先週、平塚のスーパーで小学生がエスカレーターの手すりと固定式保護板の隙間に頭を挟まれてしまい重体となる事故が起きました。
まずは事故に遭われたお子さんの一日も早い回復を祈念いたします。
さて、各社の報道は一様に下記のようなものだったと思います。
保護板の長さ不足 建築基準法違反 神奈川のエスカレーター事故神奈川県平塚市のスーパー「西友平塚店」で小学三年の男児(9つ)がエスカレーターの手すりとアクリル製の固定式保護板とのすき間に頭部を挟まれ、重体となった事故で、この保護板が建築基準法の規定通りに設置されていなかったことが十七日、平塚市の調べで分かった。保護板の垂直方向の長さが規定より二十センチ近く不足しており、平塚署は事故との関連を調べている。
エスカレーターと保護板は、シンドラーエレベータ(本社東京)が製造し、民間指定確認検査機関イーホームズ(同)=廃業=の検査を経て二〇〇五年四月に設置された。シンドラー社が年一回の定期点検を実施しており、市は保護板の設置状況と事故との関連を調べるため、同社に図面など関係資料を提出するよう指示した。
固定式保護板は事故防止のため、建築基準法に基づき、二〇〇〇年に建設省(当時)の告示で設置を義務づけられ、エスカレーターの手すりの上部から下方に二十センチ以上垂れ下げるよう定められた。事故があった保護板は、板の端の円筒形のポール部分は手すりの下二十センチに届いていたが、板自体は規定の長さより約十八センチ短かった。
男児はエスカレーターの外側に落とした硬貨を拾おうと手すりから身を乗り出し、保護板と手すりのすき間(一四・五センチ)に頭部を挟まれた。
エスカレーター事故を受け国土交通省は十七日、全国に約六万基あるエスカレーターを緊急点検するよう都道府県に指示した。
(中日新聞2007年10月18日)
その後、エスカレーターを利用する度にアクリルの保護板がどのようになっているのかを気にするようにしていますが、それにより気づいたことあります。
結論を先に書きます。
エスカレータの安全性の責任問題の部分(児童の責任、保護者の責任の部分についてはここでは論議しません)についてですが
(1)固定式保護板の設置基準について実は条文自体の不備があるのではないか。つまり建設省の責任も少なからずあるのではないか。(2)一つの事故事例を教訓として生かしていない。他人事として捉えてしまっていることで二度三度の同様の事故が発生する恐れがある。
という2点の結論です。
まず(1)から見ていきます。
報道で指摘されている建設省(当時)の告示は次のようなものです
建築基準法に基づく告示 通常の使用状態において人又は物が挟まれ、又は障害物に衝突することがないようにしたエスカレーターの構造及びエスカレーターの勾(こう)配に応じた踏段の定格速度を定める件 (平成12年5月31日建設省告示第1417号)建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第129条の12第1項第一号及び第五号の規定に基づき、通常の使用状態において人又は物が挟まれ、又は障害物に衝突することがないようにしたエスカレーターの構造及びエスカレーターの勾(こう)配に応じた踏段の定格速度を次のように定める。
第1 建築基準法施行令(以下「令」という。)第129条の12第1項第一号に規定する人又は物が挟まれ、又は障害物に衝突することがないようにしたエスカレーターの構造は、次のとおりとする。ただし、車いすに座ったまま車いす使用者を昇降させる場合に2枚以上の踏段を同一の面に保ちながら昇降を行うエスカレーターで、当該運転時において、踏段の定格速度を30m以下とし、かつ、2枚以上の踏段を同一の面とした部分の先端に車止めを設けたものにあっては、第一号及び第二号の規定は適用しない。
一 踏段側部とスカートガードのすき間は、5mm以下とすること。
二 踏段と踏段のすき間は、5mm以下とすること。
三 エスカレーターの手すりの上端部の外側とこれに近接して交差する建築物の天井、はりその他これに類する部分又は他のエスカレーターの下面(以下「交差部」という。)の水平距離が50cm以下の部分にあっては、保護板を次のように設けること。
イ 交差部の下面に設けること。
ロ 端は厚さ6mm以上の角がないものとし、エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20cm以下の高さまで届く長さの構造とすること。
ハ 交差部のエスカレーターに面した側と段差が生じないこと。第2 <略>
※下線はkameno付記
まず、目につく一番の問題点は条文中や一、二、三(イ、ロ、ハ)で記載されている長さの単位がバラバラということです。
30m以下・・・・5mm以下・・・50cm以下・・・・・6mm以上・・・・20cm以下・・・・
これでは、読み取る方で間違えて捉えてしまう可能性があるでしょう。
事故の原因となった手すり上端部から鉛直に20cm以下という記述も200mm以下というようにmmに統一するべきです。
そして、次です。
保護版についてどのように設けるかということを示しているのですが、ロの条文を見て、どのような形状がイメージされますか?
端は厚さ6mm以上の角がないものとし・・・までは主語は「保護板の端」であるということは分かります。
その次の「エスカレーターの手すりの上端部から鉛直に20cm以下の高さまで届く長さの構造とすること。」の主語が、「保護板の端」なのか「保護板全体」なのか明確ではありません。「保護板の端」が20cm以下の高さまであれば良いかのように誤解されてしまう条文であると指摘せざるを得ません。
もしもきちんと書くのであればロの前半と後半で主語が違うわけですから例えば
イ 交差部の下面に設けること。
ロ 保護板の端は厚さ6mm以上の角がないものとする。
ハ 保護板全体に亘りエスカレーターの手すりの上端部から鉛直に200mm以下の高さまで届く長さの構造とすること。
二 交差部のエスカレーターに面した側と段差が生じないこと。
とするべきでしょう。
これを条文の明確化といいます。
直ぐにでも改善して欲しいものです。
次に、結論(2)です。
事故により大々的にエスカレーターの保護板の構造について建築基準法に基づく告示の意図している構造が国土交通省から出され、図つきで報道されました。
保護板の設置イメージはこのようなものです。
エスカレーターの管理者も、その報道を一度は目にしているでしょう。
しかしながら、一週間も経っているにも係わらず、建築基準法に基づく告示の基準に満たない状態の保護板が目立つのはなぜでしょうか。
写真のスーパーも、仮に旧基準で設置したものだとしても安全性にかかわる問題ですから基準が改定された時点で新基準に改善するべきであったと考えます。
何故ならこの基準は1999年に埼玉県内のスーパーで小学5年の児童がが頭を挟まれて死亡する事故があったことによる法改正だったからです。
早急な対策は幾らでも取れるはずです。
※写真は某スーパーで撮影。ケイタイのため画質は悪いです。
※保護板部分が分かりやすいように赤で着色加工したものを右写真として参考に置きました。
一つの事故事例を、真摯に捉えるのか、単に「対岸の火事」として捉えるのかでは全く異なります。
ここからさらに踏み込んだことについては、以前 過ちや失敗を繰返さないために という記事を書きましたのでそちらをご参照下さい。
最近呆れんばかりの報道が相次ぐ中で、根本を是正していかないと同じことをまた繰返すだけだとつくづく感じるのです。
まずは過ち・失敗を起こさないようにつとめること。
それでも起こしてしまった自分の過ちは、その過ちに気づき真摯に反省すること
他人の起こした過ち、あるいは企業の過ちについてはそれを教訓とすること。
同じ失敗は繰返さないようにすること。
経験した失敗は、活かすこと。
それをしなければ良い方向に進むわけがありません。