寺院におけるシックハウス対策

最近は、建材や内装材への化学物質の使用により、また、高気密建築の増加により建物内部に拡散する化学物質が増加していると言われます。
そのうち、人体に影響を及ぼす物質が様々な体調不良や病気の原因となることが報告されています。単一の物質だけによる影響というよりは、複合要因によるものと考えられ「シックハウス症候群」と名づけられました。

シックハウス症候群に見られる主な症状

  • 目に刺激感があり、チカチカする
  • 頭痛やめまい、吐き気がする
  • 鼻水や涙、せきが出る
  • 鼻やのどが乾燥したり、刺激感や痛みがある
  • 何となく疲れを感じたり、眠気がする
  • 皮膚が乾燥する、赤くなる、かゆくなる
  • 室内でこのような症状が出ても、その居室の外に出ると治まるのが特徴
  • 症状の有無や程度には個人差がある。

  (参考:横浜市保健所 シックハウス対策


厚生労働省では、ホルムアルデヒドをはじめとする次の13物質について、室内空気中濃度の指針値を示しています。
この指針値は、人がその化学物質の示された濃度以下の暴露を一生受けたとしても健康に有害な影響を受けないであろうと判断される濃度として設定されています(ただし、ホルムアルデヒドだけは短期間の暴露による健康への影響を指標としています)。

揮発性有機化合物等の室内濃度指針値

化学物質名 指針値 決定時期 含まれる建材等
ホルムアルデヒド (0.08ppm) 100マイクログラム/m3 平成12年6月 合板・パーティクルボード
トルエン (0.07ppm) 260マイクログラム/m3 平成12年6月 集成材・油性ラッカー
キシレン (0.20ppm) 870マイクログラム/m3 平成12年6月 金属用接着剤
パラジクロロベンゼン (0.04ppm) 240マイクログラム/m3 平成12年6月 芳香剤・防虫剤・トイレボール
エチルベンゼン (0.88ppm) 3800マイクログラム/m3 平成12年2月 油性ラッカー・油性ニス
スチレン (0.05ppm) 220マイクログラム/m3 平成12年2月 断熱材・スチレン畳
クロルピリホス
〃(小児の場合)
(0.07ppb) 1マイクログラム/m3
(0.007ppb) 0.1マイクログラム/m3
平成12年2月 シロアリ防蟻剤
フタル酸ジ?n?ブチル (0.02ppm) 220マイクログラム/m3 平成12年2月 ビニル壁紙の可塑剤
テトラデカン (0.04ppm) 330マイクログラム/m3 平成13年7月 灯油・石油等
フタル酸ジ?2?エチルヘキシル (7.6ppb) 120マイクログラム/m3 平成13年7月 プラスチック可塑剤
ダイアジノン (0.02ppb) 0.29マイクログラム/m3 平成13年7月 殺虫剤
アセトアルデヒド (0.03ppm) 48マイクログラム/m3 平成14年2月 塩化ビニール・染料
フェノブカルブ (3.8ppb) 33マイクログラム/m3 平成14年2月 殺虫剤・殺ダニ剤

 

寺院は、古来より人びとの生活の中で公益的な役割を果たしてきました。
寺院が公益法人として認知されていることは、これまでのこのような役割を受けてのことでしょう。 時代とともに、この公益性の意味は変化してきておりますが、なお、寺院には檀信徒を中心に不特定多数の一般利用者が出入りします。

寺院建築の観点からすると、基本的に床下が高く空間も広く確保されておりますので通気性も良い造りとなっています。本堂の床下に潜った際にも常にかなりの通風があることを感じます。

しかし、一昨年改修した客殿は、正座よりは椅子を希望される方も多くなっていることを受けて畳からコルク敷きに変えました
建築工法の進展は断熱性に優れた空間を生み出してくれる半面、かつてあった通気性が損なわれてしまった面もあります。

したがって、寺院においても市町村の公共建物などに適用されているガイドラインを適用することが望ましいと考えます。
貞昌院版のガイドラインを作成してみました。

シックハウスというよりは、「シックテンプル」対策ですね。


公益施設としての寺院建築物シックハウス対策ガイドライン(貞昌院版)

第1 基本的な考え方
1 目的
公益施設としての寺院建築物の工事及び維持管理、運営にあたって留意すべき事項をガイドラインとしてとりまとめることにより、檀信徒、一般利用者の室内空気中の有害化学物質濃度の低減化をすすめます。

2 対象
寺院が管理する建築物のうち、特に不特定多数の方々が利用する建築物(以下「公益性のある建築物」とする。)

