氷は水に浮く

大寒を境に気温がぐっと下がっています。
本堂の屋根からの水を受ける天水桶や、玄関の手水鉢も、夜半過ぎの放射冷却現象により見事に凍っています。

水は0度以下になると氷になりますが、その氷は水に浮き、表面から凍っていきます。

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この、当たり前のように見える現象っていうのは、実はとても特異なものであり、この特異な現象によって私たちが生存することができるといっても過言ではありません。

氷が水に浮かぶという性質がどれだけ特異かというと、他の物質で個体が液体よりも比重が軽く、液体に浮くというものがどれくらいあるかを調べてみると分かります。
ほとんどの物質は個体の状態のほうが密度が高くなります。


では、なぜ氷が水に浮くのか。

簡単に言うと、液体の水は、単に水の分子が集まったものではなく、水の分子同士が「水素結合」によって束縛しあう結合状態を形成しています。
この水素結合が水の特異性を生み出す大きな要因でもあるわけです。
水素結合は水と水の分子間の距離と、分子の方向により強さが変化します。

なぜならば、水の分子の形は酸素原子の両側に水素原子が1個ずつ結合しているわけですが、その並び方は直線ではなく酸素原子を頂点に水素が約104度の角度で曲がって結合しているからです。「く」の字型の分子になっています。

この分子中の酸素原子(マイナス)と水素原子(プラス)が引き付け合い、水中の隣の水分子同士でも、酸素と水素が引き付けあいます。
よって、水の中では緩やかな水素…酸素―水素…酸素―水素… という、いわゆる網目状の結合が出来て塊になります。

水が氷になると、完全な水素結合として分子は規則正しい格子状に配列されますが、氷の分子配列は、正四面体型局所配置をとり、それが秩序化するにしたがって隙間が大きくなります。
立体的にみると六角形の網目状構造となります。雪の結晶が六角形を基本としているのもこの構造に影響されます。
とても隙間だらけの構造であるために、水から氷になるときには10%程度体積が増え、密度が減少します。

逆に、氷が融けて水になる時には、完全だった水素結合が部分的に切れて自由になった分子が分子間の隙間を埋めるために体積が減少し、密度が増加します。

液体である水も、水素結合のために他の物質とは大きく異なる性質をもちます。
例えば、液体の状態での密度は、4℃の時に最大となりますが、この性質は生物にとって非常に重要な意味を持ちます。
また、氷⇒水⇒水蒸気という状態の変化点である融点、沸点についても、水は他の物質に比べて際立って高い温度を示します。


氷は水よりも軽いですから池や海の水は表面から凍ります。
水中は表面の氷により層を作られているため、凍りにくくなり、さらに最も密度の高い4℃の水が水底に溜まります。
しかも、水は比熱が大きく、温まりにくく冷えにくいという性質も兼ね備えています。
水底まで凍ってしまうということは、余程のことがない限りありません。
水中の生物たちは、水底にいれば、死滅を免れることができるわけです。


水の特異な性質の主なものをいくつかまとめてみました


■氷が水に浮く(固体状態の方が液体状態よりも密度が低い)
■密度変化が他物質と逆(水は4℃以下では温度の低下により密度が減少する)
■氷は?210℃以下で温度の低下により密度が減少する
■融点が高い
■沸点が高い
■表面張力が大きい
■粘度が大きい
■気化熱が大きい
■比熱が大きい
■水は様々な物質をよく溶かす。

普段当たり前と思って眺めている光景が、実は特殊な現象であるわけで、実に不思議ですね。
水は、地球上の自然の状態において気体・液体・固体の状態をごく当たり前に見ることができます。
地球上の生物は水により、もっと言えば水素結合の存在により生かされてきました。
ごく当たり前に見られる特異な性質に感謝したいものです。

