昭電の産業ロボ向け磁石合金、中国産の希少材料不要に
昭和電工はレアアース(希土類)の一種、ジスプロシウムを使わない産業用ロボット向け 磁石合金を開発した。高価なジスプロが不要になり磁石合金の価格を約3割安くできる。
中国産レアアースの使用量削減で需給が緩和すれば、まだジスプロを必要とするハイブリッド車 (HV)向け高性能磁石の価格低下にもつながりそうだ。
ジスプロは磁石の耐熱性を高めるため、ネオジムや鉄などからつくる磁石合金に添加する。
添加率を上げると耐熱性が高まる。産業用ロボットのモーターに組み込まれている磁石は、 重量ベースで3.5%程度のジスプロを含む。特殊な熱処理で結晶構造を変えることで、 ジスプロをゼロにした磁石合金を初めて量産できる体制を整えた。
昭和電工によると、ネオジムや鉄を主原料にした高性能磁石の2013年の世界生産量は 2万3千トンの見込み。16年には高性能磁石の世界生産量に占める産業用ロボット向けの比率は 3割強の約1万5000トンにのぼると予想されている。これに比例して磁石合金の市場も拡大する。
昭和電工が今回開発した磁石合金の採用拡大で、9割が中国産といわれるジスプロの 需給も緩和する見通し。その結果、現時点では添加率が6~8%と高く、 まだジスプロをゼロにできていないHV向けの高性能磁石の価格も下げることができる。
ジスプロの価格は1キログラム当たり6万~7万円。鉄(同100円前後)やネオジム(同1万円前後)
を大きく上回る。産業用ロボット向け磁石合金の価格は1万円弱。
今回、昭和電工が開発した磁石合金を使えば3割程度安くなる。今後も風力発電機や産業用ロボット向けを 中心に高性能磁石の需要が高まるとみて、来春にも秩父事業所(埼玉県秩父市)で量産を始める。
高性能磁石合金で世界シェアの約25%を持つ同社は現在、耐熱性のより高い磁石合金の研究を進めている。
日立金属は2%添加相当の磁石を販売し、さらに多くのジスプロをゼロにできる技術を研究しており、 磁石メーカーもレアアース削減を急いでいる。
(日経新聞 2013/10/3)
このようなニュースを目にするにつけ、日本は本当にピンチを生かしてチャンスに転換することができる技術大国だと実感します。
以前、尖閣諸島沖で逮捕の中国人船長を釈放へというブログ記事の中で
■脱中国経済にむけて
(1)資源を中国以外の国から調達できるように他国との交渉を進める。
(2)都市鉱山からの再資源化の仕組みをさらに強化する。
(3)レアメタルの代用品を作る技術の開発、実用化のための研究に重点を置く。
という提言を掲げました。
3年前の2010年9月、まだ民主党政権だった頃の記事です。
日本の工業製品、特に磁石用合金などに欠かせないレアメタルは、当時、日本向け輸出の大半が中国からの輸入でした。
2010年9月に尖閣諸島で中国漁船衝突事件が発生すると、中国は日本に対する経済政策措置としてレアメタルの輸出規制へと踏み出しました。
日本の産業界は中国の横暴に対して黙っては居ません。
数年前から起こっているチャイナリスクを踏み台に、レアメタルの新たな輸入先の開拓、レアメタルの徹底的なリサイクル、レアメタルを使わない技術を続々と開発していきました。
結果、中国から日本へのレアアース輸出量は2011年には前年比34%減となり、その後も大幅な減少傾向が続いています。
中国国内のレアメタル業者は減産や生産停止に追い込まれているそうですが、まさに自業自得といえましょう。
そして、ついに日本は冒頭の報道のように、産業用ロボット向け磁石合金を生産する際に、全くレアメタルの一種であるジスプロシウムを使用しない技術を開発してしまいました。
ジスプロシウムの価格は、益々暴落していくことは確実です。
脱レアメタルの技術確立は、中国からの資源に依存しきっている日本のために重要な事項といえます。
日立製作所は酸化鉄を使った脱レアメタルモーターの製品化が具体化しています。
また、帝人と東北大学は鉄と窒素による新材料を開発しています。
これらはほんの一例です。
レアメタルに限らず、石油資源にしても、他のどのような資源にしても、埋蔵量に制約されない原料の確保やリサイクルシステム、代用品技術の確立を進めていくこと。
「ピンチをチャンスに変える」ことを可能に出来るのが日本の技術力の強みであるといえましょう。
【補記】 ジスプロシウムは、原子番号66の元素。元素記号は Dy。ランタノイドに属する希土類元素の一つ。埋蔵量はきわめて偏在しており、99%が中国で産出されている。 |
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