偶然の幸運を生かすか殺すか

朝日新聞の読者の新聞写真に掲載された印象深い写真がありました。
今年1月23日の紙面に掲載され、フォトアサヒ4月号の表紙にも採用された一枚の写真です。

asahi200704.jpg


この写真は、昨年12月18日に種子島より打ち上げられたH2Aロケット11号機を、飛行機の機内より撮影されたものです。


新聞でこの写真を見たときから私の心の中に深く刻まれていたものなのですが、実は、先日、知人とのなにげない会話の中で、この写真がその方の義妹 Kさんが撮影された写真だということが分かり、とても驚きました。


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「12月18日午後、Kさんは那覇空港から中部国際空港へ向かう旅客機に乗っていた。(中略)種子島上空という機内アナウンス後に窓から眺めていたら、雲海から光る物体が飛び出してきた。すごい角度でみるみる上昇していった。手にしていたコンパクトデジカメを窓にくっつけて撮影した。」(2007月1月23日付 朝日新聞より)
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宮古島からのツアーの帰路、乗っていた旅客機が種子島上空にさしかかったとき、雲海を突き抜けて急上昇していくロケットに気がつき、手にしていたカメラで撮影した一枚です。
紺碧の空に向かう真っ白い一筋の航跡。好奇心と行動力が、貴重な写真につながりました。
この高度からロケット上昇の瞬間を撮影することなど、めったにできることではありません。
(フォトアサヒ写真講評より)
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このような写真は、撮ろうと思って撮れるものではありません。
僅か数分間の瞬間に、この付近を飛行していなければ、もちろん見ることはできませんし、当のH2Aロケット11号機は、当初12月16日の打ち上げ予定が天候不良で18日に延期されたものです。
そして、それを目撃した瞬間にカメラを取り出し撮影しなければ、このような写真は撮れない訳です。
千載一遇のチャンスに遭遇し、それをきっちり写真に収めたことに敬意を表します。

十九世紀のフランスの数学者、ポアンカレの 「偶然はそれを受け入れる準備ができた精神のみに訪れる」 という言葉は有名である。 いつ、どのような偶然が起きるかということ自体はコントロールできなくても、偶然の幸運を生かす能力は、自分の心掛け次第で鍛えることができる。

『脳と創造性 「この私」というクオリアへ』 茂木健一郎

後日、ご本人より、大きく引き伸ばした写真をいただきました。
ありがとうございます。


H2Aロケット11号機の打上げ写真ギャラリーがJAXAのサイトに掲載されています。
http://www.jaxa.jp/countdown/f11/photo/index_j.html

その中にも同じ飛行機から撮影した別の方の写真もありました。
http://www.jaxa.jp/countdown/f11/photo/13_j.html

けれども、その中のどの写真にも負けない迫力が冒頭の写真にはあります。
これぞ報道写真といっても過言ではありません。

千載一遇の偶然の幸運に出会ったことに、まず気づくかどうか。
そして、その千載一遇の偶然の幸運を生かすことができるか、そのまま流してしまうのか。
それは、その人の普段の心がけが生み出す必然なのかも知れないですね。


【追記】
このHA2ロケット打上げに関しては、鹿児島大学にいる私の弟も少なからず関わっています。

打上げの日ののブログはこちら


H2Aロケットは、日本初の純国産ロケットH2ロケットで培われた技術をもとに、人工衛星の打上げ・国際宇宙ステーションへの補給などの多様な輸送需要に、これまでの度重なる打上げ失敗から信頼性を取り戻すために、低コストで対応するために開発されたロケットです。
このH2Aロケット11号機には、技術試験衛星VIII型「きく8号(ETS-VIII)」が搭載されていました。
きく8号は、携帯電話の通信環境の向上や、新潟県中越地震・石川県能登半島地震・新潟県中越沖地震など、大災害が発生した際に、一刻も早く人々の安否を確認したり、救援対策を講じるために必要な通信網を、宇宙から確保するために必要な人工衛星です。
なお、特徴的な大型太陽電池が不具合となり、心配されましたが、通信状況にはそれほど影響はないようです。

投稿者: kameno 日時: 2007年8月 7日 01:43

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