持続可能な地域社会への試み

地球の冷やし方?私にできること?の続きです。


辻信一先生(明治学院大学教授・ナマケモノ倶楽部主宰)が仲立ちとなり、横浜市戸塚区善了寺本堂が会場となり、アウキ・ティトゥアニャ知事夫妻を囲む勉強会が開催されました。

アウキ知事は、先住民族として初の南アメリカ・エクアドルのコタカチ郡知事に選ばれ、3選を果たし就任12年目を迎えます。
他国籍企業による鉱山開発反対を掲げ、参加型の草の根民主主義を実現させた知事による持続可能な地域社会についての試みについてのお話です。


まずは外務省のサイトよりエクアドルの基本情報をみてみましょう。



国名:エクアドル共和国(Republic of Ecuador)

2008年3月現在
一般事情

1.面積 256,370平方キロメートル(本州と九州を合わせた広さ)
2.人口 13.4百万人(2006年、世銀)
3.首都 キト
4.民族 白人・先住民混血(メスチソ)77%、白人10%、先住民7%、黒人・先住民混血(ムラート)3%、黒人2%
5.言語 スペイン語
6.宗教 カトリック
7.略史
年月 略史
1822年 大コロンビアとして、スペインより独立
1830年 大コロンビアより分離独立
1979年 民政移管

(1)首相名 首相職無し
(2)外相名 マリア・イサベル・サルバドール

8.内政
1822年の独立後、クーデターによる政権交代が繰り返され、1979年の民政移管後は民主体制が維持されてはいるものの、政情は依然不安定である。
2003年1月に就任したグティエレス大統領は、先住民系政治組織パチャクティをも巻き込んだ連立政権を発足させたが、ガソリン価格引き上げを含む厳しい緊縮政策を導入、外交面でも対米接近を図ったため、支持基盤である先住民等貧困層の離反を招き、連立政権は数ヶ月で崩壊、その後は国会で野党勢力と順次手を結び、辛うじて政権を維持した。2004年末には与党及び政府支持派野党等による国会での最高裁判事更迭劇を契機として、反政府運動が活発化、大統領罷免決議が採択されるなど政情が不安定化し、2005年4月に国会が大統領を罷免したのを受け、パラシオ副大統領が大統領職を継承した。
パラシオ大統領は、政治経験を有せず、確たる政治基盤も無いことから、政権運営は困難を極め、重要閣僚が相次いで辞任、交代するなど、不安定な状態が続いた。
かかる国政の混乱及び寡占的な政治経済構造に対する国民の歴史的な不満を背景に、貧困層の多数の支持を得て、コレア大統領が2007年1月に大統領に就任した。コレア大統領は大統領選挙の公約(新憲法制定のための制憲議会の設置、対米FTA交渉の打ち切り、米軍によるエクアドル空軍基地(マンタ基地)の2009年11月以降の使用許可延長拒否、予算を貧困層に重点的に配分)を、議会に確たる支持基盤を持たない中で積極的に推し進めてきた。特に新憲法制定に向けては、全権を担う制憲議会の開催の是非を問う国民投票の実施を推進する大統領及び世論と、これを阻止しようとする議会の間で混乱が生じたが、4月、国民投票の結果、多数の支持を受けて制憲議会の発足が承認された。
続いて制憲議会議員選挙を9月に実施、その結果コレア大統領支持政党が制憲議会の絶対過半数を占め制憲議会が発足した。
今後、制憲議会においてコレア大統領の政策が反映された憲法草案が作成される見込みであるが、同草案に対する国民投票が来年半ばにも予定されており、今後の動きが注目される。

これ以降の情報はこちら



善了寺での勉強会は、最初に平和祈願法要からはじまりました。
予定では4時ぐらいからということでしたが、皆の到着を待ってからというスローかつ計画無しの次第でしたので、実際に法要が始ったのは午後5時過ぎ。
けれども誰ひとり不満を言うものはありません。

勉強会のスタイルも、前半は知事夫妻を半円状にグルッと囲み、後半では皆が持ち寄りの食べ物を円形に配置した机に並べ、上も下も無い自由なスタイルで進められました。
このスタイルも、その場の状況で皆で考えて逐一進めていきます。

以下、夫妻のお話の内容をかいつまんでご紹介いたします。


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■エクアドル・コタカチ郡について

南米において、スペインがやってくる以前の4500年の歴史を持つ先住民族・インカ独自の文化はエクアドルなどが中心でした。
コタカチ郡は、エクアドルよりもさらに長い歴史を持つ郡で、55%の先住民、5%のアフリカ系黒人、30%はメスチソと呼ばれる混血という構成となっています。
1996年、先住民運動により、共和国初めて先住民による候補者を立てることが実現しました。それ以前は、政党はメスチソにより牛耳られていました。
1979年までは、先住民の非識字率は99%にも及び、投票することすらままならなかったのでした。


■初の民族出身知事として

アウキ・ティトゥアニャ知事は、先住民族出身者として初めて郡知事となりましたが、先住民のコミュニティーの生活水準の向上、自然環境に対する責任を持つものとして政権運営を行ってきました。
西洋的民主主義に対し、参加型(コミュニティー決定型)の民主主義を作ることを提案、しかしながら、当時、コミュニティー決定型の実現は当初非常に困難でした。

