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経典に次のような一節があります。
汝等比丘、昼は則ち勤心に善法を修習して時を失せしむること勿れ、初夜にも後夜にも亦 廃すること有ること勿れ、中夜に誦経して以て自ら消息せよ
(『仏遺教経』)
ここに出てくる「初夜」「中夜」「後夜」は一昼夜を6つに分けた「六時」の名称です。
仏教では1日(一昼夜)のうち、昼を「晨朝」「日中」「黃昏(こうこん)」、夜を「初夜」「中夜」「後夜(ごや)」というようにそれぞれ3等分しました。
そして、それぞれに行なう修行の内容が定められていました。
(「晨朝」は「初日」、「日中」を「中日」、「黃昏」を「後日」や「日没(にちもつ)」ということもあります。)
また、これらは「日の出」と「日の入」を基準として、昼と夜をそれぞれ3等分して定められましたので、季節によってその長さは違ってきます。
修行道場だけでなく、明治以前の日本では「不定時法」が用いられていました。
日の出薄明を「明け六つ」、日の入薄明を「暮れ六つ」として、やはり日の出、日の入を基準に時刻を定めました。
そして昼を6等分、夜を6等分し「○の刻」と定めましたので、それぞれの「刻」の長さは2時間ちょうどにはならず、季節によって違ってきます。
春分と秋分の日近辺は昼と夜がだいたい同じ長さとなりますから、「○の刻」もほぼ等分されるのですが、夏至では昼間の「○の刻」は2時間よりもかなり長くなり、夜の「○の刻」は逆に2時間よりも短くなります。
「不定時法」では、このように昼と夜で時間の進み方が異なりますので、明け六つと暮れ六つで時計の針の進み方が切り替わる「和時計」が開発されました。
では、大本山永平寺を基準として、六時を計算してみましょう。
日の出・日の入マップ では、任意の地点の日の出、日の入の方向と時刻を求めることが出来ます。
夏至と冬至ではこんなにも昼夜の長さは異なりますし、太陽の方向も異なります。
日の出、日の入の時刻をもとに、「六時」それぞれの時刻を計算しエクセルでドーナツグラフを作成してみました。
表:永平寺(福井県吉田郡)を基準とした六時の時刻
春分 | 夏至 | 秋分 | 冬至 | |
晨朝の始まる時刻 | 5:58 | 4:38 | 5:43 | 7:02 |
日中の始まる時刻 | 10:01 | 9:30 | 9:46 | 10:16 |
黃昏の始まる時刻 | 14:04 | 14:23 | 13:49 | 13:30 |
初夜の始まる時刻 | 18:08 | 19:16 | 17:52 | 16:45 |
中夜の始まる時刻 | 22:05 | 22:26 | 22:49 | 21:30 |
後夜の始まる時刻 | 2:01 | 1:21 | 1:46 | 2:15 |
<昼の長さ> | 12:10 | 14:38 | 12:09 | 9:43 |
<夜の長さ> | 11:50 | 9:22 | 11:51 | 14:17 |
※注)日の出日の入を基準に計算しています。薄明を昼に加える場合は昼の長さがその分長くなります。
このようにそれぞれの時刻は夏至と冬至ではかなりずれ込むことが分かりました。
その場所の太陽の位置を基準にしていますので、場所によって時刻は変わりますが、全国が同時刻である必要がない時代ですからまったく問題はありません。
また、時計がなくても太陽の動き、高度を見るだけで「○の刻」を定めることができますので、不定時法が必ずしも不便であるとは言えないのです。
その場所の日の出、日の入を基準とした生活というのは、体内時計にも近いような感じがします。
自然に逆らわないとても豊かな生活だったのかもしれないですね。