吸の研究にテーマの主題が移り、呼吸が変われば心が変わる・・・
例えば坐禅を行じたときに、坐禅の呼吸方法が体と心に効くこと、これを科学的に説明できないかということを検証して来た。
結論を先に言えば、セロトニンによって坐禅の効能を説明できると言える。
釈尊は、実験家であった。
ドイツの哲学者のニーチェや板橋興宗禅師のことばに﹁釈迦は偉大なる生理学者だ。その教えは衛生学だ﹂、というものがあるが、自らの身をもって、生理学的実験を行い、苦行の局地というストレスの中に身を投じた。
また、出家する前の裕福な生活は、快についても体現していたといえる。
釈尊は、快も苦も知り尽くしたからこそ、坐禅による呼吸法がどれだけ体に効くかを知ることが出来たのであろう。
それだけに説得力があるといえる。
﹁弟子たちよ、入息出息を念ずることを実習するがよい。かくするならば、身体は疲れず、目も患まず、観へるままに楽しみて住み、あだなる楽しみに染まらぬことを覚えるであろう。かように入息出息法を修めるならば、大いなる果と、大いなる福利を得るであろう。かくて深く禅定に進みて、慈悲の心を得、迷いを絶ち、悟りに入るであろう﹂
︵雑阿含経︶
セロトニン神経は、一言で言えば﹁元気の神経﹂といえる。
150億の脳細胞のうち、数万個がセロトニン神経。
これは、脳の一番奥の、原始的部分にある。
役割としては、オーケストラの指揮者をイメージすると良い。
すなわち、セロトニン神経自体は、︵バイオリンとかピアノのような︶具体的仕事はしないが、全体の雰囲気を作り出す、全体︵=心全体、筋肉、雰囲気︶に影響を与える重要な役割を担っている。
極端な例だが、引篭もり、じっとしてテレビとかゲームに没頭する生活。これは、セロトニン神経を弱らせ、セロトニンの発生量を減少させてしまう。
セロトニン欠乏症はキレる、鬱を引き起こす原因となる。
・鬱病、自殺傾向
・パニック傷害
・過食症、拒食症
・慢性疲労症候群
・キレる子ども
上記の治療薬としてセロトニン再吸収阻害剤︵SSRI)というものがある。
セロトニンは、発生したものはやがて再吸収されるものであるが、脳神経の活動︵インパルス︶が少なくなり、セロトニンの発生が少なくなると、ただでさえ少ないのに、さらにそれが再吸収されてしまい、セロトニンが不足してしまう。
これが、セロトニン欠乏症の原因であると考えている。
セロトニン再吸収阻害剤は、再吸収を防ぐ役割をするために、セロトニン不足に効果がある。
しかし、それよりはむしろ、セロトニンの発生量を増やすようにしたほうが根本的な治療になるのではないかと考える。
セロトニン神経活動は、歩行、咀嚼など、基本的運動により活性化する。
意識的なリズム運動が効果的である。
それの最たるものが、坐禅の呼吸法なのでる。
禅と弓・・・・弓道を行う人が坐禅を毎日行っていた。
心と弓の成長過程。セロトニン神経の活性化による説明が可能。
坐禅の呼吸と通常の呼吸の違いは、腹筋を使うか否かである。
通常の呼吸は横隔膜を使う。生きているための呼吸であるから、無意識に寝ている時でも呼吸が可能である。
坐禅の呼吸は、意識的に吐く︵欠気一息︶、これは腹筋を使う意識的な運動である。これによりセロトニン神経は活性化される。
脳波の実験により、坐禅の呼吸から4分から10分後にα波の成分が脳全体に広がるが、単純に眼を閉じたときに発生するα波と、異なるα波であると考えている。伝達の経路が異なるのである。
また、坐禅と併せて、読経もセロトニン神経を活性化させる。
読経の中では、暗証した繰り返しがセロトニン神経の活性化に良い。
セロトニン神経の活性化をもたらし、爽快な状態を作ってくれる。
最後に心の三原色を紹介する。
﹁心の三原色﹂
・ドーパミン神経 ︵快の情動回路︶
・ノルアドレナリン神経︵脳内の危機管理センター︶
・セロトニン神経 ︵舞い上がりもせず、不安にならず、平常心をもたらす︶
セロトニン神経は、ドーパミン神経、ノルアドレナリン神経を、脳内の指揮者として、抑制させるという役割を担っている。
以上、私が講演内容をメモしたものからまとめたものです。
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なお、日本財団のサイトにに詳細内容が記載されております。
併せてごらんください。
脳科学を教育に活かす!Part2 ﹁セロトニン欠乏脳﹂?キレる脳を鍛え直す?
http://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/00004/contents/0002.htm