みんなでつくる横濱写真アルバムシンポジウム

昨日、「みんなでつくる横濱写真アルバム」のシンポジウムがBankArt1929Yokohamaで開催されました。
主催は横浜写真アーカイブ実行委員会です。

 ⇒「みんなでつくる横濱写真アルバム」がシンポジウム?函館や沖縄からゲストも
 (ヨコハマ経済新聞)
  
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この事業は横浜開港150周年記念事業の一環として進められているものです。
「みんなでつくる横濱写真アルバム」のサイト から写真を投稿できる仕組みになっていますので、皆さまどうぞ写真をお寄せください。

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シンポジウムの基調講演ではノンフィクション作家の佐野眞一さんが日常の生活を写した写真の持つ力について講演されました。

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キーワードは「記録されたものしか記憶されない」
これは裏返して言えば「記録されなかったものは記憶されない」ということであります。
オウム真理教信者が坂本弁護士一家の様子を伺った金山神社は現在も当時の状況が残されています。しかし上九一色のサティアンがあった場所には何も残されていない。
佐野氏はこの両者を対比して、残された風景が記憶を生々しく喚起すること、風景を消し去ることにより記憶すら失わせてしまうということを指摘しました。


氏は、写真をデジタルアーカイブ化することの意義として、E.H. Carrの


「歴史から学ぶというのは決してただ一方的な過程」ということではなく「過去の光に照らして現在を学ぶというのは、また、現在の光に照らして過去を学ぶということも意味する」
『歴史とは何か』 (E.H. Carr ,清水幾太郎訳・岩波新書)

という言葉を引用し、現在と過去の光をお互いに照らすことにより、現在と過去を更に理解を深めることができるということを示されました。
デジタルアーカイブ化の持つ意味というものはまさにこの言葉に凝縮されているともいえます。


さらに日本列島を隈なく歩き、何気ない日常を記録して回った日本を代表する民俗学者の一人、宮本常一の行跡を紹介されました。
宮本常一は山口県周防大島生まれ。渋沢敬三の経済的援助を得て戦前から高度成長期までの日本各地をフィールドワークし続け膨大な写真記録とメモを残しています。
日本列島の上に宮本氏の足跡を赤インクで辿ると、日本列島は真っ赤に染まってしまうといわれるほどです。

氏は駅に着いたら構内の様子、人々の身なり、荷物などさまざまなことをつぶさによく観察し、そして集落の一番高いところに行き、集落全体の様子を把握したといいます。
人並みならぬ洞察力は日本各地をフィールドワークし続けたことから得られた力なのでしょう。

10万点を超える写真はいわゆる芸術でも写真何でもない日常の写真でありますが、例えば洗濯物の写真は、その家庭の暮らし向き、流行、あらゆる情報を含有しています。
海岸に打ち上げられた流木の写真からは、貧しい資源を共有する村の智慧を読み取ることができます。
杉皮を干す写真からは、その周辺に皮を剥かれた切り出された杉の木があり、山肌から木を滑り落とすために杉皮を使い、筏で川の下流に運ぶ一連の姿までもが含有されています。
写真の持つ力というのは計り知れないのです。
それゆえに写真に込められたこれだけの思いを読み取る読み手側のリテラシーも求められます。

宮本氏は、また、一種タブーとされている被差別部落や、性風俗などの記録も行っており、デジタルアーカイブに立ち向かうものにとって大きな示唆を与えてくれるものでもあります。
例えば「みんなでつくる横濱写真アルバム」に寄せられる写真のなかで、どこまでの線引きを行うのかというガイドラインも明確にしておく必要もあるのでしょう。
そのような示唆に富んだ講演でありました。

その後、市民参加型の写真アーカイブ事例として、実行委員会企画部会委員の和田昌樹さん、私、BankART 1929の渡邉曜さん、函館から「函館マルチメディア推進協議会」会長の川嶋稔夫さん、沖縄「ちゅらしまフォトミュージアム」の代表・垂見健吾氏さん、山梨県「地域資料デジタル化研究会」副理事長の丸山高弘さんが事例報告を行い、パネルディスカッションが進められていきました。


 ⇒亀野発表資料(PDF/3.5M)


シンポジウム全体を通しての総括を一言で纏めると、芸術写真や報道写真だけが価値を持っているのではなく、何でもない日常の暮らしの中で写した写真にこそ文化や伝統が含有されていおり、その何気ない一枚の写真がいかに貴重であるか、そして歴史を捉え支えているのかということでしょう。


終了後の懇親会では、さらに砕けた感じで普段聞くことのできない貴重な話あり、深夜まで堪能させていただいた一日でした。
事務局の皆さまには心より感謝申し上げます。




■関連サイト

宮本常一データベース


■おすすめの本


旅する巨人 宮本常一と渋沢敬三
著者/訳者名 佐野真一/著
出版社名 文芸春秋 (ISBN:4-16-352310-3)
発行年月 1996年11月
サイズ 390,7P 20c
価格 1,835円(税込)


忘れられた日本人
著者/訳者名 宮本常一/著
出版社名 岩波書店 (ISBN:4-00-331641-X)
発行年月 1984年05月
サイズ 334P 15cm
価格 735円(税込)

投稿者: kameno 日時: 2009年3月23日 13:00

コメント: みんなでつくる横濱写真アルバムシンポジウム

亀野さん、お忙しい中、郷土史の紹介・検証への亀野さんの多才なIT手法のご紹介、有難うございました。日本の各地域でのデジタルア?カイブの紹介も参考になりました。これらのIT手法の活用によって、夫々の地域の昔が蘇り、各地域が活性化する事は、未来の街づくりへ向けて、大変に参考になると思います。横浜開港150周年事業が、キッカケになると良いですね。又、それらのIT手法の一端となる基盤が貞昌院ある事も素晴らしい事だと思います。これからも、色々とご指導を宜しく、お願い致します。

投稿者 ちのしんいち | 2009年3月25日 00:37

ちの様
いつもお世話になっています。
有意義なシンポジウムであったと感じました。人の繋がりを広げることが出来たことにも感謝します。
各地方で行われているデジタルアーカイブが有機的に連携していくことによりその価値は飛躍的に高まるはずです。そのきっかけになると良いと思います。佐野さんのご講演からも得る物が大でした。
これからもよろしくお願いいたします。
今日の会合は都合により出席できませんが皆様によろしくお伝えくださればと存じます。

投稿者 kameno | 2009年3月25日 08:25

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