体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの研究チームが、これまでの常識を覆し、弱酸性の刺激を与えるだけの簡単な方法であらゆる細胞に分化できる万能細胞を作製することに成功したことが1月29日付の英科学誌ネイチャー電子版で発表されました。
これは、人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは全く異なる新型の万能細胞であり、再生医療の研究に役立つと期待されます。

 


これまでの常識では、哺乳類の細胞は、受精卵が分裂して血液や筋肉など多様な体細胞に変わり、種類ごとに分化された後は、その細胞の種類の記憶は固定されてしまい、その記憶が「初期化」されることは起きないとされていました。
「動物細胞でも“自発的な初期化”が起きうる」ことは有り得ないことだったのです。

けれども、理研発生・再生科学総合研究センターの小保方研究ユニットリーダーのグループは、「ありえない、起きない」という常識を覆す仮説に挑み、それを実証することに成功しました。


共同研究グループは、まず、マウスのリンパ球を用い、さまざまな化学物質の刺激や物理的な刺激を加え、細胞外の環境を変えることによる細胞の初期化への影響を検討しました。その過程で、酸性溶液で細胞を刺激することが初期化に効果的だと分かりました。実験では多能性細胞に特有の遺伝子「Oct4」が発現するかどうかで初期化の判断をします。詳しい解析の結果、酸性溶液処理によってリンパ球のT細胞に出現したOct4陽性細胞は、T細胞がいったん分化した細胞が初期化された結果、生じたものであることを突き止めました。また、このOct4陽性細胞は生殖細胞を含む多様な体細胞へ分化する能力をもつことが分かりました。さらに、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞などではほとんど分化しないとされる胎盤など胚外組織に分化することも発見しました。一方で、酸性溶液処理以外にもガラス管の細胞を多数回通すなどの物理的な刺激や、細胞膜に穴をあける化学的刺激でも初期化を引き起こすことが分かりました。小保方研究ユニットリーダーは、こうした細胞外刺激による体細胞からの多能性細胞への初期化現象をSTAP(刺激惹起性多能性獲得)、生じた多能性細胞をSTAP細胞と名付けました。また、STAP現象がリンパ球だけで起きるのではなく、脳、皮膚、骨格筋、肺、肝臓、心筋など他の組織の細胞でも起きることを実験で確認しました。
細胞外刺激による細胞ストレスが、分化状態にある体細胞の記憶を消去して初期化する-という今回の成果は、これまでの細胞分化や動物発生に関する常識を覆し、細胞の分化制御に関する新しい原理の存在を明らかにしたものです。細胞の分化状態の記憶を自由に消去したり、書き換えたりできる次世代の細胞操作技術となる可能性が高く、再生医学以外にも老化や免疫など幅広い研究に新しい方法論を提供します。今後、ヒト細胞への適用を検討するとともに、さらに初期化メカニズムの原理解明を進めていきます。
(理化学研究所のプレスリリースより)

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100%キメラマウス(2種類以上の異系統のマウスの胚を融合させて作るマウス)_STAP細胞由来
(理化学研究所プレスリリースより)

 

 

どのような研究分野においても、確立された理論を覆すということは大変なことです。
「哺乳類の細胞でも外的刺激により初期化が起こった」それも「あまりに簡単すぎる技術で実現」など、今回の成果はあまりにも大きく、また、常識も尽く覆されてしまいました。
あまりにも常識外れの理論だったため、一年前『ネイチャー』誌からは「過去何百年の生物細胞学の歴史を愚弄している」と酷評されてしまいました。
誰も認めようともしなかったのです。

けれども、強い信念と、その信念を支える周囲のサポートが困難を乗り越える原動力となり、今回の成果につながりました。

「何度もやめようと思ったけれど、あと1日だけ頑張ろうと続けてきて、いつの間にか今日に至った」
(小保方研究ユニットリーダーのことば)

 

STAPによる「細胞の種類の記憶初期化」は、これまでの生物学の常識を覆す現象です。今後は、その原理が解明されることにより、幹細胞や再生医学のみならず幅広い医学生物学研究に変革をもたらすことでしょう。
今後の成果に期待します。

 

 


 

STAP細胞の STAP とは、Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency  (=刺激惹起性多能性獲得)の略で、あらゆる細胞に分化する能力がある万能細胞の一種です。
酸性溶液で体の細胞にストレスを与えることで作製します。


■関連リンク
Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency (Nature)
投稿者: kameno 日時: 2014年1月30日 21:04

コメント: 体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見

Ipsに続いて、STAP。文系の人間の頭には、なんのこったかわかりません。around還暦で当方の脳細胞が硬化しているのか低下しているのでしょう。
小保方さんて学科は違うでしょうけど、亀野さんの後輩ですね。私も一応同じ大学出身であるということで、親近感を少々抱きました。

2月13日のSZI総会に久々に参加したいと思いましたが、残念ながら行けそうもありません。申しわけございません。

投稿者 吉田俊英 | 2014年2月 1日 13:51

吉田老師
コメントありがとうございます。
だいぶ後輩になるのですが、若き研究者の今後の活躍を期待します。
日本では「リケジョ」「割烹着」「ムーミン好き」など研究成果とは関係ないことが報道されていますが、研究内容そのものがどういうものなのかを噛み砕いて伝えて欲しいものだと感じます。
13日の件は残念でございます。
寺院史発刊の目処がつきましたので、近いうちにお届けできると思います。

投稿者 kameno | 2014年2月 1日 21:20

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