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金沢文庫企画展 描かれた寺社展に展示されている「明治の社寺明細帳図」を眺めていると興味深いことが分かります。
それは、「社寺明細帳図」の書式として定められた
1.境内の地形を測り、その方位を定め、地種の等級を図中に明示すること
の、地種の等級についてです。
まずは、展示されている神社、寺院について、それぞれ地種がどのような等級に分類されているかを絵図から抜き出して一覧にしてみました。
※下記リストは金沢文庫での展示順です。地種の抜き出し、分類はkamenoが行っていますので間違いがあればご指摘ください。
■神社
相模国鎌倉郡金井村 | 誉田別神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡岡津村 | 三嶋神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡飯島村 | 三嶋神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡下野庭村 | 白幡社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡二つ橋村 | 神明社 | 官有地第一種 |
武蔵国久良岐郡田中村 | 伊勢大神社 | 官有地第一種 |
相模園鎌倉郡城廻村 | 諏訪神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡扇ケ谷村 | 八坂大神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡二階堂村 | 荏柄天神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡二階堂村 | 住吉神社 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡二階堂村 | 熊野神社 | 官有地第一種 |
相模国高座郡四ッ谷村字宮ノ下 | 日枝神社 | 官有地第一種 |
武蔵国久良岐郡富岡村字宮田 | 八幡大神社 | 官有地第一種 |
武蔵国久良岐郡釜利谷村字小泉下 | 手子神社 | 官有地第一種 |
同上 | 同上(山林部分) | 官有地第三種 |
武蔵国久良岐郡寺前村 | 王子社 | 官有地第一種 |
相模国大住郡西田原村村社 | 八幡神社 | 官有地第一種 |
武蔵国北多摩郡烏山村字千駄山 | 稲荷神社 | 記載なし? |
武蔵圃北多摩郡上川原村 | 日枝神社 | 記載なし? |
■寺院
武蔵国北多摩郡大町村 | 清教寺 | 民有地第一種 |
同上 | 同上(墓地部分) | 民有地第三種 |
武蔵国久良岐郡北方村 | 善行寺 | 官有地第四種 |
相模国大住郡西田原村 | 香徳寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡永谷村 | 貞昌院 | 民有地第一種 |
相模国鎌倉郡笠間村 | 笠間山法安寺 | 官有地第四種 |
相模図鎌倉郡小雀村 | 燈明寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡下倉田村 | 龍臥山瑞祥院永勝寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡秋葉村 | 長蔵寺 | 民有地第一種 |
相模国鎌倉郡品濃村 | 北天庵 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡飯島村 | 光長寺 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡下倉田村 | 南江山万松寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡上倉田村 | 林宗寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡平戸村 | 永谷山東福寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡鍛冶ヶ谷村 | 本郷山正翁寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡大町村 | 延命寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡大町村 | 別願寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡小袋谷村 | 亀甲山法得院成福寺 | 官有地第一種 |