そこで郡はわかりやすい基本方針(シナリオ=基本原則)を打ちたてます。
それは次の3つ。

(1)盗まない (2)嘘をつかない (3)ナマケない

このようなわかりやすい基本現方針が徐々に実を結び、現在、氏は3期、12年目を迎えようとしています。
中南米の周辺の国、郡を見渡すと、政治の腐敗、権力の乱用、賄賂の横行が日常事となっています。
そのような状況の中で、どのように民主主義議会を構築していったのでしょうか。
具体的には、郡がバスを用意し、積極的に郡庁舎に招待。先住民であろうが、外国人であろうが誰でも議会に受入れ、発言の場が設けられています。
一例としては、子どもたちの発言が議会の禁煙を決議するきっかけになったこともありました。

 

■アウキ知事夫人よりの話

ルース=マリーナ・ヴェガ(アルカマリ)さんはティトゥアニャ知事の奥さんで、医者でもあります。
1996年に夫が知事として就任し始めた時、医療問題は深刻な状態でありました。
そこで市のレベルで作成した委員会を組織し、様々な西洋、先住民土着の医療を融合させることを行いました。
それまでは、土着の医療は、先住民が医療について無知であるという偏見から、違法なものとして警察に追われるようなものでありました。
しかし、実際に先住民の医療は病というものは環境との不均衡(バランスが崩れること)により引き起こされると考え、水、食料などを改善することが大切であると言うことを教えます。
伝統的な医療と如何にうまく取り入れるのかという試みは初めてのことでありましたが、それが功を奏し、2003年からは乳児死亡率が殆んど無くなりました。
コタカチ郡は、栄養問題についても、それが回避されたことを宣言するところです。
けれども、良いことばかりではありません。
GNPが増加しているにもかかわらず、貧困率は35%から80%に増加しています。


■鉱山問題の経緯と現在
エクアドルには銅と金の鉱山があります。
1997年以降、他国籍の企業がこの資源を求めてエクアドルに進出しようと試みました。
例えば日系企業や、英国、チリ、カナダなどの企業です。
最初は資源調査ということであったため、エクアドルコミュニティーは協力を行いました。
しかし、その後開発が大きな利益をもたらすことが分かり、鉱山開発計画を打ち出すこととなり、それに対しコミュニティーは強固に反発し、JICAのキャンプを焼討ちにするなどの過激な行動も起こすようになりました。

1998年、アウキ知事が初来日、鉱山開発から撤退するよう直訴。
アウキ氏は、他国籍企業による鉱山開発が貧困の解決にはならす、むしろ更なる貧困と腐敗をもたらすことを、これまでの石油資源開発などの事例から確信しておりました。
住民の中で、鉱山開発推進派は土地の所有者、商人などを中心とした5%、それ以外は開発に反対しています。

その運動により、2000年に日系企業は撤退。
しかし、銅価格が2000年には1ポンド当たり80セントであったものが2003年には2.5ドルに上昇するなど、再びカナダなどの企業が開発計画を推進する動きをみせています。

今年2月、他国籍企業の権利は無効になりました。
しかし、現政府は鉱業推進派であり、それはとても脅威でもあります。

鉱業は、10年、20年といった短いスパンでの利益をもたらすかも知れません。
しかし、公害は長期間に亘って残るものです。
他国籍企業による鉱山開発を行うのではなく、エコツーリズム、伝統工芸を生かした産業、自然エネルギーを推進することがエクアドルの将来に必要なことでしょう。
エクアドルはホットスポットと呼ばれる生物多様性をもつ地域を抱えています。
その多様性を失うことなく、調和をもったありかたが必要なのです。

それが持続可能な社会構造の基盤となるものです。
コタカチ郡は、様々な功績が認められて、2000年、国連賞、2003年ユネスコ平和自治体賞を受賞しています。


アウキ・ティトゥアニャ知事プロフィール

1965年1月2日生まれ。キューバの大学にて経済学を学ぶ。エクアドル、コタカチ郡の現郡知事。キチュア民族出身。
1996年に先住民族キチュア出身として初めて郡知事に選ばれ、「民衆議会」など、すべての住民の意思を反映する政治を目指す。
1998年に来日し、コタカチ郡での取り組み、抱える鉱山開発問題、そして先住民族の文化や歴史、そしてアイデンティティーなどについての講演を行う。
2004年から第3期目を向かえ、さらに市民の生活の質の向上のため、コタカチ郡の自然や文化を守るために精力的に活動している。

投稿者: kameno 日時: 2008年5月 1日 17:03

コメント: 持続可能な地域社会への試み

> kameno先生

> (1)盗まない (2)嘘をつかない (3)ナマケない

この非常に簡潔な基本方針を拝見し、かつて漢の高祖(劉邦)が、たった三章だけの法を作った故事を思い出しました。

法は三章だけとする
 まず人を殺した者は死刑 
 人を傷つけた者は重罪
 盗みを働いた者はその軽重によって罪を決める

投稿者 tenjin95 | 2008年5月 1日 17:45

tenjin95さん
簡潔かつ明瞭な法ですね。
それだけのことを人々がきっちりと守るだけで随分世の中は住みやすくなりそうです。

蛇足ですが、エクアドルでの原則のうち「ナマケない」だけは、辻先生にとっては受入れ難い基本方針のようです(^^

投稿者 kameno | 2008年5月 1日 21:50

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