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昨年3月以前は、日本の日常生活において放射線の影響を真剣に考えるということは為されてきませんでした。
シーベルトやグレイ、ベクレルなどという単位についても気にすることも、耳にすることすら無かった方も多いはずです。
東京電力福島第一原発の事故によって、今まで日常生活で聞きなれないような単位や言葉が日常当たり前のように出てきました。
しかし、これまでは気にすることが無かっただけで、我々は、元々宇宙空間や地中の鉱物、CTスキャンやレントゲン、放射線治療、飛行機の利用などによって様々な放射線を浴びています。
浴びる放射線量をゼロにすることは不可能なことなのです。
例えば、東京とニューヨークを直行便で往復したとすると、0.20mSV ほど被曝する(このブログの最下部の図を参照)とされています。
そこで、実際にどの程度なのかを、ハワイへの往復の際に、手元にある線量計(エアーカウンターS)を持参し、計測してみました。
成田空港を離陸し、シートベルト着用サインが消える頃には0.40μSV/hにまで上昇していました。
以降、ぐんぐん上昇し続け、安定飛行中はずっとこのような感じで・・・・・
大体0.90~1.20μSV/h程度の範囲を行ったり来たりしておりました。
だいたい安定飛行中は平均1.1μSV/h程度でした。
ハワイ諸島に近づき、高度を下げるにつれて線量は下がり(離陸時と着陸時は電子機器での計測は出来ませんので計測値はありません)、
ホノルル国際空港での地上の線量は 0.05μSV/h 程度でした。
つまり、地上に比べて20倍以上の線量であることが分ります。
ハワイへは往路7時間、帰路9時間ほどかかりましたから、往復16時間。
安定飛行の時間の部分のみを考え、15時間とすると、
1.1μSV/h × 15h = 16.5μSV =0.0165 mSVとなります。
対し、冒頭の事例、東京とニューヨークで 0.20mSV というのは、往復25時間と考えても 8μSV/h ほどの線量です。かなり高線量ですね。
いずれにしても、航空機の操縦士や機関士、キャビンアテンダントなどは、年間かなりの時間を飛行中の機内で過ごす訳ですから、相当量の積算線を被曝されているのではないかと考えます。
ただし、100mSV 以下の低線量な放射線による人体への影響は、よくわかっていないということが実際のところです。
放射線は目に見えないし、その影響もよく分からないことが多いということが、余計不安をあおり、風評被害をもたらす源になるのかもしれません。
逆に言えば、日常生活において、どこにどれほどの放射線が存在しているかをきちんと理解することが大切であるといえましょう。
さて、日本人の平均被爆量はJAEのデータによると、年間1mSV ほどです。
冒頭に述べたように、宇宙線、地面や地中の鉱物などからの放射線の他にも食物からの放射線も含まれます。
岐阜や山口県には花崗岩が多い影響で、自然放射線量が高くなっています。
下の地図(東京電力福島第一原発の事故以前のデータ)で赤い箇所は、年間1mSV を超える場所です。
図:計算で求めた自然放射線量(地上1m, 今井ほか(2004)の元素分布データ、計算式はBeck et al.(1972)による)(海と陸の地球化学図より)
ベータ線とガンマ線の場合には、全身に均等に吸収されたとき 1グレイ(Gy)=1シーベルト(Sv)と換算できる。出典元:日本地質学会
また、東京電力福島第一原発の事故以降、定点計測され公表されている地球環境スキャニングプロジェクトとSAFECASTによる全国の放射線量情報によると、最新(3月19日午前8時)の空間線量は右のとおりです。
棒グラフにして北から並べてみました。
これを見ると、日本全国どこでも0.1μSV/h前後の値は当たり前に出ていることが分かります。
世界的に見ると、インドやブラジルのように年間10mSV 程度の地域も数多くあります。
また、公表されておりませんが、中国内陸部では核実験の影響で信じられないほどの線量が計測されているようです。
(例:中国のラサ市 での2012年3月18日の計測地では 0.18μSV/hと今公表されています)
話を日本国内に戻します。
福島県の一部については、未だ東京電力福島第一原発の影響により高い線量が出ておりますが、この地域については、国や東京電力主導による除染作業を集中的に進めていただきたいものです。
しかし、同じ福島県内でも、現状においては会津地方やいわき市、白川、須賀川の近辺などは、全国の他の都市とそれほど線量が変わらないという現状も、見落としてはなりません。
大切なことは、放射線がゼロであるということはありえないこと。そして、これまでも私たちはある程度の自然放射線に囲まれて生活していた(いる)という事実です。
さて、100mSV 以下の低線量な放射線の影響が人体にどれほど有害なのか(あるいは影響はないのか)は、議論の分かれるところです。
(1)人体への影響は、100mSV 以上の高線量があたえる影響を直線的に延長したリニアな影響が考えられ、少ないほうが影響は少なく、浴びる量が多くなるほど比例してリスクが高くなる。
(2)(3)人体への影響は、ほぼない。
(4)人体への影響は、ラドン温泉などごく微量な放射線の場合、むしろ効能がある。
という、主に3種類の説に分かれるのではないでしょうか。
図示すると次のようなものです。
私たちの体は、冒頭に述べたように、日常から少なからず放射線に曝されていることは事実です。
低線量な放射線の影響への研究が進み、無用な不安が払拭されていくことを望みます。
結論として、放射線の健康へのリスクは100mSV 以下では、学者の意見が割れるくらい僅かな影響しかないと考えられえます。
したがって、空間線量がどのような値なのかを正確に把握し、特に乳幼児や小中学生には食品や飲料に含まれる放射性物質がどの程度なのかに注意すれば、日常生活において過剰に反応する必要は無いと思います。
むしろ、放射線にばかり気を向けるのではなく、農薬や食品添加物、タバコなど、他の有害な要素にもバランスよく注意していくことが必要でしょう。
■関連ブログ記事
境内の放射線量測定結果
放射線量分布等マップ
fbにてシェアさせて頂きました。
こういう分析は大変ありがたいです。
投稿者 Eibun Aki | 2012年3月19日 22:02
Akiさん
いつも有難うございます。
日本人って、ある食べ物が身体に良い、ダイエットに効くとなると、その一つのものに集中して群がります。
逆に、何か身体に悪そうだ、というものが報道されると、その一つのみに話題が集中します。しばらくすると、一昔前のことはブームが去ったように忘れてしまいます。
大切なことは、長い目で正しい知見を持ち続けるという姿勢だと思うんですが、なかなかそうは行かないですね。
投稿者 kameno | 2012年3月20日 19:57