No.44

峰の色渓の響も皆ながら 吾が釋迦牟尼の聲と姿と
-道元禅師『傘松道詠集』より-

最近CMなどでよく耳にする「マイナスイオン」という言葉があります。 特に、心や身体の健康によい商品として「マイナスイオン」をうたい文句にする家電品が多く販売されているようです。 イオンとは、電気を帯びた目に見えない原子や分子のことで、空気中にはプラスとマイナスのイオンが存在しています。

マイナスイオンは呼吸や皮膚から身体に取り入れられ、血液を通して体全体をめぐり、疲労の原因となる乳酸が生成されるのを抑えます。 そのため新陳代謝が良くなり、細胞の機能を活性化させ、疲労の回復を促進する効果があるそうです。

また、抵抗力も増加し、身体全体のバランスが良くなって、病気にかかりにくくなるともいわれています。 森の中や滝のそばには、マイナスイオンが特に多く存在しています。 私たちが大自然の中に身をおくと感じられる爽快感やリラックス感は、このマイナスイオンの働きによるところが大きいようです。

これとは逆に、日常私たちが使用しているパソコン等のOA機器や、エアコン、テレビ、その他の電化製品の付近は空気が酸化され、その結果として身体に悪影響を与えるプラスイオンが多くなっているのだそうです。

あわただしい都会生活では、谷川のせせらぎに耳をかたむけたり、自然にふれて心を落ち着けたりすることは困難です。 そのため、少し皮肉な感じもしますが「マイナスイオン」つきの家電品が売れるようになったのでしょう。

さて、福井県にある曹洞宗の大本山永平寺では、今年、永平寺を開かれた道元禅師さまの七百五十回忌の大法要がおこなわれ、多くの檀信徒の方々が参拝されました。その永平寺の山門を入るとすぐ右手の築山に冒頭の『峰の色渓の響もみなながらわが釋迦牟尼の聲と姿と」の歌が刻まれた大きな石碑が建っています。

道元禅師は、「四季折々の山の移りかわりも、あたりにこだまする谷川の水音も、すべてそのまま、釋迦牟尼仏のお声を聞き、そのお姿を拝むようで、かたじけなく尊い気持ちがしてならない。この山のあらゆるものは、一木一草に至るまで、仏のいのちを宿し、その光にかがやいている。」とお釋迦さまの教えに託して自然の大切さ、命の尊さ、ありがたさを歌われています。

禅師様がイオンの働きを知っていたとは思えませんが、大自然の中での充実した修行生活から生まれたこの歌が、私たちの心を本当に癒すものを指し示しているように思えてなりません。


解説
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