相模国鎌倉郡常盤村 | 園久寺 | 官有地第四種 |
相模国三浦郡久木村字堀内 | 妙光寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡岩瀬村 | 亀鏡山護国院大長寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡大町村 | 教恩寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡梶原村 | 休場山等覚寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡岩瀬村 | 岩瀬山正定院西念寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡岡本村 | 聖天山智積院玉泉寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡山之内村 | 光照寺 | 官有地第四種 |
相模国鎌倉郡大町 | 妙法寺 | 官有地第四種 |
ここで、地種の分類とは、具体的にどのようなものかを法律の規定から確認してみます。
根拠となる法律は「改定 地所名称区別」(
明治7年11月7日太政官布告第120号)です。
改定 地所名称区別」( 明治7年11月7日太政官布告第120号)
明治6年3月第114号布告 地所名称区別左ノ通改定候条此旨布告候事
官有地
第1種 地券ヲ発セス地租ヲ課セス区入費ヲ賦セサルヲ法トス
1 皇宮地 皇居離宮等ヲ云
1 神地 伊勢神宮山陵官国弊社府県社及ヒ民有ニアラサル社地ヲ云
第2種 地券ヲ発シ地租ヲ課セス区入費ヲ賦スルヲ法トス 但府県所用ノ地ハ地券ヲ発セス唯帳簿ニ記入ス
1 皇族賜邸
1 官 用 地 官院省使寮司府藩県本支庁裁判所警視庁陸海軍本分営其他政府ノ許可ヲ得タル所用ノ地ヲ云
第3種 地券ヲ発セス地租ヲ課セス区入費ヲ賦セサルヲ法トス
唯人民ノ願ニヨリ右地所ヲ貸渡ス時ハ其間借地料及ヒ区入費ヲ賦スヘシ
1 山岳丘陵林藪原野河海湖沼池沢溝渠堤塘道路田畑屋敷等其他民有地ニアラサルモノ
1 鉄道線路敷地
1 電信架線柱敷地
1 燈明台敷地
1 各所ノ旧跡名区及ヒ公園等民有地ニアラサルモノ
1 人民所有ノ権理ヲ失セシ土地
1 民有地ニアラサル堂宇敷地及ヒ墳墓地
1 行刑場
第4種 地券ヲ発セス地租ヲ課セス区入費ヲ賦スルヲ法トス
1 寺院大中小学校説教場病院貧院等民有地ニアラサルモノ
民有地
第1種 地券ヲ発シ地租ヲ課シ区入費ヲ賦スルヲ法トス
1 人民各自所有ノ確証アル耕地宅地山林等ヲ云 但此地売買ハ人民各自ノ自由ニ任スト雖モ潰シ地開墾等ノ如キ大ニ地形ヲ変換スルハ官ノ許可ヲ乞フヲ法トス
第2種
1 人民数人或ハ1村或ハ数村所有ノ確証アル学校病院郷倉牧場秣場社寺等官有地ニアラサル土地ヲ云 但此地売買ハ其所有者一般ノ自由ニ任スト雖モ潰地或ハ開墾等ノ如キ大ニ地形ヲ変換スルハ官ノ許可ヲ乞フヲ法トス
第3種 地券ヲ発シテ地租区入費ヲ賦セサルヲ法トス
1 官有ニアラサル墳墓地等ヲ云
少し分かりづらいので、整理して表に纏めてみました。
地所名称区別改定による分類
分類 | 種別 | 内容 | 地券 | 地租 | 区入費 |
官 有 地 | 第一種 | 皇宮地、神地 | ×
|
×
|
×
|
第二種 | 皇族賜邸、官用地 | ○
|
×
|
○
|
|
第三種 | 山岳 丘陵 林藪 原野 河 海 湖沼 地 澤 溝渠 堤塘 道路 田畑 屋敷等 其他民有地ニ有ラザルモノ此ノ他 鉄道路線敷等 |
× |
× |
× |
|
第四種 | 寺院、大中小学校、説教場、病院等 | ×
|
×
|
○
|
|
民 有 地 | 第一種 | 所有ノ確証アル耕地、宅地、山林、原野等 | ○
|
○
|
○
|
第二種 | 所有ノ確証アル学校、病院、郷倉、牧場、秣場、社寺等 | ○
|
×
|
×
|
|
第三種 | 官有ニアラサル墳墓地等 | ○
|
×
|
×
|
つまり、神社は官有地第一種であることが規定され、「社寺明細帳図」でも押し並べてその分類に従い全ての神社が官有地第一種(ただし、手子神社の山林部分は官有地第三種)となっています。
注目すべきは、寺院です。