3 位置づけ
本ガイドラインは、寺院の公共建築物のシックハウス問題について貞昌院が取り組むための基本的な方針として作成したものです。
シックハウス対策の総合的な推進にあたっては、動向を注視し、新たな知見が得られた場合は、随時見直しを行っていくものとします。

第2 取組内容
1 建築工事にあたって
新築、改築、改修等の建築設計にあたって次のことを行います。

(1) 使用建材等の配慮
使用する建材等は、下地材を含め、屋内、屋外を問わず、原則としてホルムアルデヒド、トルエン等を放散しないか、放散量の少ない材料を選定します。

(2) 工法の配慮と適正換気量の確保
やむを得ずホルムアルデヒド、トルエン等が含まれる建材等を使用する場合は、室内環境等への影響が最も小さくなる工法を選定し、換気について適正な換気量を確保します。

(3) 工事施工者と十分に協議を行い、利用者等の安全に配慮します。

(4) 新たに机やいすなどの什器を購入する場合は、ホルムアルデヒド等の化学物質の放散量が少ない仕様のものを選定するよう配慮します。

2 施設管理、運営
日常の施設管理、運営にあたり次のことを行います。

(1) 化学物質の使用の配慮
殺虫剤、床ワックス、トイレの芳香・消臭剤等の薬剤や日用品を使用する場合、下記の項目に留意し、厚生労働省が揮発性有機化合物等の室内濃度指針値を定めた13種の物質をを含むものについてはその使用を原則として行わず、やむをえず使用する場合でも指針値を超えないようにします。

・身の回りの化学物質の使用に常に注意をはらう
・発生源を極力室内に持ち込まない
・防虫剤、芳香剤、殺虫剤などを使用する場合には成分に留意し、使用量を遵守する。
・境内は原則禁煙とする。喫煙場所を限定し、換気を十分に行う。
・ストーブを使用する場合には有害な燃焼ガスに留意し換気を十分に行う。

(2) 適正な換気量の確保
自然換気の場合には通風を考慮した窓の開放を行います。
換気扇等の機械換気設備が設置されている場合には、適正な換気量が確保されていることを確認します。

・窓を2か所以上開けたり、換気扇や換気口を有効に利用することにより十分な換気を行う。
・空気の流れが阻害されないような工夫をする。
・換気扇のフィルターやファンの掃除はこまめに行う。

3 情報提供
シックハウス対策を総合的に推進するために、本ガイドラインの内容を遵守し、また、檀信徒、一般利用者に対して、シックハウス対策に関連する情報を提供します。

補足 このガイドラインは平成21年2月3日に作成し、作成日より運用するものとします。

 

ということで以前このブログで取り上げた 公共的施設における受動喫煙防止条例 とともに運用していこうと考えています。



■関連リンク

シックハウス対策(厚生労働省医薬食品局化学物質安全対策室)

CompletIARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans (IARC)

投稿者: kameno 日時: 2009年2月 5日 09:21

コメント: 寺院におけるシックハウス対策

すばらしい指針です。
和尚様の志、姿勢に拍手し、あらためて深く感謝し、合掌しています。

シックハウス症状、化学物質過敏症状に苦しむ子が増えていますが、その子らは、身をもって、今の時代の進み方に警鐘をならしてくれているのだと思います。

化学物質過敏症は、ある日ある濃度の化学物質を浴びると、その後、ふつうの人には何ともないほど濃度が低くても、あらゆる化学物質に体が反応してしまい、どこにいっても症状が出て(学校にもお寺にも行けない)、住む場所すらなくなってしまう、その人の幸せに生きる権利を奪ってしまう大変な問題で、これは他人事でなく、誰でも突然そうなる可能性があります。

すぐに症状がでなくて体に入ったことがわからなくても、アスベストのように何十年もたって癌を起こすものもありますし、「次の世代が健やかに生きられるか?」という視点を持つ責任も私たちにはあると思うのです。

使う必要の無いもの、影響が懸念されるものは使わないようにしたいものです。
それには、こうした「ガイドライン」を提示していただけるとわかりやすくて、人々が暮らし方を見直せます。

このブログが多くの方に読まれ、どこのお寺でも実施してくださることを切に願ってやみません。

本当にありがとうございました!

投稿者 ann | 2009年2月10日 09:43

annさん
化学物質が人体にどれほどの影響を与えるかということには常日頃から注意を払っておく必要がありそうですね。
必ずしも直ぐに影響が出るものではないということや、複合的な要因をもつ可能性もあるということもあり、一筋縄ではいかない問題だと思います。
少なくとも疑わしい物質を含むものは使用しないという心構えを持ちたいものです。

投稿者 kameno | 2009年2月10日 12:13

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