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最近の新聞を見ていると、「お詫び広告」のオンパレードです。
企業だけではありません。
人生の日送りにおいても、大小にかかわらず、過ち、罪(つみ)・科(とが)は無数にあります。
もちろん、私自身にも過ち、失敗はたくさんあります・・・
今日のトピックスでは、「失敗まんだら」をご紹介いたします。
「失敗まんだら」は、独立行政法人科学技術振興機構(以下、JST)から一般公開されているデータベースです。
これまでも、失敗に対処するマニュアルや安全マニュアルなどは、企業ごとに持っていたはずです。
けれども、それは活かされているとはいえない。
なぜなのだろう。
それは、これまでのデータベースは、「事態を収拾させるための手法と、責任者追及のことについては詳細な記述があるが、事前にその内容を知りたいと思う構造にはなっていない。ましてや他分野の人は目にすることもない」からです。
「失敗まんだら」は、単なる事故事例データベースではなく、過去の失敗事例を分析し、そこから教訓を抽出し、知識化し共有する事で活用できることを目的にしています。
そして「失敗まんだら」の一番の目的とするところは、「失敗を単に防ぐためだけではなく、失敗そのものの性質を正しく知り、失敗という貴重な体験を活かす」というところにあると言えます。
それは次のような記述から見て取れます。
■失敗表現の構造化の必要性さまざまな失敗が多発する最近の日本を見ていると、まるで失敗のオンパレードである。なぜこのような失敗が多発するのか? そしてその失敗を起こさせないようにするためにはどうすればいいか? さまざまな組織や人が、この種の失敗が起こらないようにと一生懸命考え行動している。その最も一般的な例が失敗事例集、不具合事例集、事故事例集などを作ることである。そして まじめな企業、組織はどこも懸命にこの種の失敗事例集を作っている。しかしそれらは少しも生かされていない。 失敗事例集を作る者から見れば、十分にそれが仕事の中に生かされ、失敗を未然に防ぐことを期待しているのに、それらが生かされず同じ失敗が繰り返されるのはなぜだろうか? その原因の1つは"失敗知識の伝達"がうまくいっていないことである。
普通、世の中では失敗を原因と結果の2つに分けて考えている。
原因があり、その結果として失敗が出来すると考えるのである。これは単純で理解しやすいために誰もが受け入れるものであるが、大きな欠点がある。原因があれば必ず結果が生じるのか、それとも原因があっても結果に結びつかないものがあるのか、という点について考えていないからである。この考え方に従えば、原因さえ取り除けば結果が起こらないことになる。そうだろうか? 多くの場合この程度の理解で失敗に対処しようとすること自体が、失敗を繰り返すことになっているのではないだろうか?
失敗出来の時系列的な進行を見てみよう。
目に見えるのは目の前で起こっている現象だけである。そして目に見えないのが原因と背景である。失敗が失敗として表に現れ、現象の進行に対して人間が対処する。ここで現象と対処を合わせて結果と考えることができる。また、その失敗が起こった後に、これに関連してさまざまなことがらが起こる。これを記述するのは"後日談"である。
以上をまとめて 失敗知識を生かそうとする人が最も受け入れやすい失敗出来の表現方法(文脈)を考えよう。
まず"事象"としてひとことでいえば、どんな失敗が起こったのか、次いで"経過"として時間の経過とともに どう進行したか、"原因"として どのような推定原因であるとそのとき感じたのか、さらに"対処"として それにどう対応したのか、の4つをこの順番で記述する。そして"総括"としてこれをその場でまとめてしまう必要がある。
この5つの項目を敗を学ぼうとして人は実際に生じている失敗出来の全容を理解することができる。
いったんこのように纏めた後に その失敗から何を学ぶのかを抽出する、言い換えれば、失敗を生かそうとする人に伝達するための知識化を行う必要がある。すなわち、この総計6つの項目が失敗表現の最低限の項目である。なお、失敗の出来は1つのシステムとして見ることができる。
科学や工学では、何かの現象が起こったときにその全体系を、1つのシステムと見て、それに何らかの入力があるので出力が出ると考え、3つの要素で考えている。ことばを替えて言い直せば特性を持ったシステムがあり、そこに要因が入ったときに結果が出てくると考える。工学上の具体的なシステムでは、システム自体も入力・出力も目に見ることができるが、"失敗"をシステムとして見る場合に皆の目に見えるのは結果だけであり、その前の特性と要因は見えないものである。そこで"失敗"をシステムとして見る場合には、これら2つを結果の方から推測・推定し、事実に合うという検証を通じて特性と要因の"同定"を行うのである。このようにして、いったん"特性"の同定が行われた後は"失敗"を見るときに、まず"特性"があり、要因が入るために結果が出ると考えることになる。特性と要因を結び合わせたものが、失敗を原因と結果との2つで見る通常の見方における"原因"となる。
