Whole Earth Catalog

昨年亡くなったスティーブ・ジョブズをはじめ、01960-70年代のカウンターカルチャー世代に支持され、大きな影響を及ぼした『Whole Earth Catalog』という冊子があります。

これがその『Whole Earth Catalog』です。
(私が持っているのは 01971年版)
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このカタログは、01968-01972年まで継続的に刊行されていた、Whole Earth=地球上のあらゆるものに関する「商品カタログ」です。

ただ、無条件に何でもかんでもで掲載されるわけではなく、

1)Understanding Whole Systems(全体システムの理解)
2)Shelter and Land Use(シェルターと土地の利用)
3)Industry and Craft(産業と民芸)
4)Communications(コミュニケーション)
5)Community(コミュニティ)
6)Nomadics(遊牧民族)
7)Learning(学習)

のように分類され、それぞれのカテゴリーにおいて、編集者・スチュアート・ブランドの厳選された眼によって選ばれたものだけが掲載されています。
その基準がこちら。

FUNCTION
1) Useful as a tool,(役に立つ道具である)
2) Relevant to independent education,(自立教育に関係がある)
3) High quality or low cost,(ハイクオリティー、もしくはローコストである)
4) Easily available by mail.(郵便で簡単に手に入る)

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カタログの大きさはタブロイド版で、かなり大きく読み応えがあります。
パラパラめくって眺めるだけでも楽しい。

Zenに関する紹介もあります。
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(Zen Mind, Beginner's Mindの頁)

 

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スティーブ・ジョブズは、02005年6月に行われたスタンフォード大学卒業式の講演においても、講演の結びとして『Whole Earth Catalog』を引用しています。


Your time is limited, so don't waste it living someone else's life. Don't be trapped by dogma ―which is living with the results of other people's thinking. Don't let the noise of others' opinions drown out your own inner voice. And most important, have the courage to follow your heart and intuition. They somehow already know what you truly want to become. Everything else is secondary.

When I was young, there was an amazing publication called The Whole Earth Catalog, which was one of the bibles of my generation. It was created by a fellow named Stewart Brand not far from here in Menlo Park, and he brought it to life with his poetic touch. This was in the late 1960's, before personal computers and desktop publishing, so it was all made with typewriters, scissors, and polaroid cameras. It was sort of like Google in paperback form, 35 years before Google came along: it was idealistic, and overflowing with neat tools and great notions.

Stewart and his team put out several issues of The Whole Earth Catalog, and then when it had run its course, they put out a final issue. It was the mid-1970s, and I was your age. On the back cover of their final issue was a photograph of an early morning country road, the kind you might find yourself hitchhiking on if you were so adventurous. Beneath it were the words: "Stay Hungry. Stay Foolish." It was their farewell message as they signed off. Stay Hungry. Stay Foolish. And I have always wished that for myself. And now, as you graduate to begin anew, I wish that for you.

Stay Hungry. Stay Foolish.
Thank you all very much.

(英文はスタンフォード大学のプレスリリースより引用)


【日本語訳】
あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。ドグマにとらわれてはいけない。それは他人の考えに従って生きることと同じです。他人の考えに溺れるあまり、あなた方の内なる声がかき消されないように。そして何より大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです。あなた方の心や直感は、自分が本当は何をしたいのかもう知っているはず。ほかのことは二の次で構わないのです。

私が若いころ、全地球カタログ(The Whole Earth Catalog)というすばらしい本に巡り合いました。私の世代の聖書のような本でした。スチュワート・ブランドというメンロパークに住む男性の作品で、詩的なタッチで躍動感がありました。パソコンやデスクトップ出版が普及する前の1960年代の作品で、すべてタイプライターとハサミ、ポラロイドカメラで作られていた。言ってみれば、グーグルのペーパーバック版です。グーグルの登場より35年も前に書かれたのです。理想主義的で、すばらしい考えで満ちあふれていました。
スチュワートと彼の仲間は全地球カタログを何度か発行し、一通りやり尽くしたあとに最終版を出しました。70年代半ばで、私はちょうどあなた方と同じ年頃でした。背表紙には早朝の田舎道の写真が。あなたが冒険好きなら、ヒッチハイクをする時に目にするような風景です。その写真の下には「ハングリーなままであれ。愚かなままであれ」と書いてありました。筆者の別れの挨拶でした。ハングリーであれ。愚か者であれ。私自身、いつもそうありたいと思っています。そして今、卒業して新たな人生を踏み出すあなた方にもそうあってほしい。

