伝統宗教のサイトは有害な情報源か

携帯電話に関する調査を行う「モバイルリサーチ」を展開するネットエイジアにより、中学生・高校生を対象にした「携帯電話フィルタリングサービス調査」の結果が発表されました。

□ 調査概要(クローズド調査)
○ 調査対象 ・・・ 13歳?17歳の中学生・高校生ユーザー
○ 調査地域 ・・・ 全国
○ 調査期間 ・・・ 2月21日 18時?2月22日 10時
○ 回答サンプル数 ・・・ 394名(回答者キャリア内訳;NTTドコモ54.8%、au30.2%、ソフトバンク15.0%)
学年;中学1年生7.6%、中学2年生11.9%、中学3年生18.5%、高校1年生30.5%、高校2年生31.5%
性別;男性41.9%、女性58.1%


その結果概要は

◆ケータイの利用がらみで、「怖い思いや嫌な思いをした」1/4超える
◆有害サイトへのアクセス経験・・・「アダルト」27.7%、「出会い系・援助交際」10.2%
◆フィルタリングをかけられたら、「親に解除手続きをしてもらう」約半数 実際の解除見込み率は3割程度
◆フィルタリングをかけられたら、ネットの利用・頻度は激減

というものでした。
詳細はこちらをご参照下さい


近年、携帯サイトを起因とした犯罪に小中高校生が巻き込まれる事件が増加傾向にあり、これを受けて昨年末に総務省は「携帯電話におけるフィルタリング(有害サイトアクセス制限)の普及促進について」を発表し、これをすすめています。


携帯電話におけるフィルタリング(有害サイトアクセス制限)の普及促進について


携帯電話におけるフィルタリング(有害サイトアクセス制限)の普及促進について
本日、総務省、警察庁及び文部科学省は合同で、インターネット上の有害な情報から子どもを保護するため、都道府県、教育委員会及び都道府県警察等に対し、携帯電話におけるフィルタリングの普及促進について、学校関係者や保護者をはじめ住民に対する啓発活動に取り組むよう依頼しました。

1依頼の背景
近年、子どもがいわゆる出会い系サイトなどのインターネット上の有害な情報に携帯電話からアクセスし、事件に巻き込まれるケースが多発しています。また、インターネット上の有害な情報は、子どもの健全な育成に悪影響を及ぼしている一面もあります。インターネット上の有害な情報への対応については、フィルタリング(※)が有効な対策の一つですが、その普及はいまだに低水準にとどまっているのが現状です。このため、本日、総務省、警察庁及び文部科学省は合同で、都道府県、教育委員会及び都道府県警察等に対し、別紙(PDF)のとおり、携帯電話におけるフィルタリングの普及促進について、啓発活動に取り組むよう依頼しました。
※フィルタリングとは、インターネット上のウェブページ等を一定の基準で評価判別し、選択的に排除する機能のこと。

2依頼の内容
依頼の内容は、次のとおりです。
(1) 都道府県や教育委員会等においては、子どもの安心・安全の確保の重要性を十分認識し、携帯電話におけるフィルタリングの普及促進について、別添資料(注)により学校関係者や保護者をはじめ住民に対する啓発活動に取り組むとともに、管内の市区町村、市区町村教育委員会及び学校にも本趣旨を周知すること。
(2) 各都道府県警察においても、携帯電話等のフィルタリングの利用促進に重点をおいた対策の強化に努めること。



これを受けて、携帯・PHS各社は、有害サイトアクセス制限サービスを相次いで行っています。

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主なフィルタリングの方法は
(1)携帯電話会社の公式サイトから、有害の恐れのあるサイトを排除し、残ったサイトの閲覧を許可する「ホワイトリスト」
(2)一般サイトを含め、有害情報サイトだけ遮断する「ブラックリスト」
の2方式があり、ドコモとKDDI(au)は原則的にホワイトリストを適用し、希望者にはブラックリスト方式を提供しています。
また、ソフトバンクと、PHSのウィルコムはブラックリスト方式を標準適用しています。

