アブラゼミだけが鳴く理由

7月から8月にかけて、毎日のように施食会法要のために廻りました。
施食会法要にはそれこそ近隣寺院より数十人の随喜があり、また参列者も読経されるため、堂内が読経の声で満たされます。

それに呼応する形で、境内のセミの声がひときわ大きく、まるで声量を競うが如く鳴き出します。
気づくことは、寺院ごとに鳴くセミの種類が微妙に異なることです。


例えば、貞昌院ではアブラゼミ、ミンミンゼミに加えて、クマゼミが多少混ざっています。
藤沢に近い寺院では、むしろクマゼミの方が主流だったり、大船駅に近い寺院では昼間からヒグラシが主役だったり。

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(写真は貞昌院のミンミンゼミ。体一杯震わせて鳴いています)

植生の状態や街の中心にあるのかそうでないのかなど、様々な条件がそのようにさせているのでしょう。
また、クマゼミが多くなっていることもヒートアイランド現象の進行を私たちに伝えてくれています。
 


ところが、今日の新聞記事で興味深いものを見つけました。
アブラゼミしか鳴かない場所があるのです。

その理由とは・・・・


セミの音に残る「戦禍」 隅田公園、なぜか一種類のみ


64年前の東京大空襲で焼け野原となった東京都墨田区の隅田公園には、セミのなかではアブラゼミ1種類しか繁殖していないことが、東京大総合研究博物館の須田孫七・協力研究員(78)の5年にわたる調査で分かった。須田さんは、空襲でいったん地域のセミが全滅し、復興後も川と急速な宅地化により、アブラゼミ以外のセミが公園にたどり着けていない可能性があるとみている。

隅田公園は、隅田川をはさんで墨田区側(約8万平方メートル)と、台東区側(約10万6千平方メートル)に分かれている。須田さんは5年前の8月、台東区側では、アブラゼミとミンミンゼミの音が半分ずつ聞こえ4種が確認できたのに、墨田区側ではほとんどがアブラゼミだと気づいた。墨田区側では、死骸(しがい)の羽もアブラゼミだけだったという。

須田さんは、東京学芸大を卒業後、中学校教諭などを務めながら東京都内の昆虫を調べ、専門書の執筆や観察会などを手がけている。現在は「東京の昆虫相の変遷史」をテーマに研究中だ。
隅田公園周辺は1945年3月10日の東京大空襲で、大きな被害を受けた。須田さんは当時、地元の友人の安否を確かめようと、空襲から3日後、徒歩で現地を訪れ、壊滅的な状況を目の当たりにしたという。
調査では、空襲関連の文献にも目を通し、改めて当時の被害や範囲も確認した。
須田さんは、(1)大空襲で地域の昆虫のほとんどが全滅。セミの幼虫も焼き尽くされた(2)復興後、他の昆虫の多くは植樹や河川敷を利用して木々にとりつくなど生態系を戻したが、木とその根元の地中をすみかとするセミは、雌雄ともに飛行距離が比較的長いアブラゼミが、焼け残った場所からたどり着くにとどまった――とみている。
台東区側では、西にある上野公園や東京大キャンパスなどから街路樹などを伝ってセミが繁殖範囲を広げたが、墨田区側は、隅田川と周囲の急速な宅地化で公園が隔離され、虫が移動できる道ができなかった可能性があるという。須田さんは「ミンミンゼミの雄が来ることもあるが、メスは行動範囲が狭く、命がつなげないのではないか」と話している。
圧倒的なアブラゼミの鳴き声に交じってミンミンゼミの声も時々、聞こえるが、わずか数匹。「戦争は生き物にとって壊滅的な環境変化。影響や復元に目を向けた研究も必要ではないか」と指摘する。
     ◇
■空襲との関係、詳しい調査必要

昆虫に詳しい群馬県立ぐんま昆虫の森園長の矢島稔さんの話 ミンミンゼミはもともと東京の平地にはほとんどいなかったが、今はとても増えている。戦争から60年以上たって、限られた場所だけが聖地のように昔の姿を残しているのは非常に不思議な感じがする。もっと広い範囲でセミの分布を詳しく調べないと、空襲との関係は何ともいえないのではないか。

〈東京大空襲〉 45年3月10日、米軍のB29重爆撃機による焼夷(しょうい)弾攻撃で、東京・下町の墨田、江東、台東各区を中心に約40平方キロが焦土と化した。一夜で約10万人の命が失われたとされる。
(朝日新聞2009年8月13日夕刊)




なるほど、アブラゼミが戦禍の記憶を刻んでいるのですね。
その真偽を判断するためにはまだまだ検証するべきことも多いでしょうけれども、とても興味深い事実です。
セミは羽があるために行動範囲が広いと思っていましたが、アブラゼミ以外のセミが隅田川を越えることが困難なほど行動範囲が極めて限られるということも意外でした。

となれば、冒頭に書いたように、寺院ごとでセミの分布状況が異なるということも納得できます。

セミは様々なことを私たちに教えてくれるのですね。


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投稿者: kameno 日時: 2009年8月13日 21:04

コメント: アブラゼミだけが鳴く理由

蝉が鳴かない年があるそうで、それは戦時中の空襲で親蝉が死に絶えたのが原因と言われており、その結果、数年毎必ず鳴かない年が今でもあるとの事です。私にはどうしても信じられません。本当なのでしょうか?

投稿者 山山 | 2015年8月 7日 12:59

少なくとも、セミが多く発生する年と少ない年があり、何らかの原因があると考えます。
空襲が大きな要因であるというのは一つの説ですが、そのあたりは学術的な解明を期待したいところです。

投稿者 kameno | 2015年8月 8日 08:04

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