いつまで待たされるのか

私たちは日常生活の様々な場面で待たされます。
特に年末年始、お盆など人が特定の場所に集中する場合はなおさらですね。
渋滞に出くわしてしまい、行列の末尾に並ばざるを得ない状況になった場合に、まず何を考えるかというと「いったいどれくらい待たされることになるのだろうか」でしょう。


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このように待ち時間を表示している場合もありますね。
待ち時間が判ると、その行列の先に到達するべき重要度と照らし合わせて並ぶか並ばざるかをより早く判断することができます。

このような表示が無くても、どれくらい待たされるかを簡単に計算する方法があります。

・まず、概算で行列に何人並んでいるかを見ます・・・・a人
・とりあえず数分間行列に並んでみます・・・・・b分
・数分後、自分の後ろに何人並んだかを見ます・・・・・c人

⇒あなたは、a/(c/b) 分後に行列の先頭に到達するでしょう。


これだけです。

一枚目の写真で示した320分の待ち時間は、イベント主催者が目安として設置しているものですが、もし上記計算結果と乖離した待ち時間となった場合は、往々にして計算で出したほうが正確だったりします。


この計算方法は、待ち行列理論の基礎に出てくる「リトルの法則」を適用したものです。
管理工学などでは(平均WIP)=(平均CT)×(平均TH) などという表現の公式もありますね。懐かしい!
 


リトルの法則 (英:Little's law) あるいはリトルの定理(Little's theorem)とは、待ち行列理論において 安定な系において長時間平均化した顧客数 L (与えられた負荷、offered load)は、長時間平均化した到着率λと、長時間平均化した顧客が系に費やす時間 W の積に等しい、すなわち L = λW という法則である。

本法則は直感的には理にかなったものであるが、対象がどのような確率分布であってもこの振る舞いをするという点と、到着した顧客やサービスする顧客に基づいてどのようにスケジュールするかについて何の仮定も設けない点は特筆すべきである。
最初の証明は1961 年に当時ケース・ウェスタン・リザーブ大学にいたジョン・リトルによって発表された。彼の法則はいかなるシステムにも適用でき、また特にシステム内のシステムに適用することができる。銀行では顧客の列や窓口の係が一つのサブシステムであり、リトルの法則はそのそれぞれについても、全体についても適用することができる。リトルの法則の必要条件は、系が安定していて割り込みがないということのみであり、またこの条件により開始時や終了時などの状態遷移を除外している。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』




つまり、リトルの法則の必要条件として
(1)系が安定している=開店したてや閉店間際でない
(2)割り込みが行なわれない
という条件さえ満たせば、列の系列が1つ1つのサブシステム個別にも適用できるし、システム全体にも適用できる。
また、系への到着率がどのような分布をとっていても適用できるという特徴があります。
 

 

初詣には永谷天満宮にも長い列ができていました。

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人それぞれ願い事は異なります。
長い時間お願いする方もいらっしゃるでしょうし、短い方もいらっしゃるでしょう。
願い事が人それぞれだとしても、リトルの法則を使えば、自分があとどれくらいの時間で本殿前に到達できるかが簡単に計算できるわけです。
どれくらい待たされるか判るということは、「イライラ」を無くすことにも繋がりますし、待つという行為自体を楽しむ元にもなりますね。

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■蛇足
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貞昌院では、大晦日に除夜の鐘を一般の方に撞いていただいています。
この系を考えると、梵鐘は一つしかないわけですから一度に一人しか鐘を撞くことができず、割り込みをするということも考えられないでしょう。

除夜の鐘の列に並ぶ → 順番が来る → 合掌し(偈文を唱え)願いを込めて鳴らす → 退出 という系ができあがります。

しかし、貞昌院の除夜の鐘の場合は少し特殊な条件があります。
それは「鐘の前に時計が置いてあって、時間間隔を守って撞いていただいている」ということ。
そして深夜0時に撞き終わるように調整していること。
また、除夜の鐘の参列者も「紅白歌合戦の進行状況」などによって極端に変動します。紅白が終わりに近づくと、どっと参列者が押し寄せます。

これらによって安定した系とはなっておらず、リトルの法則はこの場合は適用できません。
ただし、行列の待ち時間は 自分より前に並んでいる人数/2 (分) で正確な待ち時間が算出できるということになります。


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■蛇足2

待ち行列をテーマにした以前の記事も併せてご参照ください。

投稿者: kameno 日時: 2010年1月 6日 22:53

コメント: いつまで待たされるのか

この種の記事をKameno先生に書かせたら右に出る者はいないですね!

体育会系に生きてきた自分を少し悔んだ記事でもありました(笑)

今年も宜しくお願い申し上げますm(__)m

投稿者 叢林@Net | 2010年1月 6日 23:36

叢林@Net様
例えば法堂の焼香案内一つでも、参列者をスムーズに導いたり、さりげなく焼香の仕方を伝えたり、そのようなことがサイクルタイムを減少・スループットを増加させ、法要をキッチリ進行させる源となります。
焼香案内係は頭で考えてからそれを実行するのではなく体得しているのですね。
こちらこそよろしくお願い申し上げます。合掌

投稿者 kameno | 2010年1月 7日 07:38

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
待ち行列モデルは、電話網やパケット通信網の設計に欠かせない、トラフィック理論の理論的な基礎にもなっています。
通信工学では、確率分布として、ポアソン分布を使うことが多いようです。

投稿者 礒貝 正 | 2010年1月11日 12:28

礒貝様
こうしてインターネットを使ったり携帯電話を利用したりという日常生活の「縁の下」を支えている重要な技術ですね。
『プログラマのうちあけ話?続・プログラム設計の着想』(J.L. ベントリー著)などは、このあたりを判りやすくまとめている良著だと思いました。

投稿者 kameno | 2010年1月11日 13:48

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