まず、ドコモとKDDI(au)ホワイトリスト方式ですが、極端な事例では、行き過ぎた排除により自身のキャリアの提供する公式サイト以外の一般サイトに全くアクセスできなくなるなどの弊害が問題視されています。総務省としては、こうした意見を考慮し、今年4月をメドにフィルタリングの在り方について検討会の中間報告をまとめ、原則としてブラックリスト方式を適用するよう促していく予定のようです。

しかし、ブラックリスト方式も全く問題が無いのでしょうか。
実際にどのようなフィルタリングを行っているかを調べてみました。


NTTドコモ(iモードフィルタ)
ソフトバンクモバイル(ウェブ利用制限機能)
ウィルコム(有害サイトアクセス制限サービス)
で採用されている(株)ネットスターのフィルタリングサービスを見てみましょう。


■ アクセス制限の対象カテゴリ

ネットスター株式会社の基準に基づき、以下のカテゴリーに分類されたウェブサイトへのアクセスが制限されます。
・ 不法(違法と思われる行為、違法と思われる薬物、不適切な薬物利用)
・ 主張(軍事・テロ・過激派、武器・兵器、誹謗・中傷、自殺・家出、主張一般)
・ アダルト(性行為、ヌード画像、性風俗アダルト検索・リンク集)
・ セキュリティ(ハッキング、不正コード配布、公開プロキシ)
・ ギャンブル(ギャンブル一般)
・ 出会い(出会い・恋人紹介、結婚紹介)
・ グロテスク(グロテスク)
・ オカルト(オカルト)
・ コミュニケーション(ウェブチャット、掲示板、IT掲示板)
・ ライフスタイル(同性愛)
宗教(伝統的な宗教、宗教一般) 
・ 政治活動・政党(政治活動・政党)
・ 成人嗜好(娯楽誌、喫煙、飲酒、アルコール製品、水着・下着・フェチ画像、文章による性的表現、コスプレ)


このうち、下線部に注目してください。
・・・・・・・宗教(伝統的な宗教、宗教一般)

えっと、伝統的な宗教、宗教一般ってフィルタリングの対象になりうるのでしょうか。


では早速試してみましょう。
私が利用しているキャリア、ウイルコムに電話して有害サイトアクセス制限サービスに申し込んでみました。

Googleで「曹洞宗」と入れて検索してみます。

SCRN0001.jpg
 


曹洞宗の公式サイトにアクセスしようとしてみると・・・・・
 

SCRN0002.jpg

ああ、ダメですね?、アクセスできません。
貞昌院のサイトももちろんダメ。というか、宗教関係の寺院サイトはもとより、ブログ、wikiなど、ことごとくNGです。
ここまで徹底的にフィルタリングされているということに愕然としました。
もしかすると中国のインターネットを試してみたよりも強力なフィルタリングかもしれません。
 

【携帯電話向けのURL収集行程イメージ】
surl.jpg
    ↑
  ネットスターの職員の皆さんがマニュアルどおりに宗教サイトを一律有害サイトとしてリストアップした結果ですね。
 


確かに実害・問題のある宗教はいくつかあるかもしれません。
しかし、伝統的な宗教を排除するという無謀な考えは、日本ならではのことではないでしょうか。
他の国では考えられないことです。

この異常なまでの宗教アレルギーについては、以前、各国の祝日を比較した中で、ほとんどの国で、国の祝日として仏教、キリスト教、イスラム教のいずれか一つ以上の祝祭日があるのと対極的に、宗教に関わる祝日が指定されていない国は共産主義国家と日本くらいなものだとうあたりにも端的にみることができます。