ほとんどの寺院が官有地第四種となります。また、光長寺、成福寺のように神社と同様に官有地第一種に分類されている寺院もあります。これら寺院の土地も国に召し上げられています。
そもそも、 江戸時代に認められていた寺社領は、明治維新後、明治4年と明治8年の上知令により段階的に国に没収され領域を狭められていきます。
「総テ民有地ノ証ナキモノ及民有地ヲ政府ヘ買上ケシ神社敷地ハ官有地第一種、寺院敷地は同四種ヘ編入スヘシ」
ついに、原則、神社は官有地第一種、寺院は官有地第四種と分類されてしまいます。
「社寺明細帳図」でも原則そのように分類されていることが見て取れます。
けれども、清教寺、貞昌院、長蔵寺のように民有地第一種(清教寺墓地部分は第三種)となり、民有地のままとなっている寺院もあります。
何故民有地となっている寺院があるのでしょうか。逆に言えば、正当な理由や確実な証拠を提示することにより、当該寺院の申請により国から還付、下げ戻すことが出来たと考えられ、それを行ったのでしょう。
(ただし、神社については国家神道に組みこむため、いかなる理由、証拠を提示しても還付されることはなかったはずです)
貞昌院は民有地第一種ですから、地券が発行され寺院の土地として証明された代わりに、地租も掛かっていたと推測されます。
(なぜ民有地第二種でなく第一種なのかは不明)
明治初期、全国の寺社は神仏分離・廃仏毀釈・地租改正・上知令などにより大きな変革を余儀なくされます。ただ変革させられたばかりでなく、強制的に統合させられたり、破壊された寺社も数知れません。
廃仏毀釈と国家神道について述べることは今日の記事の内容に関連するとはいえスペースが足りませんので機会を改めるとして、土地制度から見た寺社の歴史的経緯を辿ることにより多くの事実が見えてくることが分かりました。
官有地として上知された土地が寺社に戻ってくるのは、寺院については昭和に入り宗教団体法に伴う第一次境内地処分法により、 神社については終戦後「官国幣社経費ニ関する法律」等の廃止と「第二次境内地処分法」神社の(官有地第一種)が寺院と同様の雑種財産として改められ国からの譲与対象になり、さらに宗教法人法の成立まで待たされることになります。
貞昌院が民有地第一種になっている理由として、上地令の段階だけではなく、次の時点で民有地と確認された可能性があります。
その1
明治9年3月27日地租改正事務局による「境内官民有区別ノ事」「境内外区別ノ事」「境外上地処分ノ事」で
総テ民有地ヲ政府ヘ買上タル地ハ勿論、従前朱印・除地・旧 領主寄附及ビ見捨地、高内免税地等、従来無税ノ地ニシテ、 民有ノ証ナキモノハ官有地ニ編入スベキモノトス
その2
明治9年7月地租改正事務局連署の内務省達により、境内地のうち、社寺および旧神官、僧侶が自費で開墾した確証のあるものは境外地同様、無代で下付
その3
明治11年5月9日 内務省達
官国幣社式社及ビ文明十八年以前ノ創立ニ係ル社寺并公園地区劃中ノ社寺ヲ除クノ外官有地ニ在ル社寺ニシテ、境内外区劃決定ノ分ニ限リ、該社寺ニ於テ請願候ハバ、無代償下渡、民有地第一種ニ組替、其旨時々可届相違候事
以上の時点であれば、展示している社寺明細帳図の作製時点で民有地であってもおかしくはありません。
投稿者 金沢文庫学芸員 | 2009年1月29日 16:52
金沢文庫学芸員さま
詳細な資料をお示しくださいましてありがとうございます。
その3を見ると、なぜ民有地第一種なのかが良く分かります。
ほとんどの寺院が官有地となる中で、貞昌院がなぜ民有地となっているのかの理由をさらに調べてみたいと思います。
投稿者 kameno | 2009年1月30日 10:14
はじめまして。
私は,ある神社の墓地の所有権について係争中の者です。
このブログの明治前期の社寺の所有権についての詳細な分析が,たいへん参考になります。
ところで,1つお伺いしてもよろしいでしょうか。
January 29, 2009 4:52 PMに,金沢文庫学芸員様がご指摘している,「明治11年5月9日 内務省達」についてです。
この通達の意味は,どのように解せばよいのでしょうか?
当時は,官国幣社は優遇されていたと思うのですが,この通達の内容からは,まるで官国幣社は他の社寺に劣る取扱がなされているように読み取れます。
私の認識は間違っていますでしょうか?
ご教授いただけれ幸いです。
投稿者 関西の住人 | 2011年7月 7日 18:59
関西の住人さま
コメント有難うございます。
内務省達における官国幣社の取扱いについて、分かることがあれば追記させていただきます。
投稿者 kameno | 2011年7月 9日 10:22