キャンドルナイトが目指すこと

でんきを消してスローな夜を

20080516-01.jpg

夏至と冬至を中心として開催されるキャンドルナイト。
キャンドルナイトの際には、電気照明の代わりに、ろうそく(キャンドル)を灯します。
東京タワーやレインボーブリッジなどのライトアップも消され、炭酸ガス排出削減をおこなうことによって環境に優しい催しと思われがちですが、必ずしもそうとはいえない側面もあります。

ろうそくは、和ろうそくと洋ろうそくに分類されますが、

和ろうそく=ハゼ(櫨)やウルシ(漆)の木の実からとった木蝋が原料。純粋に植物由来の原料。

洋ろうそく=元来、蜜蝋から作られていたが、現在では石油パラフィンから作られているものがほとんど。

石油パラフィンは、炭素原子の数が20以上のアルカン(一般式がCnH2n+2の鎖式飽和炭化水素)でありますので、完全燃焼すると炭酸ガスと水が概ね1:1の割合で発生します。発生する炭酸ガスの量は、アルカンの種類によりますが、炭素原子が20以上ありますので、発生炭酸ガスは炭素原子の分だけ増加します。

キャンドルナイトが、省エネルギーや、炭酸ガスの削減を目的とするならば、キャンドルの原料は、カーボンニュートラルとなる植物由来の原料を用いることが望ましいでしょう。
石油パラフィンなどを使った場合は、ろうそくの燃焼によって炭酸ガスを多く排出し、電気を消したことによる炭酸ガス削減効果を相殺してしまう(あるいは逆に炭酸ガスを多く発生させてしまう)ことになります。

少なくとも、石油パラフィンを使ったキャンドルナイトは「直接的には」環境に優しいとはいえないかもしれません。

しかし、キャンドルナイトは、その数時間だけの炭酸ガス削減効果を目的としたものではないのです。


たとえば、7月7日夜、洞爺湖サミットで行われる 『ガイアナイト』を見てみましょう。


『「ガイアナイト」は、脚本家・倉本聰さんの命名。ガイアはギリシャ神話の大地の女神。闇が半日を覆う本来の地球を認識する夜、という意味が込められています。』


私たちは、危機に瀕している地球環境問題について、真剣に考えなければなりません。そのために、地球の未来に思いをはせ、家族や友達と静かに語り合う、そんな時間を持ってみませんか。
時計の針を過去に戻し、ローソクのやわらかな光の中で、私たちが身を置いている文明社会を見つめ直すことを、今、この地球(ほし)で共に生きている皆さんに問いかけてみたいと思います。


 

一時的なイベントではなく、便利な文明社会にどっぷりつかっている現状をいま一度振り返り、ろうそくの温かくやわらかい明かりに集まった家族、友人、皆と語り合うことによって、日常生活に還元していくことこそが、キャンドルナイト、ガイアナイトの目的であるといえます。
単にでんきを消した闇の中では、人は集いません。
ろうそくの明かりがなぜ人を惹きつけ、人を集めるのかは、ろうそくが古来より宗教儀式の中で重んじられて来たということにその理由が見つかるかもしれません。


例えば、キリスト教の祭儀でも、祭壇上にろうそくの灯火が必ず献じられます。
正教会の奉神礼、ローマ典礼、聖体礼儀、聖体祭儀においても例外ではありません。

仏教行事でもそうですね。
『阿闍世王授決経』や『賢愚経』「貧女難陀品第二十」では、お釈迦さまを灯明により供養するという物語がでてきます。
法要ではろうそくが欠かせませんし、各家庭のお仏壇でも燭台にロウソクを灯します。
「灯は命を延ばし、仏の為に灯を燃やせば死後天眼を得て冥界をさまよう事もなく、灯供養は諸幽冥を照らし、苦病の衆生はその光明を蒙り福徳によって皆休息を得る…」『古事類苑』
ろうそくには、仏の智慧が私たち全ての迷いを除き、悟りを導くがごとく、闇を照らし全てを明るくする力があります。これにより迷いなき真実の智慧を得ることができます。お盆行事は江戸時代、ろうそくの普及により庶民の間に広まりました。

 
さて、大船観音で開催されたキャンドルナイトでは、法要で使った後のロウソクの残りを集め、ゴミ選別センターから集めてきた家庭ごみのガラス瓶の中で灯しました。
そこに広島原爆の残り火を灯しています。
 


また、鎌倉ユネスコ協会・鎌倉市環境政策課の提唱する「燈明皿のキャンドルナイト」では、カーボンニュートラルとなる菜種油(天麩羅の廃油など)を用いたキャンドルナイトを提唱しています。

