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教区寺院の大施食法要も、昨日でいよいよ折り返し。
後半の日程へと入ります。
8月11日まで毎日各寺院を廻り、そのまま8月盆の期間へ突入。 いよいよ佳境ですね。
当教区では、お弟子さんが、まだ小さいうちから法要に参加することが多いのですが、昨日は、御住職の長男である、まだ幼稚園に通うD沙弥が参加。
本堂に上殿するときに、法要解説で紹介されると、檀家さんの間から「かわいぃ?」の声があがります。
行道のときも、檀家さんの目線はD沙弥にくぎづけ。 役得ですね?
昨日はそれほど暑くもなく、時折爽やかな風が堂内を吹き抜けていきますので、実に心地よい法要でした。
私は法要の間、D沙弥の横に沙弥係として、ついていたのですが、途中から眠くなったんでしょうか、コックリコックリ・・・・
最初は肩を叩いたりしていたのですが、どうしても眠気に勝てないようで、法要後半の座誦の間は、後頭部を腕で支えてあげていました。
正座しながら眠るというのも器用ですが、きっと大物になることでしょう。
ところで、こういう法要儀式というのは、なんともいえない心の安心感と、心地よさをもたらします。
それは、堂内に響き渡る僧侶・参列者たちの様々な音域がもたらす読経のゆらぎによるものもありましょうし、木魚のリズムというものも大きな要因であると思われます。
特に、木魚のリズムは、当教区の大施食会法要では、
ゆったりめに読むお経については M.M.=70?90程度(本尊上供の出だしなど)
早めに読むお経については、大体M.M.=90?100程度(大悲呪など)
で読誦していきます。
大本山總持寺の朝課・大悲真読では、M.M.=20?30位になったりします。
(これがまた強烈な眠気との戦いである・・というのは内緒)
さて、この木魚の音って、心臓の鼓動の音にもよく似ています。
特に、胎児が母親の胎内で聞いている音に近いのではないでしょうか。
何となく感じる安心感というのは、そういう所から来るのかもしれません。
大人の心拍数は、M.M.=65?80程度。 幼児の心拍数は、M.M.=100?120程度とされていますから、読経のリズムと心拍数が同程度になった時には、子どもたちが眠くなるのも当然といえます。
<木魚は、人々を怠惰や惰眠から目醒ませるためのもので、そのために常に目醒めている魚の形をしているのですが、逆の効果を周囲にもたらすというのは面白いですね>
さて、木魚の醸し出す音が、なぜ心地よいかを音響学的に評価した論文がありますので、それを見てみましょう。
『木魚に関する物理特性と音質評価』春原・丸山・降旗・柳沢(信州大学工学部電気電子工学科)この研究では、全国各地の大きさ,形状の異なる175 種類にわたる木魚(直径7.5cm ?120cm)について、周波数分析を行っています。 これにより、木魚音は近接した2つの共振周波数成分を持つこと、第1共振周波数F1、第2共振周波数F2から導かれる RBC値
RBC=(F2-F1)/(F2/2+F1/2)について、下図表のような明確な法則があることを見い出しています。
寺院名 |
直径[cm] |
F1[Hz] |
F2[Hz] |
RBC 値 |
K寺 |
90.0 |
61.3 |
70.6 |
0.141 |
C寺 |
44.0 |
131.3 |
151.9 |
0.141 |
Z寺地蔵堂 |
39.0 |
147.5 |
171.9 |
0.153 |
S寺 |
30.0 |
259.4 |
293.8 |
0.124 |
F院 |
16.0 |
478.8 |
565.6 |
0.166 |
つまり、木魚のRBC 値は、ほぼ0.10?0.20 までの範囲内にあり、それは寸法・形状に依存しない共通の物理量であるということが言えそうです。
また、この第1共振周波数F1、第2共振周波数F2については、インテンシティベクトル計測により、木魚全体から発生しているのではなく、内部共鳴音が木魚の口から点音源として発生しているということがわかりました。
さらに、直径の異なる4種類の木魚を用いて心理評価実験を行い、つやのある・響きのある・奥行きのある・ありがたみのある・木魚らしい・好ましい・・・といった項目の評価を行った結果、得点が高い木魚は、その大きさに関わらずRBC 値が0.10 前後であるという結果を得ています。
木魚というものは、叩くポイント、叩き方が決まっています。
一つのお経の中でも、最初はゆっくり、段々早くという原則の中で、臨機応変に強弱やリズムを整え、アゴーギクを与えています。
法要に参列の際は、木魚の音に着目してみると面白い発見があるかも知れません。
心地よい中にも耳を傾けてみる価値は大いにあるでしょう。
叩かれて 昼の蚊を吐く 木魚かな 漱石