実際に失敗が出来し、その結果から逆算して特性や要因を同定する場合、もう1つ大事な要素が抜けていることが分かる。"制約"を加味した失敗の構造である。
ある特性を持っているシステムがあり、要因がそこに働きかけるが、実際にはこの特性は何かの制約を受けており、その結果として失敗が出来すると考える。このような考え方をする場合、通常の表現では特性と要因を原因とし、制約は"背景"として記述されることが多い。
(JSTのサイトより引用、下線部はkameno付記)
「失敗まんだら」は、まず失敗の原因、行動、結果を分類・体系化し「失敗まんだら」を作成することから始まります。
失敗のシナリオは 「原因」→「行動」→「失敗」 と進むと考え、それぞれを「まんだら」として、合計3つのまんだらとして図式化していきます。
■原因まんだら = 失敗の原因を2つのレベル(第1レベル10個,第2レベル27個)に分類
■行動まんだら = 失敗のにいたる行動を2つのレベル(第1レベル10個,第2レベル24個)に分類
■結果まんだら = 失敗の結果を2つのレベル(第1レベル10個,第2レベル29個)に分類
そして、次に脈絡による具体的表現を行います。
時系列の要素を加味し対角線図を作成。必要に応じてコメントを書き加えていきます。
このように纏める事により、縦方向には原因・行動・結果という全体の脈絡の進行を見渡す事ができます。
また、横方向には、時系列的な感覚でまんだらの言葉を読み取れます。言葉の羅列を見るだけで、読み手に、文脈と内容が簡単に、正確に伝わるのです。
一つ一つの事例についてどのように知識化されているかをみていくと、そのあたりがよく判ると思います。
「失敗まんだら」で、これまで利用者に多く閲覧された失敗事例のランキング上位は次の通りだそうです。(2007年3月分)
(1) 御巣鷹山の日航ジャンボ機の墜落
(2) 大阪千日デパートビル火災
(3) 名古屋空港で中華航空140便エアバスA300-600Rが着陸に失敗炎上
(4) JCOウラン加工工場での臨界事故
(5) ニューヨーク・ツインタワービルの崩壊
(6) タイタニック号沈没事故
(7) 建設現場の墜落災害―安全帯の不適正使用に起因する事故
(8) 深海無人探査機「かいこう」行方不明
(9) 三菱自動車のリコール隠し
(10) スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発
(11) 富士通ハード・ディスク・ドライブ不良問題
(12) 余部鉄橋列車転落
(13) スペースシャトル・コロンビア号の帰還失敗
(14) 原子力発電所の配管破裂で蒸気噴出
(15) 合図ミスにより、列車を停めた
(16) みずほフィナンシャルグループ大規模システム障害
(17) 韓国ソウル聖水大橋の崩落事故
(18) 北陸トンネルでの列車火災
(19) 日比谷線の列車脱線衝突
(20) H-2Aロケット6号機打上げ失敗
特に、各事例についての「知識化」の項目を見てみるだけでも、とても参考になります。
たとえば、2002年に発生した「原子力発電所のトラブル隠しに」対しては次のように知識化されています。
最近、またトラブル隠しが発覚しているところですが、残念ながら過ちを繰り返すという体質は改善されていないようです。その点はとても残念ですね。
以上、一見、事故(トラブル)が規格をつくったかのように見える。しかし、事実は異なる。維持規格の必要性は関係者の間で古くから認識され、1993年頃から規格作成の作業に着手し、2000年に日本機械学会規格として制定された。これが国の技術基準に引用されることは既定方針であったが、実現の直前に原子力発電所のトラブル隠しが発覚したのである。すなわち、維持規格なしの設計・製造規格の適用がトラブルをつくり、トラブルが維持規格の活用を加速したのである。本来、規格は事故が起きる前に、未然に防ぐためにある。しかし、事故が起きなければ対処できないのが現実である。大きなダメージを経験しなければ、ものごとは変わらないというのが、すべての分野における日本の体質のように思える。
これに対処する方法は、法規制の性能規定化と民間規格の活用以外にない。法規制のみでは安全は確保できない。ものづくりに限定すれば、事業者は自分達で規格をつくり、自分達で規格を守る。これが安全の確保の王道である。
そして、これらを参考にして、自分の経験してきた過ち・失敗についても、「失敗まんだら」で冷静に分析してみることもは、とても意味のあることだと思います。
まずは過ち・失敗を起こさないようにつとめること。
それでも起こしてしまった自分の過ちは、その過ちに気づき真摯に反省すること
他人の起こした過ち、あるいは企業の過ちについてはそれを教訓とすること。
同じ失敗は繰返さないようにすること。
経験した失敗は、活かすこと。
それが大事なことなのでしょう。
「失敗まんだら」
独立行政法人科学技術振興機構のサイト
http://shippai.jst.go.jp/