ハングリーであれ。愚か者であれ。
(訳文は日本経済新聞の記事より引用)


 

このように、スティーブ・ジョブズも『Whole Earth Catalog』に多大なる影響を受けたうちの一人であことがよく分かります。

ジョブズ曰く、「まるでGoogleが出る35年前に遡って出されたGoogleのペーパーバック版とも言うべきもので、理想に輝き、使えるツールと偉大な概念が、それこそページの端から溢れ返っている」という表現がぴったりの本であると、改めて読み返して感じます。

 

『Whole Earth Catalog』最終号の背表紙がこちら。

20120127-01


Stay hungry. Stay foolish.
ハングリーであれ。愚か者であれ。

ジョブズ自身、いつもそうありたいと思っていたことばであり、これからの時代を担う若者達にもそうあってほしいと願うことばでもありました。

 

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もう一つ、ジョブズの講演引用部分のことば、「あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください」

というのは、例えば

修証義(しゅしょうぎ)第五章(行持報恩)


唯当(まさ)に日日(にちにち)の行持、其報謝の正道なるべし、謂ゆるの道理は日日の生命を等閑(なおざり)にせず、私に費やさざらんと行持するなり。
光陰は矢よりも迅(すみや)かなり、身命は露よりも脆(もろ)し
何れの善巧(ぜんぎょう)方便ありてか過ぎにし一日を復び環(かえ)し得たる、徒(いたず)らに百歳生けらんは恨むべき日月(じつげつ)なり、悲むべき形骸(けいがい)なり、設(たと)い百歳の日月は声色(しょうしき)の奴婢(ぬび)と馳走すとも、其(その)中一日の行持を行取(ぎょうしゅ)せば一生の百歳を行取するのみに非ず、百歳の佗生(たしょう)をも度取すべきなり、此(この)一日の身命は尊ぶべき身命なり、尊ぶべき形骸なり、此(この)行持あらん身心自らも愛すべし、自らも敬うべし

【現代語訳】
何か特別に報謝のやり方があるのではなくて、日々の生活の上に自然と行ぜられていくやり方である。
それはこれがご恩報謝であると意識して行ずるようなことでなく、鳥の空を行き、魚の水に住むように、鳥と空と相識ることなく、魚と水と相識ることなく、 しかも空に涯なく、水に限りなく悠々たるようにあることが、恩を知り恩を報ずることの端的であり至極のすがたである。
私共の日々のいのちを大切にして、恣意に費やさないように行ずることである。 それは、鳥と空、魚と水のようになっているとき、自然とそのように行ぜられていることになっている。
月日の過ぎゆくはまことに速やかであり、それは矢よりも早い。
この月日の流れの中に生きていく私共のいのちは草の葉にやどる露よりもはかない。
どのようなよき手だてを用いて見ても、過ぎ去りし日を呼びもどすことは出来ぬ。
かくて意味もなく百年の年月を生きても、それは只はかなき生のいとなみのみというべく、無駄な年月であり、つまらぬ形骸(むくろ)というべきである。
されど、そのように物の世界の中を走りまわったような百歳であっても、その中で一日でも、真実の道理に従った生活ができたならば、その一日の行持の功徳は、あまねく一生の全体を蓋うだけでなく、更に又そのようなすばらしい百年のいのちをもう一度過ごしたのと同じ徳があることになる。
この一日のいのちは尊ぶべきいのちであり、尊ぶべき身体である。
真実の道理に従った一日の行持、それは特別の一日でなく、極めて平凡な一日であっても、それが輝ける仏の御手の中の 一挙手一投足であることに気がつき、仏の御手を使い、仏の御足を歩むことであることに気づく。無量寿の仏の御いのちを歩むことであると気づかせて頂く。 そう気がついて見ると、いままでいたずらに過ごして来たと思っていた年月全部が、それがそのままに仏の御いのちの中のいとなみであったことに気づく。 このような行持を保ち得て、仏の御いのちをいのちとして生かされるこの自らのいのち、それは今までいたずらなるものと思っていたが、実は心より敬愛すべき身心である。



のような(これは一例ですが)思想が根底にあると考えられます。

2月16日のSOTO禅インターナショナルの講演会「スティーブ・ジョブズと北アメリカの禅」

では、このあたりを掘り下げていければと考えております。

 


今年は「ロング・ナウ」的には「02012年」です。

昨日、2月26日は禅宗・曹洞宗の開祖道元禅師の誕生日、ロング・ナウ的には道元禅師「00812歳」の降誕会を迎えました。

投稿者: kameno 日時: 2012年1月27日 11:53

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