名勝史蹟四十五佳選

『市史通信』第6号(2009/11/30 横浜市史資料室発行)に興味深い記事が出ていました。
「1935年神奈川県名勝・史蹟投票」です。

全文はこちらで見ることが出来ますので併せてご覧ください。

名勝史蹟四十五佳選 (1935年選出)
名勝・史跡 場所 票数
1 石小屋 愛甲郡半原 284,726
2 妙香寺 横浜市北方町 275,770
3 峰の灸 横浜市峰町円海山 239,345
4 玉泉寺 横浜市中村町 218,220
5 八菅神社 愛甲郡中津町 168,880
6 早川城趾 高座郡綾瀬村 166,204
7 石老山 津久井郡内郷村 163,165
8 浅間神社 横浜市浅間町 146,967
9 八景ノ棚 高座郡麻溝村 146,393
10 宮ヶ瀬渓谷 愛甲郡宮ヶ瀬 131,222
11 道了尊御本地 中郡成瀬村 123,417
12 ペルリ上陸記念碑 三浦郡久里浜 121,684
13 丹沢の大滝 津久井郡鳥屋村 116,718
14 金砂山子育観音 藤沢町 111,775
15 北向庚申神社 高座郡座間村 109,722
16 鬼子母神常照寺 横浜市南太田町 105,437
17 重国城趾天満宮 高座郡渋谷村 95,169
18 城山城趾 津久井郡内郷村 92,829
19 鮎の水郷田名 高座郡田名村 83,413
20 花水河口 平塚市 80,350
21 志田山朝日寺 津久井郡串川村 71,895
22 青柳寺 高座郡大野村 69,718
23 称名寺百観音 久良岐郡金沢町 64,114
24 三眼六足稲荷 高座郡東厚木 62,145
25 与瀬神社 津久井郡与瀬町 60,616
26 綱島温泉桃雲台 横浜市綱島町 59,374
27 永谷天満宮 鎌倉郡永野村 50,729
28 大ダルミ 津久井郡千木良村 50,311
29 若雷神社 都筑郡新田村 46,799
30 三浦畠山地蔵尊 三浦郡葉山町 46,593
31 畠山重忠霊堂 都筑郡都岡村 44,142
32 波切不動の滝 都筑郡新治村 42,373
33 吾妻神社 中郡二宮町 41,461
34 宝泉寺 高座郡小出村 39,646
35 柏山稲荷 藤沢町大庭 39,607
36 金蔵院安産子育観音 横浜市磯子 39,270
37 広沢寺温泉 愛甲郡玉川村 38,481
38 金目観音 中郡金目村 38,196
39 円満寺白衣観音 横浜市久保町 38,100
40 座間神社 高座郡座間村 37,816
41 白滝不動尊 横浜市中区根岸町 37,666
42 龍源院弁財天 高座郡座間村 36,578
43 旧城寺 都筑郡新治村 36,252
44 日限地蔵尊 鎌倉郡永野村 35,638
45 滝出現見合不動尊 高座郡御所見村 34,837

1935(昭和10)年に横浜貿易新報社(現在の神奈川新聞社の前身)創立45周年記念事業として行なわれた、神奈川県内の45か所の「名勝・史蹟」を読者投票で選定する『名勝史蹟四十五佳選』のいきさつが詳細に書かれています。

選定のコンセプトは「新しくして古き歴史とともに拓かれて来た近代県神奈川」は「『武相の天地』が描く『風光の神奈川』」であるが、その存在は「宝の持ち腐れ」であり、名勝史蹟による土地の発展は著しいものがあるのに、「有名地も声なくしては忘れられてゆく」のであり、そこで「欲求するものは『世に出す機会』である」というものです。
地元では有名だけれども、外部にはあまり知られていない名勝・史跡を新しく発掘し、選定しようという意気込みが感じられます。

この投票は、選定された45か所の名勝・史跡に記念標の建立、10位までに扁額の進呈、紙面上での紹介や絵葉書・写真帳を作製して紹介宣伝することが謳われており、新聞紙上でも報道が繰り返されたこともあって相当盛り上がったようです。

総投票数は実に450?500万票にもなったそうです。凄まじい数ですね。

結果は左表の通り。


当時の「隠れた」人気スポットが良くわかります。
なお、「新しく発掘」という観点から、既に有名な場所の得票が少ないという点も特徴です。
確かに金沢八景・城ヶ島・江ノ島・杉田・箱根・鎌倉宮・鶴岡八幡宮・寒川神社・建長寺・円覚寺・平間寺・總持寺などは入っていないですね。
ちなみに見事1位となった石小屋とは、中津川渓谷のことです。


着目すべきは現在の港南区エリアから3箇所が選定されているということ。

3位 峰の灸(横浜市峰町円海山・239,345票)
27位 永谷天満宮(鎌倉郡永野村・50,729票)
44位 日限地蔵尊(鎌倉郡永野村・35,638票)

凄いですね?


3位の峰の灸っていうのは、円海山にある護念寺です。
古典落語『強情灸』にも登場するほど、江戸時代から「お灸」が有名で、字名を取って「峰の灸」と呼ばれていました。
当時の地図を見ると、かねさわ道(現在の笹下釜利谷道路)田中付近から峰の灸へ尾根道を辿る参道が見られます。
現在は洋光台、港南台の大規模開発、横浜横須賀道路の工事などによって、この参道はほとんど原形をとどめておりません。
20091217-01.jpg
※参道を赤で着色しました。赤丸で囲った卍が護念寺です。
(1/20000地形図「戸塚」・大正10年測図)


 

27位 永谷天満宮は、まさに貞昌院が別当として護っていた貞昌院に隣接する神社で、当時から地元に限らず各方面からの参拝者を集めていたことを伺わせます。
往時の天神山は桜山で、伊勢佐木町あたりの芸者たちがこぞって花見に訪れたそうです。


44位 日限地蔵尊も相当有名だったようで、永野小学校付近から永谷天満宮の脇を通り、上永谷5丁目を抜けて日限山に続く参道は、4の付く縁日の日には参道を人が埋め尽くしていたそうです。沿道には茶店も並び、賑わっていました。
現在は車がやっとすれ違えることができる程の細い道です。
20091217-02.jpg
※参道を赤で着色してみました
(1/20000地形図「戸塚」・明治36年測図)

これらの場所が神奈川の『名勝史蹟四十五佳選』に選ばれたという歴史的経緯は誇るべきことでありましょう。

追記
歴史を紐解いていくことは面白いですね。
今日のNHK『ブラタモリ』は横浜をブラタモリ。象の鼻中華街からのスタートでした!


■関連ブログ記事
高浜虚子一行の永谷村探勝
日限地蔵尊

投稿者: kameno 日時: 2009年12月17日 20:59

コメント: 名勝史蹟四十五佳選

Kameno先生!

前回もそうでしたが、ここまでくると趣味の域を超えて、もはや本職の域に突入しているのではないでしょうか!

いやいや、暗に我々に更なる社会性を課すお諭しなのでしょうか(笑)

ともあれ、やはり今回も脱帽ものです!

投稿者 叢林@Net | 2009年12月19日 00:00

叢林@Netさん
縦横無尽に絡み合う歴史を紐解く作業は興味ある地点から掘り下げていくと面白いですね。
趣味の如く肩肘張らず好きなところから入っていくと楽しさ倍増です。
「ブラタモリ」のようなスタイルがいいですね?
私の場合、これを職業としたらきっと長続きしないような気がします。

投稿者 kameno | 2009年12月19日 17:54

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