これは宗教弾圧といっても良いのではないでしょうか。
僧侶たちは声を上げて「宗教」のフィルタリングに対して改善を要求するべきだと思います。


有害サイトフィルタリングは確かにある程度は必要なことかもしれません。
しかし、過剰なフィルタリングは、ネットの付き合い方を学ぶことからむやみに遠ざけるという弊害もあります。それに、有益な情報に接する機会すら奪ってしまっています。


大事なことは、「有害サイトがあるということを前提に、その中で如何にインターネットと付き合うか」ということも教育していかなければならないということです。
なぜなら、いくらフィルタリングをしたとろで、所詮いたちごっこで、フィルタをすり抜けるサイトは少なからず出てくるでしょうし、そもそもフィルタリング自体を掛けない子どももかなりの割合でいるでしょう。
そして、何よりも有害サイトへの免疫をつけないということは、逆効果の面も少なからずあるはずです。これは宗教への免疫も同様です。

実例として、なぜ有害サイトが有害なのか、どのような被害をもたらすのかということを、親や先生を含めて話し合いながら学んでいく場も必要なのではないでしょうか。


 
さて、有害サイトアクセス制限サービスを申し込む時には電話で即時設定できたのですが、これを解除するためには解除申込用紙を請求して、郵送しなければならないようです。
ということで、あと一週間ぐらいは自分のサイトのメンテナンスすらままならない不便な日々が続きます><
→不便な状態はいとも簡単に問題解決しました。その理由は後日詳述します。

投稿者: kameno 日時: 2008年3月 2日 00:23

コメント: 伝統宗教のサイトは有害な情報源か

こんばんは。
曹洞宗が「有害サイト」とは、驚きました。
いや、それを通り越して、呆れました。
日本の宗教的無知、無関心はここまできているのかとう感じです。
「心」を失っているのも、納得できそうな気分です。

投稿者 ぜん | 2008年3月 3日 21:25

ぜんさん
コメントありがとうございます。
宗教=有害な情報という短絡的な発想には困ったものです。
また、違法かどうか明確でなくとも、有害な恐れがある場合には児童が閲覧できなくなる措置を『義務付け』るという法案も検討されています。
このあたりの動向は注視していく必要があるでしょう。

投稿者 kameno | 2008年3月 4日 12:06

> kameno先生

朔日、なかなか貴ブログにアクセスできず困りましたが、今日は大丈夫のようですね。

それにしても、この問題ですが、以前「キッズgoo」というところで、弾かれてしまうというのがブロガーの中で問題がありまして、騒ぎになっていました。ホント、これは悪意すら感じるフィルタリングですね。宗教を教えないから、何が良い宗教なのかも分からずに、全部ゴミ箱へ、くらいで思っているのでしょう。

投稿者 tenjin95 | 2008年3月 4日 16:36

tenjin95さん
アクセスできなかったとのこと、すみませんでした。
実は、断続的にサーバーを止めていたのです。
(理由は明日のブログで記事にいたします)
さて、キッズgooのフィルタもかなり酷いようですね。
結局良いものと悪いものの境界線などはっきりするわけなど無く、一律ばっさりということは悲しむべき状況です。
わざわざアクセス制限のカテゴリーとして「伝統的な宗教」と明記するあたりは全く理解に苦しみます。意図的なのでしょうか。

投稿者 kameno | 2008年3月 4日 18:37

Kameno様
初めてコメントを記入します。田村貴紀と申します。貴ブログで何度か引用していただいて、感謝です。

社会情報学会での発表要旨もpdfで発見し、拝読しています。このブログ記事も非常に関心を持って読みました。

最近は、宗教とインターネットの研究はしばらく離れていましたが、また少しずつ研究しようと思っています。

研究交流させていただけると幸いです。お時間があるときに、下記論文(共著です)記載のメールアドレスにメールいただけると、大変にありがたいと存じます。

http://jcmc.indiana.edu/vol12/issue3/kawabata.html

投稿者 田村貴紀 | 2008年3月 7日 09:26

田村先生
ブログへのコメントありがとうございます。
こちらで書かせていただきました拙論やブログでも先生の研究は引用させていただきました。

改めて御礼申しあげます。

ここ数年で携帯電話の普及、ブログ、プロフ、SNS、Wikiなどネット環境を取巻く状況が著しく変化しています。
その中で、宗教はどのようにあるべきかを考えることは、重要な研究課題だと考えています。


