北方領土とロシアの大油田


ロシアの大統領が帰属権を日本が主張する南クリル諸島を初めて視察

ロシアの大統領ドミトリー・メドベージェフは、クリル諸島最南島の国後島(クナシリ島)を視察した。ロシアの大統領としては、モスクワと東京が1945年からその帰属権論争のため平和条約に署名できない状態であるクリル諸島を初めて訪問したことになる。

近々南クリル諸島を訪問する件については、メドベージェフ大統領は、9月のカムチャッカを訪問した際にも視察の意向を記者団に伝えていた。その時は、夏季の天候ではないため、この試みは成功しなかったが、彼は、「クリル諸島は必ず訪問する。なぜなら、これは我が国にとって非常に重要な地域であるからだ」と訪問を確約していた。この後、日本政府は、南クリル諸島(日本で北方領土と呼ばれている)は自国の領土であり、ロシアの大統領の南クリル諸島の訪問は2国間関係を複雑にしてしまうと言明し、訪問に懸念を表明した。

それに対し対外政策を担当する大統領行政府の情報源は、モスクワではメドベージェフのクリル諸島への訪問は近々の日本訪問に合わせた行動であると考えることが合理的であると言明した。実際、メドベージェフは11月13-14日に横浜でのAPECサミットに参加する計画をしているからだ。

(NOVOSTI通信 2010/11/2)



ロシア側の報道を敢えて引用してみました。
これだけ領土問題で周辺国に付け入られてしまっている現状を、どれだけの人が真剣に考えているのでしょうか。


メドベージェフ大統領が敢えてこの時期に北方領土を訪問した理由は、単にAPECへ合わせた行動というだけではなく、その背景に東シベリアの大規模油田があるように感じます。

 



大規模油田:JOGMEC ロシア東シベリアで試掘に成功

独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は22日、ロシア東シベリアで進めているロシア企業との共同探鉱調査で、可採埋蔵量が1億1000万バレルと想定される大規模油田の試掘に成功したと発表した。この地域での日本による試掘成功は初めて。
JOGMECは探鉱調査の終了後、鉱区で保有する49%の権益を日本の民間企業に譲渡し、将来は日本の自主開発としたい考え。商業生産が実現すれば、太平洋パイプラインを通じて日本などアジア諸国への輸出につながる見込み。
ロシアの石油企業イルクーツク石油との共同調査で大規模な原油埋蔵が確認されたのは、イルクーツク州北部のセベロ・モグジンスキー鉱区。また同州内のザパドナ・ヤラクチンスキー鉱区でガス田、ボリシェチルスキー鉱区で油田とガス田がそれぞれ確認された。
東シベリアでは、イルクーツク州タイシェトと極東ウラジオストク郊外のコジミノを結ぶ全長約4800キロの太平洋パイプラインが14年末の完工を目標に建設中。今後、新鉱区の原油開発が順調に進めば、太平洋パイプラインに供給する主要油田となる。
原油確保を中東に依存する日本は供給源の多角化を目指しており、日本とロシアの両政府は03年1月、ロシア極東、シベリア地域での資源開発分野の協力で合意。JOGMECは07年からイルクーツク州でイルクーツク石油と共同探鉱調査を開始していた。(共同)

(毎日新聞 2010年10月22日)



メドベージェフ大統領が北方領土を訪問した10日ほど前のニュースです。
日本の独立行政法人が資金の約半分を出し、しかも日本の最先端技術を導入して開発された油田です。
ここから、東シベリア・パイプラインをオホーツク海沿岸まで建設し、日本へ安定した資源を供給する計画で、2014年完成を目指しているところです。

一見、喜ばしいようなニュースですが...

メドベージェフ、訪中の一環で一連のエネルギー協定に調印

メドベジェーフ大統領は公式訪中の一環で10件以上の書類に調印する。その中には一連のエネルギー協力に関する協定がある。この旨、ロシア大統領補佐官セルゲイ・プリホヂコが訪問を直前にして発表した。
とりわけ、「トランスネフチ」と中国の国営石油会社(China National Petroleum Corporation, CNPC)との間で、中国への「東シベリア-太平洋」パイプラインのバイパスラインであるスコボロジノから石油パイプラインでの石油輸出の相互協力と実現に関する総合協定が結ばれる。
(NOVOSTI通信 2010/9/27)