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手水鉢のメダカも池の鯉も、今日も元気に泳いでいます。

投稿者: kameno 日時: 2008年2月10日 10:25

コメント: 氷は水に浮く

>4℃の時に最大となりますが、この性質は生物にとって非常に重要な意味を持ちます。

なるほど、個人的には「様々な物質を良く溶かす」が有難いです。焼酎のお湯割りが飲めるのも、水の特殊なせいしつのおかげですね。

投稿者 うさじい | 2008年2月11日 05:55

うさじいさま
水が様々な物質を溶かすという性質は諸刃の剣で、有害物質もよく溶かすため、食物連鎖を通して蓄積してしまうという弊害もあります。
それはそうと、個人的には役所時代に先輩から教わった出汁昆布入りの焼酎お湯割が気に入っています。

投稿者 kameno | 2008年2月11日 09:09

水の特異な性質として挙げられている点のほとんどが、電気双極子モーメントが大きい(+電荷と−電荷が離れている)という水分子の性質に由来する、というところが面白いです。
もう1点、電気双極子モーメントに起因する性質を加えるなら、電磁波との相互作用が強いこと、が挙げられるでしょう。赤外線を吸収・放射するために温室効果をもたらし、地表面を住みやすい温度に保っています。電波も吸収・放射するので、電子レンジで水分を含むものを暖められます。

投稿者 Seiji | 2008年2月11日 19:24

Seijiさん
酸素側がマイナス、水素側がプラスの電荷を持っている分子構造で、しかも直線でなく「く」の字型ということがもたらす特徴ですね。
とにかく、水がなければ地球は極端に寒暖の激しい星となっていたことでしょう。
電子レンジで水分は暖められますが、氷を暖めることは困難であると言う点も面白いです。

投稿者 kameo | 2008年2月12日 00:03

透明な氷を作るにはということで、子供が自由研究でいろいろやっていましたが、結局透明な氷は無理でした。真ん中に残る白い物は何か?と言う疑問が残って今期終了しました。
もしかして白い物は網目状の隙間なのでしょうか?

投稿者 ゼラニウム | 2008年2月13日 09:02

ゼラニウムさん
白く残るのは水中の空気だと思います。
これを如何に無くし、透明な氷を作ることができるか、それは難しいですね。
ポイントは
・純度の高い水を一度沸かしてから使う
・非常にゆっくりと凍らせる
・水を動かしながら凍らせる
というところでしょうか。
透明に作られた氷は結晶がしっかりとしているので、融け難い氷となります。
是非再挑戦してみてください。

投稿者 kameno | 2008年2月14日 02:41

亀野先生ありがとうございました。

やっぱり空気だったんですね。
透明な氷りは融け難いんだ!
だからお店のアイスコーヒーは飲んだ後、氷だけが沢山残るんですね!
純度の高い水を沸かすことで水はどう変化するのでしょうか?
すみません。教えてください。
昨年の夏は冷凍室が氷で一杯になりました。
今年の夏、パート2で再挑戦する根気に期待したいものです。

投稿者 ゼラニウム | 2008年2月15日 09:25

ゼラニウムさん
一度沸かすということはとても意味があります。
鍋などで水を温めると、80度あたりから細かい空気の泡が出てきますが、それは水に溶け込んでいた空気です。
ですから、空気を追い出すことによって透明な氷を作ることができます。来年の挑戦を楽しみにしています!

投稿者 kameno | 2008年2月15日 10:59

初めまして。
西大寺の大茶盛を検索していてこちらに出会いました。
ふきのとうのお写真に始まり、ライブラリーも拝見させていただきました。
きれいなお写真ばかりですね。心が休まります。
普段、雪の降らない地方に住む私にとって、特に雪の日は、白い風景を目に収めようとうずうずします。
地球温暖化を懸念しつつも、今年は、満足がいくほど雪の画を撮ることができました。
関心致しますのは、きっとご多忙ですのに、こまめに更新をなさっておられること…
これからも、楽しみに致しております。
ありがとうございました。

投稿者 さゅ♪ | 2008年2月28日 14:23

さゅ♪さん
コメントありがとうございます。
そうですか、大茶盛のワードでお越しになったのですね。
何かの縁です、これからもどうぞよろしくお願いいたします。
写真は季節の花の写真を中心に撮っています。
今後も皆さんの心を和ませるような写真をご紹介していきたいと思います。

投稿者 kameno | 2008年2月29日 05:12

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