これを機会に、研究交流を含め、いろいろな点でお付き合いくだされば幸甚に存じます。どうぞよろしくお願い申しあげます。

投稿者 kameno | 2008年3月 7日 12:16

Kamenoさん、
(ネットだからお互いにさんづけでいかがでしょうか?)
ここでもレスを頂いたので、ちょっと書きます。
記事になされた携帯電話のフィルタリング問題は、海外ではInformation Ethicsというフィールドで扱われます。日本でいう情報倫理よりも、ずっと広い概念で、情報技術と人間の生活全体との関係を考えなければならないと、倫理学者が考えているようです。彼らの感覚からすれば、宗教団体のサイト全体がフィルターされるなどと言うことは、とんでもない大問題で、驚く顔が見えるようです。

そのInformation Ethicsの雑誌のひとつIRIEの次号の特集は、
"The Internet as an Ethical Challenge for Religions"
というものです。「宗教は信仰のコミュニティであると同時にコミュニケーションのコミュニティだ。従って情報技術の進展が無縁であるはずがない」とかいてあります。これは、kamenoさんのレスに共通する問題意識です。

>携帯電話の普及、ブログ、プロフ、SNS、Wiki
おっしゃるとおりだと思います。CMS特にSNSは、重要な問題だと思います。Mixiなどだけでも考えるべき事がありますが、最近は、自前で簡単にSNSを作れるようになったので、それがどう働くのか、考察すべき事だと思います。それも、コミュニケーション論のレベルで考えることが現実的だと思います。

投稿者 田村貴紀 | 2008年3月 9日 00:14

PTA安全会からフィルタリングサービスの適用を知りました。
子供たちを守るサービスだと安心していましたが、曹洞宗が有害サイトとはびっくりデス。難しいところですね。

投稿者 ゼラニウム | 2008年3月 9日 08:37

田村さん
日本における有害サイトフィルターの基準作成に関して、倫理学者、特に宗教者がどれだけ関わっているのかを考えるとかなりお寒い状況だと感じます。
そして、フェイルターの内容もオープンにされておらず、各社独自の基準で突っ走っています。
日本においてもInformation Ethicsの分野について真剣に論議していく必要がありましょう。
SNSについても、低年齢層への普及もすすみ、環境は刻々と変化しています。その展開に私たちがついていくことができない状況も生み出しています。
IRIEのレポート、拝読させていただきました。学識経験者、実際に情報を発信している側の宗教者、その利用者などが連携してこのあたりを考えていきたいものです。今後ともよろしくお願いいたします。

ゼラニウムさん
見えない部分は多いですね。親の立場からもどのような仕組みになっているのかを学ぶ必要があるとつくづく感じています。

投稿者 kameno | 2008年3月 9日 09:53

おそらく苦情対策ではないかと
つまりこの忙しいご時勢、お子さんに情操教育を初め
子どもと一緒にじっくり物事に向き合う機会の少ない家庭が
増えてきているからだと思います。
だからフィルタリングで物事を解決しようという意見が出てくるのでしょう。よくよく考えれば、その子どもたちも大人になれば、自然と世の中の醜い部分と出会うことになります。その時果たして「正しく」物事を考えようと意識を働かせる人がいるのでしょうかね。

投稿者 Anonymous | 2009年5月21日 21:49

親子で実際に「悪影響を及ぼす」とされているサイトに向きあって何故「悪い」のかを話し合ってみると良いと思います。
過剰に温室栽培で育てられた作物が室外に曝されるとどうなるのか・・・

投稿者 kameno | 2009年5月22日 01:18

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