なんと、一足先に東シベリア・パイプラインから分岐し中国の大慶までを結ぶパイプラインが既に今年9月に完成、胡錦濤国家主席とメドベージェフ大統領が出席して完工式が行われました。

メドベージェフ大統領は日本よりも中国への供給を優先することを明言しています。

年内にもロシアから中国への原油供給が開始され、供給量については2030年までに年間1500万トンという内容で両国が合意しています。
先に書いたように、日本へ向けたパイプラインの完成は2014年とまだまだ先のことなのに。

image
(画像は産経新聞のサイトより引用)

 

このように、東シベリアの大規模油田油田からのパイプライン建設では中国に完全に先行されてしまいました。
日本の先端技術と膨大な資金を導入して開発したエネルギー資源を、みすみす中国に優先的に取られる構図も現実味を帯びてきました。

シベリアの資源を獲得するために巨額のパイプライン建設資金を提供し、日ロ関係を大幅に改善した上で北方領土問題解決を目論んでいた政府の「甘い」戦略が破綻となった場合、石油資源に対しても、北方領土に対しても、日本の出しうる外交カードを失うこととなります。


その意味で、この時期のメドベージェフ大統領の北方領土訪問は実に強かな戦略だと思えます。
既に北方領土に関しては、日本の経済支援など無くてもロシア側からの経済支援でやっていけるという見込みが立ったわけですから、このまま四島をみすみす返すことは無いでしょうね。
そして、北方領土問題に日本が強く切り出すと、東シベリアの油田の権益とパイプラインの建設に難癖をつけてくるでしょう。
このあたり、よく状況を把握した上で強かに交渉していかないと、中国、ロシアに良いように毟り取られてしまうことになりかねません。

領土問題を先延ばしして良いことは一つもありません。

 


駐露大使 帰任はAPEC後 追加措置せず

ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問したことを受け、日本政府は4日、一時帰国させた河野雅治駐ロシア大使を、11月中旬のアジア太平洋経済協力会議(APEC)が終了するまでロシアに戻さない方針を固めた。一時帰国はロシアへの事実上の対抗措置だが、政府高官は「ロシア側が北方領土に関して新しい動きをしない限りアクションは起こさない」と述べ、新たな対抗措置は講じない方針を示した。
河野大使は3日に一時帰国し、菅直人首相や前原誠司外相らに対し、大統領の訪問の狙いや背景について「2012年の大統領選などを見据え、国内向けにアピールするとの要素が大きい」などと報告した。
報告内容を踏まえ、日本政府は河野大使の扱いについて、少なくとも日露首脳会談を行う方向のAPECまではロシアに戻さない方針を確認。メドベージェフ大統領は歯舞群島と色丹島への訪問を計画しているとされているが、日本政府はロシア側がこうした新たな行動を起こさない限り、政府として一時帰国以上の対抗措置を取らないことも確認した。
一方、大統領が国後島訪問を断行する前に、在ロシア大使館から外務省に対し「大統領は国後島を訪問するかどうか、10月末の東南アジア諸国連合(ASEAN)関連会合でハノイを訪れた際に決断する」と報告があったことも明らかになった。
(毎日新聞 11月4日)


まあ、現状では日本は強く出ることはできないでしょうね。


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北方領土問題解決へむけて

投稿者: kameno 日時: 2010年11月 4日 17:54

コメント: 北方領土とロシアの大油田

国際法上、全千島列島が日本の領土だと言うことがはっきりしています。(千島樺太交換条約)
サンフランシスコ講和条約締結の見返りに、現在の自民党の前身の政党が、CIAの工作資金を受け入れるという密約があるため、日本政府は、領有権を主張できないんです。
つまり、国民に無断で売られたことになります。
この工作資金は、ロッキード事件発覚まで、自民党の金庫に入ってました。

投稿者 ボロ王 | 2010年11月 5日 08:18

ボロ王さま
コメントありがとうございます。
私が学生の頃の地図帳には千島列島の先とサハリンの南半分にもう一つの国境線が引かれていたのですが、いつの間にかその表記も無くなってしまいました。
占守島の戦いで勝利した日本軍が、馬鹿正直に引き上げずに頑張っていたら領土問題の状況は大分変わっていたのかもしれませんね。

投稿者 kameno | 2010年11月 5日 09:26

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