20080414.jpg 燈明皿とは

江戸時代、ローソクが一般的に使われる前に、
和キャンドルとしてつかわれていたのが”燈明皿の灯”
お皿に菜種油を入れて、木綿の灯心に油を吸わせ火を灯すものです。
身近にある小さめのお皿も燈明皿になります。
ミョウバン水で灯心を煮て乾かすとより明るく、
また、受け皿を大きめにしても、灯火が水に映ってより明るくなるそうです。
灯心は二つでも、数本でも明かりの輪になってもよいでしょう。
(「燈明皿のキャンドルナイト」パンフレットより・写真は大本山總持寺大祖堂の燈明kameno撮影)
パンフレット・燈明皿キャンドルの作り方

このように、工夫次第で環境に与える影響を最小限度に留め、よりキャンドルナイトの目的を明確化することもできます。
もちろん、ふだんの生活を見直すきっかけになる祭典になり、その輪が広がっていくことにより、大きな影響力をもたらすことになるでしょう。



“でんきを消して闇と向き合い、1本のローソクに家族が集う、その時間の大切さ”
ガイアナイト趣旨)


今年の夏至は過ぎましたが、これから七夕に掛けて、それぞれの家庭、サークル、地域、寺院などで、それぞれの目的をもったキャンドルナイトを行ってみてはいかがでしょうか。


■おすすめの本


ろうそくの科学 (科学大好き実験・観察シリーズ (3)) (単行本)
伍井 一夫 (著), 平山 明彦

蝋燭はどうして明かりを灯し続けるのかを明らかにし、蝋燭を作ることによってその中に隠された秘密に迫る。蝋燭を使った楽しい遊びや「科学現象」を明らかにするための実験も紹介。


世界でもっとも美しい10の科学実験 (単行本)
ロバート・P・クリース (著), 青木 薫 (翻訳)
科学史(特に物理学)に残る著名な実験のうち、物理学誌の読者投票で選ばれたもっとも美しい実験のベスト10を式なしで説明し、美しさのポイントを絵画の鑑賞のようにやさしく解説します。実験の背景となる理論、実験の概要を説明した後、著者が美しいと感じた理由やトリビア的な知識を開陳します。
エラトステネスの地球の外周の長さを求める実験
ガリレオがピサの斜塔で落下の法則を確認した実験
ガリレオが慣性の法則を確認した実験
ニュートンがプリズムで確認した光の分散の実験
キャヴェンディッシュの万有引力定数を求める実験
ヤングの光の干渉に関する実験
フーコーの振り子による地球自転を確認する実験
ミリカンが電気素量を求めた油滴実験
ラザフォードが原子核を発見したα線の散乱実験
ファインマンの量子力学に関する2重スリットの思考実験



■貞昌院では7月26日(土曜日)に特別講座・サイエンスカフェ@貞昌院を開催します。


お子さん、親子、一般向けの、気軽な科学講座です。どなたでも参加いただけます。


日時 7月26日 午後6時より
場所 貞昌院客間
演題 『ろうそくの炎から宇宙を観る』
講師 亀野誠二 (鹿児島大学准教授・天文学)
(コーヒー・お菓子・資料代として500円を集めます)
 

【内容】
ゆめ観音アジアフェスティバル(9月6日・大船観音にて開催)の際に灯されるろうそくを手作りします。
また、簡単なプリズムを使ってろうそくの炎をスペクトル分析します。
すると、ろうそくに含まれる成分が分析できます。宇宙の星たちも同じような手法で組成が推定できるのです。

【講師プロフィール】
活動銀河中心核のしくみや進化を調べるために、宇宙空間電波干渉計(VSOP)などの電波望遠鏡を使って観測的な研究をしています。


案内状・申込用紙 (PDF)はこちらから

投稿者: kameno 日時: 2008年6月28日 09:00

コメント: キャンドルナイトが目指すこと

いつも読み応えのあるブログを書いてくださってありがとうございます!

確かに、キャンドルナイトが一時的なイベント化しているきらいはありますね。どんなキャンドルを使うか、というところまで気を使っているところも少ないのではないでしょうか。

本来の目的を改めて確認できました。是非この内容を100万人のキャンドルナイトのHPに投稿していただきたいです?

投稿者 asami | 2008年6月28日 12:36

asamiさん
コメントありがとうございます。
それこそ持続可能なものにしていくことが大切だと思います。みんなで企画を練ることも楽しみの一つですね。

投稿者 kameno | 2008年6月28日 23:27

コメントを送る