涅槃図を読み解く

涅槃会では、お釈迦様の入滅の様子を描いた「涅槃図」を掲げたりします。
このように、宗教的な物語のある絵画を「説話画」といい、その「説話的絵画」に描かれている内容を解き語ることを「絵解き」といいます。

2月15日の涅槃会に向けて、涅槃図を眼にする機会があると思います。
涅槃図は基本的な決まりごとがあり、その基本から派生した様々なバリエーションがあります。
いくつかの基本を押さえた上でご覧いただくとさまざまなことが見えてくると思います。

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涅槃図は、お釈迦様が誕生されてから入滅されるまでの、いわゆる「八相」のうちの涅槃(入滅)を主題としています。

ブッダガヤの菩提樹の下、悟りを開かれ(成道)後45年間に亘る各地での説法を終え、いよいよ死期を迎えたお釈迦が沙羅双樹の下に牀座を設け、静かに臨終の時を迎る情景です。
■入滅されたのは旧暦2月15日とされますから、上空には満月が描かれます。
■空には忉利天から降下した釈尊の生母、摩耶夫人がお釈迦様をお迎えに表れます。
■牀座の周囲には八本の沙羅の木。これは八正道を表すとされています。
■沙羅の木は時期はずれの花を咲かせ入滅を悲しみます。項垂れている花が鶴ににていることから鶴林という語が生まれました。
■沙羅の木には釈尊の使用した鉢とも、水を入れた革袋とも言われる袋が掛けられています。
■沙羅双樹の向こう側にはクシナガラの熙連河が描かれます。
■釈尊の入滅を悲しむ弟子、菩薩、羅漢たち。釈迦の足に須跋陀羅(註)尊者が手を掛けます。気絶して倒れているのは阿難尊者。一比丘が水を注ぎます。
■動物たちや虫たちも集まり悲しみに暮れます。描かれる動物たちは時代により変化していきますが52種類(五十二衆)というのが基本となります。


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描かれている動物たちの中で「猫」が描かれていないということがよく話題に上ります。
大抵の涅槃図には猫が居ません。
理由は諸説ありますが、室町時代以前は猫は魔物扱いされ、涅槃図に描かれる五十二衆の中に含まれることがありませんでした。

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ただ、こういうものには必ず例外があるもので、室町時代初期の禅僧・吉山明兆の描く涅槃図には大抵猫が描かれています。涅槃図を仕上げている時に一匹の猫が近寄ってきて、涅槃図に猫が描かれないことを哀れんで、自らの筆による涅槃図には猫を描いたということです。


また、昨年の市仏連涅槃会の会場となった戸塚区R寺様の涅槃図にも猫が描かれています。
こちらは菱川師宣によるものだそうです。
戸塚区R寺様のブログ「さんぜ通信」にリンク


涅槃図を見るにつけ、謎解ときを交えながら、その描かれた背景に思いを馳せることにより仏教への親しみも深まっていくのではないでしょうか。

いくつか謎を箇条書きにしてみます。
是非調べてみてください。


★お釈迦様は北枕であったのか。そうであれば何故か。
★沙羅双樹の沙羅の花ってどんな花か
★十大弟子(舎利弗、摩訶目犍連、摩訶迦葉、須菩提、富楼那弥多羅尼子、摩訶迦旃延、阿那律、優波離、羅睺羅、阿難 諸尊者)は何処にいらっしゃるか
★涅槃図には阿那律尊者が二重に描かれている。何故か。
★お釈迦様が入滅される原因となった、純陀がお釈迦様に供養した食べ物は何か。
★牀座に泣き伏しているのは誰か。
★気絶した阿難尊者を介抱しようとしているのは誰か。
★お釈迦様の足が汚れている理由は何か。
★老女と須跋陀羅尊者が似ているのは何故か(上記註)。
★菩薩、羅漢たちの種類は?
★動物たちがお釈迦様の元に到着した順番は?
★動物・虫の種類は時代により経典によりどのような違いがあるか。


などなど。
一つの絵から派生する興味は尽きないですね。

 



 

お釈迦様が入滅されて2500年。
肉体は滅びても、その教えは世界各地で受継がれて生かされています。
今日の定例坐禅会にも多くの参加をいただきました。

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この時間、大分明るくなってきました。
日の出の時刻が段々早まっていることが実感できます。



■関連ブログリンク

みんな読んでるか?い? (つらつら日暮らし) 
涅槃図 (tera日記) ※こちらにも涅槃図に猫が描かれています

投稿者: kameno 日時: 2010年2月11日 07:16

コメント: 涅槃図を読み解く

今回も興味深い記事でした。
この時節は涅槃絵の話題が僧俗問わず出ることが多いので参考になります。

>描かれている動物たちの中で「猫」が描かれていないということがよく話題に上ります。

恥ずかしながら、初耳でした(汗)

因みに、足下の老婆がスジャータだという説も耳にしますが、典拠はあるのでしょうか?

投稿者 叢林@Net | 2010年2月11日 17:12

叢林@Netさま
涅槃図の典拠となっている『涅槃経(大般涅槃経)』『遊行経』『佛般泥洹経』『摩訶摩耶経』などなど・・・
その拠り所とする経典により、時代により、また絵師により様々なバリエーションがありますね。
なぜこの涅槃図ではこのように描かれているのか、その原点を探ることは楽しいことだと思います。

投稿者 kameno | 2010年2月11日 22:58

kameno 様

涅槃会があちこちで始まりましたね。
昨日まで真っ白だったのに気がつくと地面が顔を出しています。春の足音が聞こえます。
分かり易い涅槃図の説明ありがとうございます。
これだけのことを知って涅槃会をお参りすれば楽しみですね。
私は昨年買った「よくわかる絵解き涅槃図」と「絵解きシリーズ釈迦涅槃図」のDVDで勉強しました。謎はだいたい分かりましたよーーー。

投稿者 ゼラニウム | 2010年2月13日 08:44

ゼラニウムさん
涅槃図の謎、是非周りの方々に教えてください。
仏教への親しみや理解はこういうところから広がっていくのだと思います。
真っ白の雪の中、ところどころに見える黒い地面は春の足音ならぬ「春の足跡」なのかもしれないですね。

こちら横浜は、一転冬に逆戻り、雪が舞い降りています。

投稿者 kameno | 2010年2月13日 09:34

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